ヌコ様と溺愛する猫好きな人々にとっては、自分や家庭より最優先!

「猫好きの人で、保護猫活動に力を入れすぎて離婚した夫婦がいるんですよ」

と話すのは、猫好きに人気の季刊誌『猫ぐらし』編集部のAさんだ。保護猫活動が原因で離婚!? 信じられない話だが、最近猫を飼っている人が増えたからなのか、異常な猫愛エピソードを耳にすることがある。

例えば、セクシーアイドルの湊莉久(りく)さんは愛猫のするめを飼っているが、本人はぜん息に猫アレルギーだ。

「それでも猫が好きでペットショップで何匹か抱いたんですよ。そしたらこのコだけ、症状が出なくて『運命だ!』と思ったんです。でも、実際飼ったら死にそうになるくらい症状が出ちゃって(笑)。今は慣れて落ち着いたんですけどね」

そこまでして飼いたくなる猫。猫関係の写真集やグッズも鉄板の人気商品だが、なぜそこまで魅了されるのか…。猫好きはわかるけど、普通の人には理解できない猫愛を取材してみた。

冒頭の話をしてくれたAさんも4匹の猫を飼う猫好きのひとり。ただし「猫用の防災グッズはあるのに、私用のものはない(笑)」そう。理由を尋ねると当たり前のようにこんな回答が返ってきた。

「4匹もいればキャリーを背中に背負って両肩に下げて、猫用のテントを持てば、あとは片手しか空いていない。そこに持つものといったら、必然的に猫用のフードでしょ」

大抵、救援物資は人間が優先でペットは後回し。理屈はわかるが、まず人間が先と思うのが普通の感覚ではないかとも思うが…。

しかし、そんなAさんもびっくりするようなエピソードはまだまだあるという。

「先日のことですが、うちの編集部員が猫を拾って病院に連れて行ったら、その猫が病気だったそうです。手術に50万円くらいかかると言われたらしいですが、即決したみたい。自分の飼っている猫でもないし、まだ愛着もないのに…。すごいことですよね」

50万円という金額にも驚愕だが、自分の飼い猫でもないところがすごい。深い猫愛は、所有のいかんを問わず、野良猫でも関係ないようだ。

家を建てるのも猫基準!

医療費も大変だが、その他にもお金をかけようと思えばキリがない。

「これは知人の話ですが、新築する家を猫仕様にしたと。猫が熱中症になるので夏はエアコンをつけっぱなしにするのですが、どの部屋も行き来できるように飼い主の外出中でも全室の空調をつけているらしいです。普通はメインの部屋だけでいいのですが、その方はせっかく家を建てるなら、ということで。初期費用もかかるけど、その後の電気代も大変そうですよね」(Aさん)

全室空調とは…。人間でも自分がいる部屋にしか冷暖房は付けないのに(涙)。一方、尋常でない猫愛を持っているのは、飼っている人だけでない。アイドル並みに人気のスター猫には追っかけがいるらしい。

「『猫ぐらし』にも多くの猫たちが登場しますが、その中でもスター猫の人気は凄まじいです。DVD発売イベントをすれば、全国どこでも固定ファンは会いに行くし、グッズ販売や撮影会は大盛況です」(Aさん)

ペット愛はどの動物にも共通するものだろうが、猫愛だけは突出しているように感じる。なぜ、ここまで猫が愛されるのか? 猫に夢中になる人が増えた理由を、獣医師でNPO法人東京生活動物研究所理事長、南部美香さんは次のように話す。

「20年くらい前の猫たちは、自由に外に行けて野外にいる時間が長かった。それが完全室内飼いにする家が増えて、飼い主が猫のライフスタイルを知るようになったんです。こう見えて猫は意外と運動量がある動物で『もっと遊んであげなきゃ』と感じたこともあると思います。そして共有する時間が増えることで、自分も周りの人も猫に夢中になったと感じるのでしょうね」

猫の魅力を先のAさんは「あまのじゃくなところ。冷たくされても、それはそれでいいんです」と語る。

「いたずらされたり、ものを壊されたりしても、それは飼い主のせいというのが猫を飼っている人の共通認識です。猫には一切の責任はなく、躾(しつけ)ができない動物と割り切ってしまえば、猫に合わせるしかないので、そう考えれば案外、楽なんですよ」

猫は赤ちゃんと同じ存在?

南部さんも「犬には躾が必要で、躾をしてこそ魅力がある動物ともいえる。対して猫は、自分が自分でいる、その存在自体が魅力なんです。躾ることもできないし、言うことをきかせることもできない。そこにいるだけで全てが許せるんですよ」と話す。

確かに、躾をしないと人間との良い関係が築けないともいえる犬は、どうしても立場が下になってしまう。一方、猫は人間が“個”としての存在を認めている。だからこそ「立場は対等で、心が通じ合える動物なんですよ」と南部さんは続ける。

しかも、猫の存在が人間の健康に影響するという事実は医学的にも証明されているそう。猫に癒やされるのは、どうしてなのだろうか。

「猫と心が通じていることで、辛い時や疲れている時に精神的に頼れるから」という南部さんによると、癒し効果という点で「赤ちゃんに似ているという可能性もある」そうだ。

「3kg程度の大きさや体の柔らかさ、鳴き声まで猫は赤ちゃんに似ていますよね。赤ちゃんと触れることで分泌される、ストレスを消して多幸感を与えてくれる“幸せホルモン”オキシトシンが、猫と赤ちゃんが似ていることで分泌されるからかも」(南部さん)

数々の書籍が並び、犬人気を超える勢いを見せる猫人気。頼れる存在でもあれば、癒される時もあり――猫って素晴らしい! ますます猫人気は冷めやらぬようだ。

(取材・文/坂田圭永)●『猫ぐらし』(アスペクト)季刊誌で2・5・8・11月の12日発売。猫を飼っていなくても「猫が好き!」という方にもオススメ。ヴィジュアル面を強化、人気猫や看板猫など様々なニャンコも登場し、猫ゴコロを満タンにしてくれる。

●南部美香獣医師。NPO法人東京生活動物研究所理事長。北里大学獣医学科を卒業後、厚生技官を経て、カリフォルニア州アーバイン市の“THE CAT HOSPITAL”で研修を受ける。帰国後、東京都内で猫専門の病院「キャットホスピタル」を開業。著書に『猫の真実』(中日新聞社)がある。https://www.amazon.co.jp/dp/4806206881