餅を喉に詰まらせたら、迷わず119番! 餅を喉に詰まらせたら、迷わず119番!

年始の正月に多い、高齢者が餅(もち)を喉に詰まらせてしまう窒息事故――。

東京消防庁のデータによれば、管内だけでも平成22(2010年)年から平成26(2014年)年までの5年間に、実に571人!もの人が餅などを喉に詰まらせて救急搬送されている。

月別では1月が突出して多く221人、2番目に多いのは12月で76人が搬送。搬送されるのは65歳以上の高齢者が多く、全体の約9割にも及ぶ。

一体なぜ、餅を詰まらせて窒息する高齢者がそこまで多いのだろうか?

■餅は40度以下になると固くなる

窒息事故が多発する要因は、高齢者の「老い」にあることは容易に想像がつく。高齢になると唾液の分泌量が少なくなり、咀嚼(そしゃく)力や嚥下(えんげ)機能が低下し、食べ物が飲み込みにくくなるからだ。

一方、高齢者の餅による窒息事故について注意喚起を実施している消費者庁では、事故の要因のひとつに“餅の温度変化”があることを指摘している。

餅の表面温度が40度以下になると硬くなることはあまり知られていないようです。寒いこの季節は室温も20度前後と低い場合が多く、他の季節に比べて餅の温度も下がりやすい。たとえ焼いた時に熱くても、食べている間に硬くなり、詰まりやすくなってしまいます

また、高齢者だけでなく、乳幼児でも窒息事故は起きています。小さい子供は嚥下機能も未発達ですし、口いっぱい頬張りがちなので事故が起きやすいんです」(消費者庁消費者安全課担当者)

仮に、できたてアツアツの雑煮だったとしても、喉を通過する頃には人間の体温に近い温度(36度前後)まで下がり、硬くなってしまう。硬くなると共に付着力も増し、喉の粘膜に付着して剥(は)がれなくなり、気道が塞(ふさ)がる可能性は充分にある、というわけだ。

餅を喉に詰まらせた時の処置法

■苦しそうだったら、迷わず救急車を!

では、身近な人が餅を喉に詰まらせたら、どんな処置を取るべきか。たとえば119番。たかだか、餅が詰まったくらいで救急車を呼んでいいのか?と電話連絡をためらってしまう人も多いのではないだろうか。しかし、東京消防庁の担当者はこう言う。

「餅が喉に詰まって窒息すると、心肺停止になる可能性もあり、とにかく生死に関わる事態ですから、迷わず119番してください。救急車が到着するまでの間、電話でも救急処置の指示をしているので、それに従って対応してください」(同庁広報課担当者)

窒息を起こしている人は、首をつかみ、喉をかきむしるような仕草「チョークサイン」をとる。この他にも声が出せない、顔色が真っ青になるなど、ついさっきまで普通に餅を食べていた人が突然苦しそうな状態になったら、すぐに119番通報するべし。

また、窒息事故が起こった際の応急措置として、“掃除機を使った吸引法”がよく知られているが、これの効果はどうなのだろうか。

「確かに“掃除機を使って助かった”という事例もありますが、吸い込み口を口内に入れることでケガや出血の可能性もあり、すべての人に勧められる方法ではありません。ですから消防庁としては、掃除機吸引については言及自体を避けている状況です」(同担当者)

消費者庁でも同様の理由で掃除機を使う方法は紹介していないという。

一方、両庁で推奨しているのが「背部叩打法(はいぶこうだほう)」と呼ぶ応急処置。対象者の後ろに回り、手の付け根で肩胛骨(けんこうこつ)の間を力強く、何度も連続して叩くやり方だ。

こうした応急処置で、もし詰まった餅が取れたとしても、呼吸が止まっている間にダメージを受けている可能性や喉が傷ついていることもあるので、すぐに医師の診断を受けるのが望ましいという。

冬の寒い朝のひと口めには要注意!

ところで、餅の詰まりやすさは「お雑煮」「餡子餅」「磯辺焼き」など調理の仕方でも変わってくるのだろうか?

「献立に関しては公的なデータはありませんが、『磯辺焼き』のように餅を焼いただけの献立よりは、『雑煮』のように汁物にして餅を細かく切っておくと良いでしょう。そして高齢者が食事をする際にはひとりにしないことです。目を離さず、様子を見守るようにしてください」(東京消防庁広報課担当者)

独居老人も急増する中、“ひとりにしない”のが一番難しい気もするが…。また、食べやすく切ってあるからと言って、よく噛まずに飲み込んでしまっては意味がない。事故防止にはとにかくしっかり噛むことが重要だ。

朝は特に唾液の分泌量が少ないので“冬の寒い朝のひと口め”には要注意。いきなり餅を頬張るのではなく、まずは汁物やスープを先に口に含んだり、お茶を飲んだりして喉を潤(うるお)しておくことで、窒息リスクを下げることができる。

この年末年始、帰省して一家団欒(らん)となる家庭も多いだろう。家族揃って囲む食卓が一転、悲劇の現場に…などとならないよう、窒息のリスクマネジメントを身につけておきたいものである。

■参考  消費者庁、東京消防庁のホームページをご確認ください。http://www.caa.go.jp/safety/pdf/131218kouhyou_1.pdf、http://www.tfd.metro.tokyo.jp/camp/2015/201512/camp1.html#004

(取材・文/山口幸映)