日産の自動運転第1弾は、8月発売予定の新型セレナ! その姿も今回が初公開だが「プロパイロットがつく」ということ以外の詳細は秘密 日産の自動運転第1弾は、8月発売予定の新型セレナ! その姿も今回が初公開だが「プロパイロットがつく」ということ以外の詳細は秘密

今年、2018年、2020年と段階的に市場に投入される日産の自動運転技術。その幕開けである新型セレナがついに公開! テストコースで最新テクノロジーを体感した、その実力やいかに?

■カメラひとつで車線と前走車を認識

週プレでもこれまで何度か取り上げてきたが、今を時めく「自動運転」に日産は間違いなく、日本で…いや、世界で最もマジで意欲的なメーカーのひとつである。

その日産が公表している「自動運転技術のロードマップ」は次の通りだ。

(1)自動車専用道での単一車線の自動運転(2016年) (2)自動車専用道での複数車線の自動運転=レーンチェンジをする(2018年) (3)歩行者もいる街中の交差点を自動運転(2020年)

というわけで、(1)に当たる今年、日産が実現する「自動運転車第1弾」はずばり、この8月発売の新型セレナだ。

その記念すべき自動運転技術の名称は「プロパイロット」という。今回、日産のテストコースで、その初代版プロパイロット1.0が搭載されたセレナに試乗する機会を得た。

操作方法は、いわゆる「クルーズコントロール」と同じで簡単だ。スタンバイ状態から、時速30キロ以上でセットボタンを押せば、ペダルから足を離しても設定速度で走り続ける。あとは自分の走っている車線と、前にクルマがいれば、その前走車を勝手に認識してくれるのだ。

 プロパイロットの操作部はここだけ。操作法も普通のレーダークルーズコントロールと同じ プロパイロットの操作部はここだけ。操作法も普通のレーダークルーズコントロールと同じ

前が空いていれば設定速度で走り続けるし、遅い前走車に追いついたら、車間距離をキープしながら適度な速度で走る。渋滞などで前走車が止まれば、セレナもソロリと停止。前走車がすぐに(3秒以内)走り出せば、セレナも追いかけるように再発進する。

 ステアリングを軽く握っているだけで、前走車との車間距離を保ち車線の真ん中をキープする日産「プロパイロット」 ステアリングを軽く握っているだけで、前走車との車間距離を保ち車線の真ん中をキープする日産「プロパイロット」

 プロパイロット稼働画面。前走車や車線をクルマが認識していると、それがわかりやすいイラストで表示される プロパイロット稼働画面。前走車や車線をクルマが認識していると、それがわかりやすいイラストで表示される

手放し運転はできないが…

ただし手放し運転はできない。もちろんセレナが車線を認識しているかぎり、車線中央をキープするようステアリングにググッというアシストが加わり、それに導かれるままにステアリングを握った手を動かしていれば、基本的にセレナは車線をキープし続ける。ところが手放し運転を検知すると、プロパイロットは切れてしまうのだ。

 手放し運転はできないが、ステアリングを軽く握っているだけで、積極的に車線中央をキープするようにアシストが介入する。試しに手放し運転すると、数秒で写真のような警告画面(と警告音)が出て、プロパイロットは切れてしまった 手放し運転はできないが、ステアリングを軽く握っているだけで、積極的に車線中央をキープするようにアシストが介入する。試しに手放し運転すると、数秒で写真のような警告画面(と警告音)が出て、プロパイロットは切れてしまった

……と、ここまで読んで、クルマに詳しい人は「なんだ、最近流行の車線維持アシスト付きのレーダークルーズコントロールと同じ!?」と思うかもしれない。ハッキリ言うと、それはほぼ正しい。

その種のシステムは、欧州輸入車ではすでに常識となりつつあるし、スバルの「アイサイト(ver .3)」やホンダの「ホンダ・センシング」なども、基本的な機能は日産プロパイロットに酷似している。

ただ、それらと比べても、プロパイロットの自動化レベルが最も高いことも事実だ。ポイントは大きくふたつある。

ひとつは他社が「ステレオカメラ」だの「カメラ+レーダー」と複雑なシステムなのに対して、プロパイロットは高解像度カメラ1台だけで、それと同じか、それ以上のことをやってのけている点だ。

もうひとつは、手放し運転こそできないが、ステアリングのアシストが効く範囲が、今ある市販車のなかでは最も広く、ステアリングアシストも最も強力ということである。

他社の場合、小さいカーブでもアシストしきれずにシステムが切れてしまうこともあるが、プロパイロットは「日本にある自動車専用道はほぼすべてカバーしています」と技術担当者は胸を張る。

さらにステアリングにかかる「ググッ」というアシストは、肩の力を抜いていると、手が引っ張られるくらいに強力だ。何度も言うように手放し運転はできないが、条件さえ整えば、日本中の自動車専用道を自動で走りきる基本能力は備えているのだ。

安全だと確信できないかぎり世には出さない

■過度な期待はせず、まずは素直に楽しむ

最近、アメリカの電気自動車「テスラ」の自動運転による事故が問題になっている。表に出ている技術情報を見るかぎり、テスラのシステムが、プロパイロット(や他社の類似技術)より特別に進んでいるわけではなく、ある面では旧式の部分もあるくらいだ。

今回の試乗で、プロパイロットを担当する日産の技術者に「本当は手放し運転もできるんでしょ?」とカマをかけても、それには絶対にウンとは言わなかった。

それは国土交通省などの官公庁に遠慮したり、揚げ足取りを気にしているわけではなく、技術者のプライドとして「まだ、人の命を完全に預かれるものではない」とわかっているからだ。

そこが、自動車メーカーとしての歴史の浅いテスラと、歴史ある日産との決定的な違いだ。報道を見るかぎり、テスラは「とりあえず売っちゃって、クレームがついたら落としどころを見つければいい」というベンチャー特有の気質が透けて見える。

それに対して、日産(を含む従来の自動車メーカー)は、自分たちで安全だと確信できないかぎり世には出さないし、簡単にドライバーの手に委ねない。

だから、セレナのプロパイロットは確かに自動運転の第1ステップではあるが、だからといって「これが自動運転だぁぁぁ!」と思うと、ちょっと肩透かしでもある。

自動運転は、ある日突然、現れるものではない。2年後のレーンチェンジ(2)にしても、その次の交差点での自動運転(3)にしても、日産は「いきなり車内で寝ててもいいというものにはなりません」と断言する。

ただ、プロパイロットを含むレーダークルーズコントロールや車線維持アシストは、一度使ってしまうと、なんともラクチンで、依存体質になってしまうのも事実。特に休日の渋滞などではかなり重宝するはずである。

だから、プロパイロットにも過度に期待せず、まずはその便利さを素直に楽しむべし。そうこうしていると、気づいたらその先に完全自動運転の時代が来ている!?

(取材・文/佐野弘宗)