今の日本の状況は戦前とそっくりだ…と憂う瀬戸内寂聴先生

93歳にして現役の作家・僧侶として活躍する瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)先生。

週刊プレイボーイ本誌が50周年の節目の今年、人生の大大大先輩が若い人たちに伝えたいメッセージとは?

前編記事では恋愛の大切さを語った先生の説法は、日本の行方、そして「恋と革命」の必要性へと深まっていく。

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―2015年は戦後70年の節目の年でした。今は戦争を実体験した人が少なくなりましたね。

瀬戸内寂聴(以下、寂聴) もうほとんどの人が死んでしまったものね。生きている人はわかると思うけど、今の日本の状況というのは戦前の頃とよく似てるの。だから私はとっても心配。特定秘密保護法なんか戦前にあった法律と同じです。うっかりしたことを言ったら憲兵がやって来て、すぐとっ捕まって怖かった。

―安全保障関連法も成立しましたよね。

寂聴 そうね。日本の自衛隊はよそから見れば軍隊ですよ。アメリカの後ろにいようが前にいようが、敵から見れば一緒。やられます。それで、例えばアメリカと中国が戦争をして、終わったら日本の半分はアメリカのなんとか州、もう半分は中国のなんとか省になってたりする。日本がなくなるかもしれない。今の人はそういうことを想像しないでしょ。

―まさか、そんなことは想像もできません。

寂聴 もっと想像力を育てないとダメね。

―どうやったら想像力を育てられるんですか?

寂聴 想像力はみんな生まれた時から持ってるの。でも、それを育てられる人と育てられない人がいる。育てられない人は、本を読まない、映画を見ない、芝居を見ない、音楽を聴かない。そういった創造的な文化にきちんと触れてない人。

―やっぱり、本を読んだり映画を見たりすることは大事なんですかね。

寂聴 そうよ。それに今の政治家は戦争を知らない人ばかりでしょ。自分の子供や夫、恋人、親戚や知り合いの男たちが殺されるっていう想像ができないのね。だから平気でいられるの。今は昭和16年、17年の頃とそっくりですよ。

―じゃあ、もう戦争が始まってるようなものじゃないですか。

寂聴 そう。戦争中と同じ。そのうち「贅沢(ぜいたく)したらいけません」って言いだしますよ。

それから戦争をする時は大体「国家のために」とか「正義のために」とかいうの。私たちの時は「東洋平和のために」といいました。でも、戦争に「いい戦争」というのは全然ないのよ。戦争は相手を殺さなければ殺される。集団殺し合いですからね。だから戦争は全部「悪」です。

「革命」は「国をひっくり返す」ことではない

―戦争になるのはいやです。

寂聴 でしょう? でも、日本の今の政治は戦争にどんどん近づいているから、私は絶望していたけど、今、若い人たちの中から「SEALDs(シールズ)」みたいな人が出てきたじゃない。彼らの言ってることは正しいんです。それで私は「日本はまだいける」と希望を持ち直しました。そのために彼らを応援しているんです。

―寂聴先生は、よく「青春は恋と革命だ」って言ってますよね。「恋をしろ」というのはわかるんですが、「革命をしろ」というのは、どういうことなんですか?

寂聴 私の言ってる「革命」っていうのは「国をひっくり返す」という大きなことではなくて、「自分の今を変える」ことなの。「自分の生活を変えること」が革命なの。

―なるほど。

寂聴 よく、自分の会社の悪口を言ったり、上司の悪口を言ったりする人がいるでしょ。そういう人はダメよ。悪口を言うなら、会社を辞めたほうがいいと思うの。でも、その勇気がないわけでしょ。

―まあ、そうですね。

寂聴 でも、そんなふうに人の悪口を言いながら仕事をしているのはいやでしょ。「これが自分にとって一番いい仕事だ」と思うところで働かないとつまらない。だから、私が言いたいのは、いつでも「恋をしなさい」ということと、今の自分の生活がいやだったら「それを変えなさい」ということなの。恋も革命も情熱がなければできない。それが「恋と革命」の意味です。

―革命は、今のいやな自分やいやな環境を変えるパワーということですね。

寂聴 そうそう。パワー。そして、恋も革命もできれば新鮮なほうがいい。例えばセックスだってね、奥さんが喜んでいるからって、同じことばっかりしてたらいやになるわよね。旦那さんだって、卵焼きが好きだからって、毎日、お弁当に卵焼きばっかり入れられたらいやになるでしょ。

―そうですね(笑)。

寂聴 だから、やっぱり普通に生活をしていても、徐々に革命をしたほうがいいのよ。だから「恋と革命」をしている男の人はモテるの。

―今回、寂聴先生が『週刊プレイボーイ』の若い読者に伝えたいことは「自分を革命してプレイボーイになりなさい」ってことですね。

寂聴 そうね。私はそう思います。

●瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)1922年生まれ、徳島県出身。1957年『女子大生・曲愛玲』で新潮社同人雑誌賞受賞。1963年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。1973年に岩手県平泉・中尊寺で得度。1992年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、2011年『風景』で泉鏡花文学賞を受賞。1998年に『源氏物語』現代語訳を完訳。2006年に文化勲章を受章。2015年夏には国会前の安保法案反対デモに参加

(取材・文/村上隆保 撮影/佐々木 康)