アウシュヴィッツ強制収容所の有名なゲート。「ARBEIT MACHT FREI (働けば自由になる)」と記されているが…。

ジェンドブレ! 発音難しいけど、ポーランド語で「こんにちは」って意味。

ポーランドは首都ワルシャワが東京なら、京都と言われる元首都のクラクフにやってきました!

実はポーランドはずっと気になっていた国。というのも、オーストラリアでのワーホリ時代に出会ったポーランド人の友達に「いつか行くね」と約束をしていたから。

でも再会の前に、ここに来たら必ず行かなくてはならない場所がある。それは「アウシュビッツ強制収容所」――。

第二次世界大戦中、ヒトラー率いるナチス・ドイツが人種差別的な大量虐殺(ホロコースト)を行なった、史上最悪の惨劇が起きた場所。1979年には世界遺産に登録されて、日本の原爆ドーム(広島平和記念碑)と同様に「負の遺産」と言われています。

バス乗り場。クラクフに来た旅人は皆、バスや電車で「アウシュヴィッツ強制収容所」のある街へ向かう

クラクフからバスで1時間。第一強制収容所のあるオシフィエンチムに着くと、雨が降りそうな天気のせいなのか、見学を終えた人々の表情からか、どんよりとした重い空気が流れていた。

入口を入ると、まず最初に「働けば自由になる」と記された有名なゲートがある。しかし、もちろんここに「自由」などなかった。

「ARBEIT MACHT FREI(働けば自由になる)」と記されているゲート。Bの文字が上下逆なのは作者(被収容者)のささやかな抵抗と言われている

当時、ここへ連れてこられた人々は到着するなり分別され、女性や子供、労働力にならない者は「シャワーを浴びるため」と言われ、即刻、ガス室に送られたという。

ゲートをくぐると敷地内にはレンガ造りの収容者棟が並んでいて、その内部が展示場となっている。今でこそ整備され、きれいな庭と建物にすら見えるが、そこには劣悪な住環境があった。

労働力として収容された者たちは伝染病対策のため丸刈りにされ、1日の食事はコーヒーと呼ばれる黒い液体や腐った野菜のスープに食パンだけ。トイレに行く時間は決まっていて、鞭(むち)で叩かれながら集団で他人と並んで排泄をさせられる。

寝床は藁(わら)の上や、床に並べられたボロボロの布団のようなものもあれば三段ベッドもあったが、人数が増えると何人も詰め込まれたという。

「死の壁」。この壁の前で何人もの人が銃殺された

寝床。一瞬、見た目はちょっとドミトリー宿に似てるな…なんて思ってしまった不謹慎な私…

被収容者たちの遺品の数々に絶句

ここには少なくとも130万人が連れてこられ、その中の9割がユダヤ人で110万人、ポーランド人も14万~15万人、他にシプシーやソ連軍捕虜などがいたそう(実際にはもっと多いと言われ、正確な数はわかっていない)。

収容所に遺された、おびただしい数の靴や鞄、食器や日用品、義手義足に衝撃を受ける。剃られた人間の頭髪の山だけは写真撮影が禁止となっていたが、そこにいるとまるで犠牲者たちの助けて」という悲鳴が聞こえてくるかのようだった。

おびただしい数の遺品。左上から時計回りに、メガネ、食器、義手義足、靴や名前の書かれた鞄

山積みの死体や飢餓で痩せ細った人の写真はとても直視できるものじゃない。誰もがその前で言葉を失っている。

強制労働、虐殺、人体実験など人間の仕業とは思えない狂気の沙汰。同じ人間が、どんな神経でこんな残虐なことができるのか。あまりにも非道すぎて現実として受け入れることが難しかった。

しかし、この事実は遠い国の昔話ではない。

ほんの70年ほど前のことで、こうして誰でも旅することができる場所。そう考えると、実は思っている以上に私たちにも身近なところにあるんではないかと思った。

帰りのバスはちょっと気持ちが悪くなってしまった。

飢餓でやせ細ってしまった人々

翌日は懐かしのポーランド人の友人との再会で、彼は結婚していてポーランド人の奥さんを連れて現れた。

気持ちを切り替えていこうと思ったけど、「やあ! ポーランドはどうだい! どこか観光には行ったのかい?」と聞かれ、「あ…、アウシュヴィッツ強制収容所に行ったよ。行ったことはある?」と恐る恐るその話に触れてみた。

「ああ。もちろん行ったことがあるよ。決して二度と繰り返してはいけない出来事だとわかるためにも、皆行ってその歴史や真実を知り、学ぶべきなんだ」

そして彼は自分のおじいちゃんもそこに連れていかれたが、なんとか脱出できたという話を続けた。淡々と話していたが、そこには深い悲しみと反独感情が垣間見えたような気がした。

被収容者が着せられていた囚人服の展示

ポーランド人のお気に入りは「トモダチンコ」

クラクフの中央市場広場。左が旧市庁舎、右が織物会館

ともあれ、嬉しい再会に、歴史の話もほどほどにしてランチを食べながら今度は言葉の話で盛り上がる。

「昔教えてもらったポーランド語、全部忘れちゃったよ。ポーランド語って本当難しいね!」と言うと、「難しいかもね。男性名詞や女性名詞、それから中性名詞まであって、男性名詞はさらに細かく分かれるよ。ポーランド人でも迷うんだよ」だって。習得は無理だな…。

「ところで何か日本語は覚えてる?」と聞くと、「ほとんど忘れちゃったけど、アリガト、コニチワ、あとは…ああ! トモダチンコ!

「え! 私、それ教えてないんだけど! 『おぼっちゃまくん』の名ゼリフじゃん(笑)」

どうやら別の日本人に教えてもらったらしいけど、彼はその言葉をとても気に入っていた。すると、奥様もそれに興味を持ってしまった。

「トモダチンコ…? それ、どういう意味?」

「いや、私もよくわからないけど日本の漫画でね、“友達”と“チ○○”をミックスさせて“親睦の深さ”を表現したものかな。まぁ、女子は言わないよ(笑)」

「そうなのね。アハハ。でも響きと意味は素敵ね。トモダチンコ…

どうやらお気に召したようで、カワイく呟(つぶや)いていた。あーあ(笑)。

こうして友達との他愛ない会話を楽しめる今日は、人間の背負う悲しい歴史を知った昨日とはかなりギャップがあった。

昨日、私が触れた歴史はほんの一部で、まだまだ無知な自分が恥ずかしいけれど、実際に訪れ、肌で感じたことで関心を持ったり、恐怖を感じたりしたことは大きな学びだった気がします。

残念なことに、世界ではいまだテロや紛争で罪の無い人々が犠牲になっている。しかし、二度とこんな悲惨な歴史が繰り返されないことを切望します。人類皆、トモダチ…。

クラクフ旧市街の街中

【This week’s BLUE】ポーランド版プレッツェルの屋台。数メートルおきにあって、大体同じようなお店で同じようなおばちゃんが働いている。

*次回は8月18日(木)更新予定です

●旅人マリーシャ平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】