マシンは事務イス! イスに乗って2時間耐久レースに挑む参加者たち

事務イスを使ったレース「いす―1GP(グランプリ)」が今、アツい!!

事務イスとは多くの人が想像するアレだ。普段、仕事中に座っていたり、中には仮眠をとるのに並べて使う人もいるかもしれない。

しかし、そんな使い方ではなく、“コロコロ動く”機能をフル活用し、事務イスに乗って走るーーそれが「いす―1GP」なのだ!

レースは90mの直線の両端に折り返しのコーンを置いた特設コースを、マシン(事務イス)に乗り、制限時間内に何周走れるかを競う真剣勝負。個人が1時間、3人1組のチーム戦は2時間の長時間耐久レースとなる。マシンの乗り方は自由だが、両足で蹴って、後ろ向きに進むのが普通だそう。

「いす―1GP」の発祥は京都府京田辺市のキララ商店街。2010年から毎年3月に開催され、新たな恒例行事として人気を博している。さらに長崎や徳島など他の地域でも行なわれ、年々増加! ついに今年10月には首都圏でも初開催というわけで、現場へ行ってみた。

首都圏初進出となったレースは、24日、25日に行なわれた「第5回コスギフェスタ」。その目玉イベントとして採用されたのだ。同イベントの実行委員長は、

「今、武蔵小杉は開発が進む中で、昔から住む人と最近引っ越してきた人が入り交ざっています。そうした人同士が一緒になれるイベントを考えていたんですけど、ヴィジュアル的に目を引く『いす―1GP』を見て、コレだ!と思いました」

と企画のきっかけを語る。

25日にはチーム戦が行なわれ、事前募集では23組がエントリー。しかし同日の新橋大会に出場しようとしていたチーム「座ろう‘S」が、新橋では企業参加のみと現場で聞き、急遽、武蔵小杉まで駆けつけ滑り込みエントリー。計24組の参加となったが、大会は始まる前からドタバタ…。

何はともあれ、集まった24組にはルパン三世のコスプレをしたり、黒タイツで顔まで黒く塗ったブラックチームもいたりと、お祭り気分。参加者の多くは、「やっと関東でも開催されて出場できました」「今日は茅ヶ崎から電車でイスを担いできました」など意気揚々、参加できた喜びを語る。当然、みな楽しそうな笑顔だ。

スタートするも…早々に弱音が

チェッカーフラッグとともに、いっせいに事務イスで走り出す!

そして、レース開始。この日を待ちわびた24人の第一レーサーたちがコースに並ぶ。

チェッカーが振られ、ついにスタート!…が、いきなりの大混戦。普段、座るだけで、走るとなると操縦が利かない様子。折り返し地点ではうまく回れずにクラッシュ(転倒)するものも現れ、見物客らは大爆笑。

波乱の幕開けとなったものの、あとはひとすら走るだけ。実況席からは「いすー1GP」スタッフによる解説も入る。「皆さん、ちゃんとイスの高さを調整していますかね、これが大事なんです」「コースの路面がカマボコ型。両サイドは地面が低いので道の中央を走ったほうがいい」などアドバイスが送られるたびに参加者たちは調整へ。

しかし、様子が変わってきたのは、レース開始から30分後あたり。選手たちの顔から明らかに疲れが見え始めたのだ。ピットで選手交代を行なった選手たちはこう語る。

「普段、フルマラソンはもちろん、100kmマラソンとかも参加してるんですよ。でも、俺の足から悲鳴が聞こえてきました。自信あったんですけどね…」

「いつもラクロスやってるんですけど、太ももがヤバいです。こんなことになるなんて思ってもいなかった。正直、舐(な)めてました」

マシンは破損、選手は倒れこむ…最後までもつのか!?

疲れた足が次第にもつれてしまい、クラッシュする選手たち

レース中盤にもなると、シート部分は擦り切れ、タイヤや背もたれからキーキーと音が鳴るなど、マシンもボロボロに…。しかし、それは選手たちも同じだ。ピットでは着くなり倒れ込み、膝をプルプルさせ、立てない選手が増えてきた。「なんで2時間もやるの」という絶望の声も所々から漏れ聞こえる。

さらに、レースも後半に差し掛かろうという時には、「街道にいる観客の声援や笑い声が、こんなに嬉しいと思わなかったです」と感極まる選手まで現れた。ただのおバカイベントなのに…なんて思ってはいけない。24時間テレビのチャリティーマラソンにも劣らない感動を与える、立派なスポーツなのだ。

そして、ついにチェッカーフラッグが再び大きく振られ、終わりを告げる。ようやく訪れた終幕にピットからは大歓声が。最後の1周を走り終えた選手は両腕を広げ、完走の喜びを表現する。そんな歓喜の様子に武蔵小杉の道路が、まるでシャンゼリゼ通りのようにも見えてくる(※シャンゼリゼ通りはツール・ド・フランスのゴール地点)。

偉大なレースの優勝を飾ったのは、113周を走り切ったチーム「座ろう‘S」。当日参加で、まさかの優勝をかっさらったのだ。本人たちは、優勝の秘訣をこう語る。

「新橋から来る途中、急いで相棒の事務イスを購入しました。4千円しましたが、この安さがよかったのかもしれません。副賞でもらった90kgのお米は両親にプレゼントします」

2時間、ひたすら地面を蹴り、事務イスで走り切った選手たち。ほとんどが「ノリで参加したのに…」と途中まで後悔していたものの、最後には「すごい満足感と達成感がある」と、みな明るい笑顔でレースを終えた。

苦しく辛くも、笑いあり涙あり、そして大団円を迎えた「いす―1GP」。全国各地で、増えつつあるが次回、開催される時は是非参加して、その感動を味わおう!

表彰式が終わり、優勝したチーム「座ろう’S」(後列3人)と記念撮影をするコスプレ姿の選手たち

(取材・文・撮影/週プレNEWS編集部)