『テレキャノ』でおなじみの監督が日本のAV史を振り返るシリーズ連載 『テレキャノ』でおなじみの監督が日本のAV史を振り返るシリーズ連載

80年代の黎明期(れいめいき)からAV業界の変遷をたどってきた本連載。最終講は映画版『テレキャノ』の大ヒットを導き糸にして、AVと女のコたちの現在地を位置づける。

―『劇場版 テレクラキャノンボール2013』は昨年2月に公開されるやAVファン以外の客層を巻き込み、「テレキャノ現象」という言葉まで生み出す盛り上がりを見せました。

松尾 公開前は「三流Vシネマのにおいがする」って、誰も期待してなかったんですけどね。

山下 まあ、97年に始まったカルトな企画AVがルーツの映画だからねぇ。

松尾 つーか、『テレキャノ』はAVです、あくまでAV(笑)。当初は、「オーディトリウム渋谷」っていうミニシアターの6日間限定レイトショー公開っていう想定でしたから。それがツイッターを中心に口コミ情報が拡散されて火がついたっていう感じですかねぇ。

山下 他にはなんかないの?

松尾 まあ、こう言うと聞こえはいいけど、前回も触れたように震災以降、エンタメ業界全体にすごくキレイ事が多くて、自粛ムードから抜け切れてないなって感じてて。そこで俺は、とにかくみんなで笑えるものをやりたいなって思って。

山下 殊勝な話だねぇ(笑)。

松尾 いや、だってみんなで笑えるって大事なことでしょ?

山下 まあ、人のセックスを見ながら大勢で笑うって、なかなかない体験だからねぇ。

松尾 でも俺が一番驚いたのは、普通の女のコがバンバン劇場に来てたことだよね。

山下 それは俺も驚いたよ。しまいにはAVと縁遠いモデルや女優まで見に来てたでしょ?

松尾 そうだね。とはいえ、AVとして撮影した素材を劇場版に再編集したものなわけで、普通に考えたら女性ファンがつくってのは異常じゃない?

山下 見方によっては女性蔑視的な内容だしねぇ。

松尾 素人の女とハメ撮りして、セックスに点数つけて俺らは競ってるわけですからね。

女向けアダルトサイトが大人気!

山下 まあ、中には怒ってる人もいたけどね(笑)。

松尾 でも俺、『テレキャノ』を見た女性に感想を聞いたんだけど、「男子の修学旅行感がよかった」とか「いつも女子会で似たような話してるから同調できた」ってさ(笑)。

松尾 その流れでいうと、ここ数年、女性向けAVメーカー「シルクラボ」が立ち上がって話題になったり、女がAVを見るのがだんだん普通になってきてるって感じはあるよね。女向けアダルト動画サイト『ガールズシーエッチ』なんて、1日10万アクセスで週末は15万まで跳ね上がるっていう話だから。

山下 へぇ~。

松尾 いや、ホントね、AVが女たちのものになったっつーか、女がいよいよスケベを隠さなくなってきてる。面接に来る素人のコに「どうやってオナニーしてるの?」って聞いたら、「スマホでAV見ながら」って。イロハ(女性用TENGA)や電マも普通に持ってるね。

山下 その電マはドンキ(ホーテ)で買ってるんでしょ?

松尾 そうそう。女子会の帰りにみんなでドンキ行って、そろいのローターやら電マ買ったなんて話もあったから(笑)。

―そこまであけすけに...。

松尾 最近、ハマジムからデビューした八ッ橋さい子なんか、典型的なスケベ現代っ子ですよ。言葉責めだけでパンツに大きなシミつくって、即ハメを許すような女ですから。

―どういう経緯でAVに?

山下 好きな男を振り向かせたくてAV志願したんでしょ?

松尾 そうだね。

山下 その男っていうのが、カンパニー松尾好きの趣味の悪い童貞っていう(笑)。

松尾 (無視して)1年前に俺のトークイベントに人生相談に来たんですよ。過去にもイベントがキッカケでAVデビューしたコはいましたけど、さい子みたいに家庭環境も学歴も職歴も完璧っていうコはいなかった。それにプラスして、エロくてスタイルもいいっていうね。

山下 仕事は何やってたの?

