普通の人にとっても酷暑でツラい夏――。しかし、アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)の人にとっては尚更、ツラい時期だ。汗をかくことでアトピーが悪化してしまうのだ。

アトピーとは、乾燥とバリアー機能異常という皮膚の異常により、かゆみを伴う湿疹ができてしまう病気で「環境因子」と「遺伝因子」によって発症するとされているが、外部からの刺激やアレルゲン、ストレス等により症状が表れてしまう。厚労省の調査によれば、その総数は45万6千人(2014年)と推定されている。

また、子供は元々、肌が弱いので症状が出やすく、その多くが成長とともに改善されていくが、大人になり再度、症状が出てしまうケースも少なくない。

さらに大人のアトピーは顔に出やすいのも特徴だといわれている。顔に湿疹ができるだけでも気になるのに、それが汗で悪化…考えただけでもツラそうだ。

これまでは、汗も外部からの刺激として、汗をかくこと自体、禁止する医師も一部でいた。しかし近年、日本皮膚科学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では「汗はどんどんかいていい」という方針に変わったという。

これには「汗は悪者」という認識だった患者からも驚きの声が上がった。アトピーで化粧もできないという女性(21)も「今まで、お医者さんから『夏は汗かくから外は出ちゃダメ、就寝中もエアコンはつけるように』って言われてたのに…」と話す。

一体、なぜ汗を推進するようになったのか。

汗をかくこと自体は必要だが…

「今までも汗に関しては、皮膚科医の中でも長年、議論されてきました。ただ、汗の研究も進んできて、発汗が悪化因子であるというエビデンスは一方で、汗が皮膚に保湿効果をもたらし、感染防御となるバリアを作るなどメリットがわかってきました」

というのは、ガイドラインの作成にも関わった東京逓信病院副院長の江藤隆史氏だ。アトピー患者にとって汗がメリットでもあったとは…。しかし、では今まで悪化すると言われてきたのは、なぜだったのだろう。

「汗をかくこと自体は必要。しかし、それによって雑菌が付着するし、さらに湿っているためその雑菌が繁殖しやすい環境になってしまいます。そうすると汗が乾いても雑菌が残り、肌への刺激=悪化因子になってしまうんです」

そこで、ガイドラインでは「『汗をかくこと(発汗)』と『かいた後の汗』を区別して考える必要がある」とした。つまり、汗そのものが悪いのではなく、汗をかいた後に“長時間放置”することが悪いのだ。

「放置せず、対処することが大切です。一番、有効なのはシャワーを浴びること。とはいえ、働いていると無理でしょうから、水で洗い流したり、症状の出やすい足の付け根などは濡らしたタオルで拭くのがいいと思います。他には、汗を吸収する素材の服を着たり、着替えを用意したり、普通の汗対策でいいんですよ」(江藤氏)

医師の治療方針には裁量があるが、長年議論され、それぞれの医師によって考えが大きく違った「汗問題」。今後、研究が進むことでさらに治療に役立つことが期待される。

(取材・文/鯨井隆正)