順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科の先任准教授の辻村晃先生に「精子を元気にするための10ヵ条」を聞いた 順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科の先任准教授の辻村晃先生に「精子を元気にするための10ヵ条」を聞いた

最近では、不妊の原因が男性側にもあるというのは知られてきている。

1998年に世界保健機関(WHO)が調査したところでは「女性に原因」が41%、「不明」が11%で「男性に原因」が24%、「男女ともに原因」が24%と、実に50%近くが男性側の原因だというのだ。

卵子は加齢とともに質、量ともに低下し、妊娠しづらくなることが広く知られているが、精子はどうなのか? そして問題がある男性はどうすれば?

そこで、男性のブライダルチェックが受けられるメンズヘルスクリニック東京で診察を行なう「男性妊活」の専門家で、順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科の先任准教授の辻村晃先生に話を聞いた。

前編(意外と知らない睾丸の大切さ)では、睾丸が作り出すテストステロンと精子の関係などを伺ったが…。

■「約1割が精子に問題あり」という現実

今、無精子症の男性は、ほぼ100人にひとり。非閉そく性と閉そく性に分けられるが、それぞれ違うタイプの手術を行なうことによって、妊娠させる可能性はゼロではないという。

このような、トラブルがないのに精液検査を行なって精子の数が少ない、もしくは運動率が悪いという人は、同クリニックでは全体の7~8%。無精子症の人を合わせると、約1割が精液所見(精液中の精子の数や運動率や形などを調べる検査)に問題があるといえる。

ということで、いよいよ本題――。辻村先生に「精子を元気にするための10ヵ条」を聞いてみた。

まず、大事なのは生活習慣の改善だという。

(1)ウォーキングなどの軽めの運動 (2)1日3食、バランスのとれた食事 (3)1日7時間程度の長さで、決まった時間に就寝、起床する睡眠

これら3つが大原則。運動をあまりせずに肥満傾向にある人は、総じてメタボである、血圧が高い、糖尿病である、コレステロール値が高い…といったことに当てはまる。そういう人は精液所見が悪くなるからだ。体をシャープにして精子も元気にする必要がある。

食事は肥満傾向を防止するとともに、規則正しい生活リズムにつながる。睡眠も同様だ。栄養のバランスが悪い、睡眠時間が短い、睡眠をとるタイミングが日によってバラバラな人は、いずれも精液所見が悪い。

また、亜鉛が含まれる牡蠣やピーナッツを食べると、精巣機能が上がるとされている。ビタミンC、ビタミンEなど抗酸化物質が多く含まれる食べ物を摂るのもよい。

スマホを尻ポケットに入れている人は要注意?

■スマホを尻ポケットに入れている人は要注意?

逆説的ではあるが、以下のことも精子を元気にするためには気をつけたい。

(4)長風呂をせず、長時間のサウナも避ける (5)下着はピチッとしたブリーフよりも通気性のあるトランクス (6)パソコンを膝の上で使わず、ズボンのポケットにスマホを入れない

いずれも、睾丸を温めると精巣機能が下がるためだ。

「スマホを胸のポケットに入れるか、お尻のポケットに入れるかで精液所見を比べた調査があります。するとお尻に入れている人のほうが結果は悪い。こういうことをまじめに研究しているグループもあるんです」(辻村先生)

(7)自転車、バイクに長時間乗らない

近くに買い物に行く程度なら問題ないが、乗り続けると血流や振動の問題で勃起しづらくなる。またサドルで圧迫した姿勢が続くと睾丸の状態が悪くなる。

(8)深酒しない (9)喫煙をやめる

度を超した飲酒や喫煙は、がんや生活習慣病などにマイナスの影響を与えるが、これは精子にとっても同じ。精子数や精子の質に悪影響を及ぼす。

そして、10か条の最後はこれ!

(10)まめに射精をする

禁欲期間はあまり長くせず、適宜、射精をすること。ただし、毎日射精していると精液中の精子が少なくなるなんてことは…?

「はい、当然少なくなります。禁欲期間については専門家の間でも意見が分かれるところなのですが、7~8日空けると精子数が増えるというデータがあります。一方で3~4日以上、射精しないと精子の質が悪くなるという研究結果もあります」(辻村先生)

何日間の禁欲がベスト…?

“射精ローテ”にまだ正解はないようだが…。ゆえに、何日間の禁欲がベストと断言するのは難しいが、辻村先生はこうも言う。

「少なくとも何週間も射精しないという状態は精子を劣化させます。性行為の回数が世界一少ない日本人が、射精を怠っていると精子の質の面からも不妊症を招くことになるといえますね。射精はマスターベーションでもセックスでもその差はありません」

これらのことに気をつけておけば、よりよい精子に変えていくことができるというわけだ。

「精液所見はストレスに影響され、値を悪くすることもわかっています。心身ともに健やかに規則正しい生活を送るということが大事なんですね」(辻村先生)

男性不妊に打ち勝つには、規則正しい生活リズムと適度な射精。ネットニュースばかり夜中まで携帯で見ている、そこのあなた! 毎日の生(性)活を改善していくべし?

(写真/永澤真奈、取材・文/栗秋あや)

■辻村 晃(つじむら・あきら) 順天堂大学医学部附属浦安病院 泌尿器科 先任准教授 メンズヘルスクリニック東京 男性更年期専門外来、男性妊活外来担当。兵庫医科大学卒業。国立病院機構大阪医療センター勤務後、ニューヨーク大学に留学し細胞生物学臨床研究員を務める。大阪大学医学部泌尿器科准教授などを経て、順天堂大学医学部泌尿器科学講座先任准教授。特に生殖医学、性機能障害の治療に注力し、不妊に悩む数多くの夫婦を助ける。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療指導医でもある