パリの事件があったことで、各方面から心配のお言葉をいただきました。私は今も無事に旅を続けています。
犠牲者の皆さまにお悔やみ申し上げます。
悲劇のあった場所のひとつは、過去にきゃりーぱみゅぱみゅやPerfume、ワンオク、アジカンなどもステージを飾ったことのあるバタクラン劇場。
先日、パリを訪れた私も、人の大勢集まる主要駅やライブ会場に足を運んでいました。いつどこで自分の身に同じことが起きていても不思議ではなかったなと震えました。
私は今まで世界のニュースをネットやテレビの画面からしか見れていませんでした。しかし旅を初めてから、世界の出来事がより身近に、肌に感じます。
同じ大陸にいるから? 昨日までそこにいたから? そこの国の人と接するから? そこの国をイメージできるから?
理由は様々ですが、平和な日本から見ていたどこか遠くの国で起きている複雑な世界は「いつもすぐそこにあるんだ」と感じるようになりました。
いち旅人としての私は、世界の非常事態に困惑するばかりで実に無力です。ただ、旅をしていると世界で起こる出来事の片鱗を生々しく感じれることがあります。
* * *
ある日、イスタンブールにいる旅友との合流を試みるために今後の旅の経路を考えました。
「LCCを使って空路、複数国を通って陸路、いやギリシャからの海路はどうだろうか…。エーゲ海を船で渡ってトルコに入るなんて、なかなか良い旅路ではないか」
そして地図をたどると、船着き場所はイズミルだった。
それはまだ記憶に新しい9月の出来事。シリア難民の子供の遺体が打ち上げられた港湾都市。
ここは通れない…。
大型ドミトリーで出会った少年たち
ドイツでは、多くの難民を受け入れているが、先日ベルリンの大型ドミトリー宿ではこんなことがあった。
キッチンのフリーフードコーナーにやたら大量にパンが置いてあったので、パン屋でも滞在しているのかしらと手を延ばすと、とある女性に止められた。
「エクスキューズミー。それはキッズの食料なので…」
キッズ…? はて…周りを見渡すと、言われてみたら旅人に混ざって10代と思わしき少年たちがざっと20人以上。
旅人の集まるドミトリー宿といえば、ひとりからせいぜい4人くらいのグループの旅人がほとんどで、大型グループは初めて見た。
「こんにちわ。僕はパキスタン人で名前はナイン。友達のこいつはシャッシ。それからアフガニスタンのカッシャ。他の皆もシリアやアフリカから来たんだ」
彼らは英語が堪能で人懐こく、タブレットで動画を見たりゲームをしたりギターを弾いたりと宿の中で楽しそうに騒いでいた。
パキスタンという国について尋ねるとナインはこう言った。
「僕の国ではみんなが戦っているんだ…。バトルだよ。おかしくなっている。 ヨーロッパはちゃんとしていて好きだよ。来年までいるけどその後はわからない」
そして突然、共同リビングではドイツ語の授業が始まった。真面目な生徒たちを見ていると「留学」という形にも見えるその風景。先生や引率らしき大人に授業風景を撮影して良いか尋ねると、OKという人もいたが最終的に決定権のある厳しそうな女性に「ノー」と言われてしまった。
少年たちがどういう経緯や状態で宿にいるのかは誰も尋ねることなく、彼らよりも大人であろう旅人たちは、その授業風景を静かに眺めながら朝食をとった…。
ところで、ドイツというのはホステル発祥の地でもあることから、居心地の良い大型ドミトリー宿が多い。
そんなドイツの西に位置するケルンのとある宿で、私にこんな事件が…!
とある宿で起こった事件
ドイツで4番目に大きな都市ケルンに「キターーーーーーー!」
駅前0分にズドーンとそびえるケルン大聖堂はそのルックスも美しく、私のお気に入りの場所。
M51(モッズコート)とは違いますが、青島コートな恰好で旅してた私は、衝動買いしたマスタード色のコートに着替え、気取ってドイツの紅葉の中を闊歩。
駅の構内には人気のソーセージ屋、駅周辺にはH&Mからカフェまで手が届くところになんでもある。キッチン付きの宿も駅から3分の好立地と、疲れた旅人を癒す嬉しいロケーション。リラックスして宿のロビーでスマホをいじっていると、背後から男が話しかけてきた…。
「○×△◆☆#$%&?」
ん? ドイツ語かいな? 私は振り向いて男の話を聞くが言葉がわからない。西洋人ぽくはない褐色の肌にガチャガチャとした歯並びで、ちょっと怪しいオジサンという雰囲気。
ジェスチャーをくみ取るとどうやら、キーを忘れたから内ドアを開けて欲しいというのだ。
しかし、その人の雰囲気に不安を感じた私は、独断でドアを開けるのは避け、誰かの指示を仰ごうと前を振り返った。
すると! 別の男が私のバッグをジャケットの中に隠し入れている最中ではないか! しまった!
「NO~ッ!! IT’S MY BAAAAGGGG!!!!」
私は、前のテーブルを押しのけて男に飛び掛かった!!
だって、そのバッグの中にはクレジットカード数枚、カメラ、データ全部という、全財産と大事なメモリー全てが入っていたのだから。
いつもはお腹に付けてるはずのパスポートが入ったウエストベルトも、この時は珍しくバッグに入れていた。そんな時に限って狙われるなんて!
ロビーには10人くらい人がいたのに全員スマホに夢中で、事件に気づいたのは私がバッグを取り返し、犯人が逃げて行く時だった。
「事件はスマホの中で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」
ギリギリで取り返せたから良かったものの、振り返るタイミングが一歩遅ければ私の旅は終了してたかもしれない。
でも貴重品がどうこうより、スリに飛び掛かかった恐怖に心臓がドキドキした。南米だったら絶対アウト。いつもの旅人の装いではなく、調子に乗って優雅風を気取っていたから狙われたんだ。
世界で起きている出来事と比べたらなんてことない事件だけれど、「何もとられなかったんだから良かったじゃないか。小さな事件だ」と、犯人を見過ごす宿に「事件に大きいも小さいもない」と呟(つぶや)くと、私はいつもの青島コートを羽織り、また旅を続けるのであった。
今日も生きてますーー。
【This week’s BLUE】 ベルリンでも事件。スリを捕まえたアジア人と手錠をかけられた犯人。
●旅人マリーシャ 平 川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】