ボンジアー!(ポルトガル語でこんにちわ!)
ついにやってきました、旅人憧れの地「ユーラシア最西端」のポルトガル。
物価も安く、大航海時代の歴史的見どころも多いことからヨーロッパの若者たちの旅先としても人気の国。
まずは北部の港湾都市ポルトへと向かった。世界遺産である歴史地区の街並みは美しく、第2首都のわりには人も少ないため、静かでゆったりとした雰囲気が漂う。
「ポルトはタコ飯と白ワインが名物らしいよ」
と旅友に聞き、教えてもらった評判の店に向かった。店に入ると、街中では全く見かけなかった日本人の「女子旅グループ」や「ぼっち旅女子」が席を埋めていたのでビックリ。
どうやら日本人に人気の店なのだろう、私は日本語で書かれたメニューから「タコの天ぷら」を注文した。
出てきたものは、衣がしっとりしていて日本人からすると「天ぷら」とはちょっと違う気が…。肝心のタコの身は、日本のように弾力があるものとは違い、歯がスっと入る柔らかいカマボコのような食感で甘みがある。
天ぷらと一緒に注文した「タコご飯」は見た目より薄味で日本人の口にも合うし、「ダシ」の効いたご飯は長らく和食を食べていない旅人の胃袋を癒やしてくれた。
カッコつけて言うと「マリアージュ」…にいただいたのは「ヴィーニョ・ヴェルデ」というポルトガルワイン。
「ヴェルデ」というのはポルトガル語で「緑」という意味で、日本で言うところの「まだまだ青いねぇ」と一緒で若さを表しているらしい。若い葡萄を使った微発砲のヴェルデワインはアルコール度数も少なく口当たりも良い。
「うんうん、若いねぇ、若いねぇ。いいねぇ」
と、私はいやらしいおっさんのようにニヤニヤしながらワインを舐(な)めまわし、すっかりご機嫌だ。
満足ついでにB級グルメの「ビファーナ」という、ポルトガル人の国民食もチェック。
パンに生姜焼きを挟んだような見た目で、味はどこかで食べたことあるような…そうだ、牛丼だ!
ニンニクを聞かせた牛丼バーガーという表現がよいでしょうか、これがビールに合わないわけがない。
リスボンで出会ったイタリア人
ゴハンが美味しい国というのは自然に好きになってくる。
ポルトガルの味にすっかり胃も心もオープンになった私は、続いて首都リスボンにやってきました。
ポルトよりも都会感が増し、中心地に着くとファッションブランドなどが並ぶショッピングストリートに迎えられる。15~17世紀の大航海時代にもっとも栄え、今も観光地として人気の街であるリスボンは、若い旅人で溢(あふ)れていた。
宿の中ではヨーロッパ中の言語と英語が飛び交い、まるで語学学校のよう。
国と国がくっついているヨーロッパの人々は複数の言語を操る人が多く、ポルトガル語が通じないとなれば「スペイン語は? フランス語は?」と他の言語で会話したりする。
すると突然、「キミは日本人か。ポルトガル語の『オブリガード』は日本語の『ありがとう』から来てるんだよ~」と言われた。
ブラジルでも同じことを言われたことがあり、これを信じている外国人は多いが、根拠のない言い伝えっぽい。いろいろ調べてみると、日本では「ありがとう」は「有り難し(滅多にない貴重なこと)」が語源だというのが有力みたいだった。
その日以降、フランス人男子から一緒に観光しないかと誘われたり、インド人にカレーをふるまわれたり、アメリカ人にジンを丸ごと一瓶プレゼントされたりと、なぜか「有り難し」なプチモテの日々が続いた。
ある夜、私は「話しかけるなオーラ」全開で忙しくパソコンに向かっていたのだが…、
「女性に話しかけないなんて失礼」というイタリア人気質がそうさせたのか、イタリア人のアラサー男子・ダリオが声をかけてきた。
「ごめん、仕事中なの」と言いつつ少し会話をすると、5ヵ国語を勉強するダリオの語学教室が始まった。
「スペイン語とカタルーニャ語は違うんだ。このテキストを見てごらん。例えば、発音はこれがニャ。これがニャ~で、ニャーで、ニャ…。わかった?」
なんだかニャンニャン言ってますけど、全くわかりまへん。英語でスペイン語とカタルーニャ語とポルトガル語とフランス語とイタリア語の説明されてもレベル高すぎでしょう。
しかし、そんなダリオとのやりとりは深夜まで続いた。
最果ての地「ロカ岬」へ
その後もダリオは毎日のようにリンゴをむいてくれたり、「和食が恋しいでしょう」と寿司を買ってきてくれたり、「仕事のジャマにならなければ、これ飲んで頑張ってね」とビールを置いて行ってくれたりした。
さては私のこと…好き?
初めは仕事を邪魔するKYなナンパかと思っていたけれど(失礼)、だんだんと彼の心遣いに胸を打たれ始めていた。
そんな彼がリスボンに来ている理由は、旅ではなかった。
「ポルトガルは安全で良いところだよ。僕はここに住むためにやってきたんだ。イタリアは移民が多くて治安が悪い。彼らは金も仕事も女もとっていくんだ」
“女”も取っていくという発言にイタリア人らしさを感じて笑ったけれど、冗談で言っているわけではなく彼は真顔だった。
「キミはどこに住みたいと思う? なんでポルトガルに来たの?」
は…! ヤバイ、頭の中がお花畑でスッカリ忘れていたけれど、私がポルトガルに来た理由は「ユーラシア大陸の最西端『ロカ岬』へ行く」ことだった!
気付けばポルトガル最終日ーー電車とバスを乗り継いで「ロカ岬」へ急いだ。
知ってはいたけど、そこは西の果てということ以外には何もなかった。ただただ風が強く、目の前には地球が丸いということがわかる水平線が広がっている。
「ずいぶん遠くまで来たもんだなぁ…」
私は世界の果てで孤独を感じ、日本を恋しく思った。これまではずっと日本を出たいと考えて旅をしていたけれど、世界を周っているうちに外から見た日本はとても素敵に見えるようになった。ご飯は美味しいし、人々は列に並ぶし、なんといっても治安が良い。
「やっぱり日本は住みやすいイイ国だ」
そしてダリオに別れを告げる時がやってきた。悲しむだろうか。
「ダリオ、今日までありがとう…。私、まだ旅を続けなくちゃ」
「OK! よい旅を!」
熊みたいな男と楽しそうにキッチンから手を振るダリオ。…へ? そんなアッサリ???
もう少し名残惜しい雰囲気になるかと思いきや、なんともあっけない別れ。ちょっと自惚(うぬぼ)れていたマリーシャの春はどうやらまだだったようだ。
【This week’s BLUE】 「ここに地終わり海始まる」と刻まれる、最西端・ロカ岬
●旅人マリーシャ 平 川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】