松尾 常識的に考えたら誰もがしがみつくであろう、お堅い仕事だよね。それをあっさり手放してAV女優一本ですよ。

山下 へえ。

貞操観念の底が抜けてます

松尾 最初、さい子と話していると不安になった。そんなコがどうしてAV女優になるのかわからないから。

山下 まあ、そうだよね。

松尾 結局ね、よくも悪くも善悪の基準がないの。彼女からすると、AVに出るのは「善」でもないし「悪」でもない。

山下 AV出演に対するハードルがないって話ね。

―でも、それは彼女に特有の考え方なんじゃないですか?

松尾 いや、そうじゃない。最近の女子たちの善悪の境界線が崩壊してるっていうのは、素人のコたちを面接してても感じることだから。もっと言うと、「セックスを売る」っていう行為に全く罪悪感がなくなった。だって、みんな明るく元気に面接にやって来るんだもん。

山下 就活じゃないんだから。

―なぜそんなことに?

松尾 これまで振り返ってきたけど、80年代に「売春」って呼ばれてたのが「援助交際」「エンコー」って呼び名が変わるにつれてカジュアルなものになり、今では「サポ」とか「諭吉」とかいって、LINEで体を売る相手を募集したりしてる。その流れの中で貞操観念の底が抜けちゃったんでしょ。

山下 まあ、JKビジネスなんてのも今や普通だからね。

松尾 並行して恵比寿マスカッツに代表される「AV女優のアイドル化」が進んで、それが女たちの欲望の受け皿になってるっていうのはあるよね。

山下 AVに出れば、アイドル同様の活動ができて、承認欲求を満たせるっていうオプションまでついてくるからねぇ。

松尾 しかも、最近目立ってる上原亜衣、湊莉久(みなと りく)、春原未来(すのはら みき)あたりの女優って全員キカタンなわけでしょ。セックスもSNSもイベントも全部、一生懸命やれば人気者になれるって証明しちゃってるわけで。

山下 そういや、AV女優の追っかけをしてた女が、そのまま自分もAV女優になったって話もあったよね?

松尾 七原あかりっていうコを面接してたら、里美ゆりあの追っかけだったと。AV女優は憧れの里美と同じ仕事だって真っすぐ語るんだよ。

AVが女子のものになった

山下 昔と比べてさ、一般の女子とAV女優の距離感って全く変わってきたね。

松尾 まあ、SNSでじかにやりとりができる存在だからね。

山下 気になるのはさ、自分が応援してるAV女優をスマホで見てる女のコたちってどういう気持ちなんだろうね?

松尾 「気持ちよさそうにセックスしててうらやましかった」とか「私もあんなふうにセックスでイッてみたい」とか思いながらオナニーしてたって。

山下 AVのセックスを自分もヤッてみたいって話?

松尾 そういうことでしょ。

山下 けど、昔はAVの中にしか存在しないプレイだった「潮吹き」や「騎乗位」も今は一般人だって普通にするよ?

松尾 スマホで「ハメ撮り」もするご時世だからねぇ。

山下 だったら別にAVに出なくてもプライベートでAV的なプレイは味わえるでしょ?

松尾 それは味わえないよ。「スマホで見てきたセックスに巡り合えない」って。そもそもセックスに満足してたらAVの門を叩く必要ないでしょ?

山下 そういう人ばかりじゃないけどね。

松尾 男優相手のセックスが堪能できて、アイドル活動だってできる。そりゃあ若い女がAV女優に憧れても不思議はないよ。

山下 そうかねぇ。

松尾 そらあ、理性的なコは踏みとどまるでしょう。けど、善悪の価値観が崩れた中で、ふとした拍子で足を踏み入れる可能性のある世界になったってのは間違いないよね。面接に来るの、普通のコばっかだもん(笑)。

山下 確かに80 年代みたいに、AV女優しかできない人が食うためにセックスを見せる場所ではないね、もはや。

松尾 「AVに出たら人生終わり」なんて遠い昔の話です。

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(構成/黒羽幸宏 撮影/井上太郎)

●カンパニー松尾 1965年生まれ、愛知県出身。87年に童貞のままV&Rへ入社し、翌年に監督デビュー。代表作は『私を女優にして下さい』シリーズ。『劇場版テレクラキャノンボール2013』『劇場版 BiSキャノンボール2014』が社会現象的大ヒット

●バクシーシ山下 1967年生まれ、岡山県出身。大学在学中にAV業界へ。90年に各方面で物議を醸した『女犯』で監督デビュー。以降、社会派AV監督として熱い支持を受ける。『ボディコン労働者階級』ほか代表作多数。著書に『セックス障害者たち』(幻冬舎)など