今や「ミシュランガイド」にも星付きで取り上げられる店も続出する焼き鳥

これをつまみに一杯飲めば、おサイフにも優しく、満足感のある時間が過ごせる――。働く男たちにとってそんな頼もしい存在が、焼き鳥だ。

焼き鳥はその親しみやすさゆえにデートや接待には不向きだと思われている。しかし、そのイメージは間違い! 今や「ミシュランガイド」にも星付きで取り上げられる店も続出するなど、焼き鳥の世界は安くてうまいだけじゃなく、幅広いニーズに応えられるように進化しているのだ。

元『料理王国』の編集長で、現在は食を幅広く取材する編集記者の土田美登世さんが解説する。

「『ミシュランガイド東京』は2007年に初めて刊行され、その3年後に焼き鳥屋が星を獲得します。これは地鶏や銘柄鶏の出現で、焼き鳥が一品料理として認められたのが一因でしょう。地鶏や銘柄鶏の育成・出荷までの期間は、ブロイラーと比べ、短くても1.5倍以上の時間と手間がかかります。ブロイラーは鶏がまだ若いうちに出荷するため、肉が柔らかく、素人でも簡単に扱えます。

しかし地鶏や銘柄鶏は、成長している分、肉質が固くなりやすく、ジューシーにおいしく焼くには職人の技が必要です。そういった、ひと串に込められた料理技術が評価されたのでしょう。最近はフレンチ出身のシェフによる焼き鳥屋さんもありますし、ワインを合わせることも増えました。肉質の向上に合わせて、食べ方も多様化しています」

そもそも、焼き鳥の定義はあるのだろうか?

「戦前はスズメやツグミなどの野鳥を焼いたものも“焼き鳥”として食べられていました。また、大正時代から1960年代頃までは、牛・豚のモツが安く大量に手に入ったので、鶏肉ではなくても“ヤキトリ”という名前が使われていたんです。そのため、今も全国各地に、牛や豚の串を“ヤキトリ”と呼ぶ地域が存在しますし、『広辞苑(第6版)』にも『鳥肉に、たれ・塩などをつけてあぶり焼いたもの。牛・豚などの臓物を串焼きにしたものにもいう』とあります。

このように明確な定義が存在していないこと自体が、焼き鳥が庶民の生活の中に根づいてきた食べ物だということがいえるでしょう」(土田さん)

美味しい焼き鳥店の見分け方は?

ところで、焼き鳥屋ではよく「塩にしますか、タレにしますか」と聞かれる。これはどちらで食べるのが正しいのか?

「個人の好みでOKですが、目安として、内臓系はタレ、肉系は塩と考えてよいかもしれません。特に地鶏や銘柄鶏など、新鮮なお肉の味をシンプルに楽しむには塩が向いています。とはいえ、串をタレにどぼんとつけて焼く店では、焼いた肉の数だけエキスがタレに混ざっていくので、お店ならではの味を感じるにはタレがオススメ。

弟子がのれん分けをする時に師匠から伝統のタレを分け与えてもらう習わしのところもあり、タレこそがお店の個性を支える決め手ともいえます」(土田さん)

ところで、焼き鳥を食べる時に「串からほぐす」人もいるが。このほうが食べ方として上品なのか?

この疑問には、業務用鳥肉卸を明治5年から続ける「とりすえ」の5代目で、日本の焼き鳥業界に精通する山口勝憲さんが答える。

「ほぐさないほうがいいです。ほぐすと、せっかくのジューシーな肉汁がお皿の上に流れてしまいます。出てきたらすぐに頬張って食べるのもポイント。ですから、ひとり1本単位で頼むのがベストです」

串に刺さっているからこそ焼き鳥というわけか。最後に山口さんと土田さんのおふたりに美味しい焼き鳥の店の見分け方についても伺った。

「焼き台の周りがベトベトしておらず、きれいなお店。焼き台が汚いと、油のニオイが蓄積してイヤなニオイが串にもついてしまいます」(土田さん)

「焼き方のスタイルを見ること。焼き台に串を乗せっぱなしで放っておくようなところは避けたほうがいいでしょう」(山口さん)

庶民からセレブまで、日本人の胃袋を満たし続ける焼き鳥ワールド。これからも僕らの頼もしい味方でいてくれるに違いない。

『週刊プレイボーイ』42号(10月5日発売)では、さらに“食べる順番”から“地鶏と銘柄鶏の違い”他、Q&Aで焼き鳥を大検証。そちらもお読みいただきたい!

(取材・文/赤谷まりえ)