油断しがちな夏山登山で準備不足のまま登る素人クライマーたちのリスクとは…

ここ数年、山で事故に遭う人が増え続けている。しかし、それは登山人口が急増したからではない。

最新の『レジャー白書』によれば、2014年の登山人口は約840万人。登山ブームだった09、10年は1千万人を超えていたが、11年の東日本大震災や14年の御嶽山の噴火などで登山を控える人が続出し、現在の数字に落ち着いている。

しかし一方で、山の事故は増えているのだ。14年には全国で2794人が遭難し、統計の残る61年以降で最多を記録してしまった。登山人口は減少しているにもかかわらず、なぜ事故は増えているのか? 遭難救助のプロたちに話を聞くと「山を軽く見ている登山客が増えたから」と口をそろえる。

「東京都山岳連盟遭難救助隊」隊長の北島英明氏はこう憤(いきどお)る。

「どう考えても避けられたはずの事故が非常に多くなりました。登山する前から遭難する可能性が高い人が増え、『登山前遭難者』と呼ばれています」

素人クライマーたちに共通するのは、とにかく準備不足ということ。

「手ぶらに近いような状態でジーパンやスニーカー、サンダル履きのような人もいます。スーツにネクタイを締めて革靴で歩いている男性も見たことがありました。革靴は靴底がツルツルしていて滑るので非常に危険です。また、夏場は飲料水が最低2リットルは必要なのですが、500ミリリットルのペットボトル1本しか持っていない人も見かけます。

山の天気が変わりやすいことを知らないのか、雨具を持っていなかったり、あってもコンビニに売っている半透明のレインコートだけだったり。これでは防水性が低く雨が入り込んでしまう。ずぶ濡れになって山小屋に駆け込んでくる人もいました。雨具はどうか登山用のものを用意してほしい」

山の遭難事故に詳しい日本山岳救助機構合同会社の中嶋正治氏もうなずく。

「夜道を歩く際に必要なヘッドライトを用意しない人が多いんです。山道に街灯があるとでも思っているんでしょうかね。私がヘッドライトを点けて富士山の登山道を歩いていたら、後ろからライトを持たない登山客たちが光を求めてぞろぞろとついてきました」

スマホ依存も、素人クライマーが気を緩める原因

スマホ依存も、素人クライマーが気を緩める原因だ。

「地図を持参しない人が増えましたね。ある登山グループは、『スマホに地図をダウンロードしているから大丈夫』と言っていましたが、予備バッテリーを持っていなかった。山は電池の減りが平地より早いので、スマホに頼りすぎるのは危険です」(前出・北島氏)

“忘れ物“で深刻な事故につながったケースも少なくない。

「数年前、視力が0.2しかないのにメガネを忘れてきた男性がいました。奥多摩(東京都)の中級者向けコースを登ったこの方は、登山道を踏み外し、そのまま帰らぬ人になってしまいました」(北島氏)

こうした山の事故は、実は冬より夏のほうが多いという。

「冬山はそれなりの装備を持った経験者しか行かないので、遭難事故はあまり多くないんです。むしろ、夏場の標高の低い山や難易度の高くない山で事故が多発しています」(北島氏)

登山ブームが生んだ素人クライマーたちの危険過ぎる行動は、これだけではない。準備不足に加え、「無計画、場当たり的、自己過信」と最悪な条件が四拍子そろった登山者だって、今や珍しくないという。

発売中の『週刊プレイボーイ』23号では、さらにそんな素人クライマーたちの実態を調査。登山中の非常識なトンデモ行為がどんな事態を引き起こすのか? そして、遭難事故となった場合、金銭面はもちろん、どんなリスクを背負うことになるのか…。そちらも是非お読みいただきたい。

(取材・文/西谷 格 イラスト/はまちゃん)

■週刊プレイボーイ23号(5月23日発売)「救助隊隊長らが怒りの告発『素人クライマーたちよ、山をナメるな!』」より