93歳になった今も現役の作家として書き続け、僧侶として説き続け、女として恋し続けている瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)先生。
週刊プレイボーイ本誌が50周年の節目の今年、人生の大大大先輩が語る「恋愛」「人生」そして「幸せ」とは?
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―寂聴先生の師僧で作家の今東光(こん・とうこう)さんは以前、『週刊プレイボーイ』で人生相談をされていました(1975年から77年まで『極道辻説法』を連載。20代で作家デビューし、32歳で出家。50代で文壇に復帰し、58歳で直木賞を受賞。毒舌で常識にとらわれることのない無頼派作家として人気を集めた)。
瀬戸内寂聴(以下、寂聴) 知っているわよ(寂聴さんは1973年に今東光さんを師僧として得度)。今先生の人生相談って、答えが乱暴なのよね。「もっとマスかけ」とか「死んでしまえ」とか。でも、すごく面白い。
―はい。昔の連載を読んだら、すごく面白かったです。
寂聴 私のところにもたくさんの人が人生相談にやって来ます。私もつい、今先生みたいに「そんなこと自分で考えろ」って乱暴に言いたくなるんだけど、その人にとっては一大事だからね。そのときはちゃんと聞いてあげます。
―今でも週プレには人生相談の連載があって、「仕事がつらい」とか「将来が不安だ」とか「女のコにモテない」とか、中には「自分はまだ童貞だ」とか悩んでいる人もいるんですよ。
寂聴 今の若い男のコは「草食男子」とかいうんでしょ。若い男が女に興味がないなんて、どうするの。そんなことになったら日本はダメになるわよ。男ならもっとしっかりしなきゃ。女から見て頼もしい存在にならなきゃダメ。
―女性から見て頼もしい存在になるには、どうしたらいいんですか?
寂聴 何か「自分はこうしたい」というものを持つことね。今の若い男のコって、そういうのがないの。自分は何をしたらいいかわからない人が多いでしょ。だから、頼りなく見えるのね。
―そうなんですね。
寂聴 女のコによく「私なんか」っていう人がいるの。そんなコに私は怒るんです。「あなた何を言ってるの? この世に“私”はひとりしかいないんだから、『私なんか』って言っちゃダメ」って。今の男のコも「俺なんか何をやってもダメだ」って初めから思ってるんじゃないかしら。そう思ったら、もう“初めから負けてる”ってことでしょ。
「顔なんて、いくらでも直せるじゃない」
―でも、学歴がないとか、給料が安いとか、顔が悪いとか、他人と比べると自分の負けている部分はコンプレックスになりますよ。
寂聴 顔なんて、いくらでも直せるじゃない。
―整形ですか?
寂聴 直したらいいのよ。あのね、私のことを「鼻が低い」っていう人がいっぱいいるの。だから手術をしたいんだけど、93歳になって今さら鼻を高くしたってしょうがないでしょ。だからしない。だけど若いうちはコンプレックスになるんだったら変えたらいいのよ。だって、そんなことでバカにされるのはいやでしょ。
―そうですね。
寂聴 「俺なんか」「私なんか」って思って、自分で可能性を潰(つぶ)すのが、私は一番いやなの。一番、つまらない。お釈迦さんが生まれた時「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」っておっしゃった。これは「天地の中に自分は自分ひとりしかいない」ってことなの。すごい自信でしょ。今の若い男のコは自信が足りないのよ。
―自信ですか…。
寂聴 そう。自信を持てばモテるようになるの。女にモテる男はカッコいいじゃない。だから、この雑誌の名前のようにプレイボーイにおなりなさい。プレイボーイになって女をたくさん泣かせたっていいじゃない。そういう経験は大事だし、そういう経験があると女の気持ちがよりわかるようになるから。だから、男のコはプレイボーイになったほうがいい。
―やっぱり、寂聴先生も若い頃はたくさん恋愛をしたんですか?
寂聴 私の若い時、中学生の頃は、道を歩いていて向こうから中学生の男のコが来て、こっちから女学生が向かっていくと、すれ違う時に顔を見合わせちゃいけなかったの。お互いにわざと顔をそらしたのよ。
―本当ですか?
寂聴 本当よ。もし、顔を見合わせたら「あの男のコと女のコは怪しい」って評判が立つの。だから、心の中では向こうから男のコが歩いてくるからワクワクしているのだけど、すれ違う時は顔を伏せなきゃいけない。そんな時代でしたね。
―じゃあ、なかなか恋愛はできなかったですね。
寂聴 しちゃいけなかったのよ。「男女七歳にして席を同じうせず」といって、「恋愛は悪い」っていわれてたんだから。
―なぜ悪かったんですか?
寂聴 恋愛したら、セックスしたがるからね。でも、今は恋愛が悪いなんて誰も思ってないでしょ。そうなったのは戦後のことですよ。だから若い人はもっと恋をしなさい。恋愛をしなきゃ、もったいないわよ。
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●瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう) 1922年生まれ、徳島県出身。1957年『女子大生・曲愛玲』で新潮社同人雑誌賞受賞。1963年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。1973年に岩手県平泉・中尊寺で得度。1992年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、2011年『風景』で泉鏡花文学賞を受賞。1998年に『源氏物語』現代語訳を完訳。2006年に文化勲章を受章。2015年夏には国会前の安保法案反対デモに参加
(取材・文/村上隆保 撮影/佐々木 康)