ごく普通に日常生活を送っている中で突然、動悸、呼吸困難、発汗や目眩(めまい)を起こし“死ぬかもしれない”強い不安感に襲われる“パニック発作”。
実は記者も発症し、今現在も症状に苛(さいな)まれている。そこで自分の症例も踏まえ、この苦しみと真正面から向き合い、他の患者達の葛藤も共有し克服への方法を手探りしたいと考えた。
初めて発症したのは昨年11月、エレファントカシマシのライブ鑑賞中だ。ステージから5m至近距離のチケを入手し、宮本(浩次)さんの熱唱する姿を見ていた。1曲目は大興奮だったものの、2曲目のド頭で何気に後方が気になり振り返ると、会場いっぱいのヒトヒトヒト…を目にしたと同時に首筋が冷え、“こんなに人がいたら外に出られない!”という恐怖感にズドーーンと襲われた。
途端に動悸と目眩(めまい)を起こし、指先が冷たくなるのを感じると“マイケル・ジャクソンの伝説のライブ『ライブ・イン・ブカレスト』で失神して運ばれるファンのような大失態を起こしてしまうかも!?”という恐怖と焦りに悶絶。しかしどうにか自らを鼓舞し、隣に居合わせた若者2人組を自分の友達と見立て、“コイツらと一緒に観に来たから大丈夫だ(ホントはひとりだが)”と言い聞かせ、なんとかとり直したのだ。
失神寸前になりながらも、宮本さんが歌う3曲目『TEKUMAKUMAYAKON』の「♪もっともっと自由たれ、心よ!」に勇気づけられた気がする…。
しかしその後、運転中に超渋滞にハマってしまい、前後に連なるたくさんのクルマを見て圧迫感を感じたり、美容院で洗髪時に顔に布をかけられ驚いて飛び起きたり、窓のない会議室で取材中に瞬間的に正気を失いそうになったり…と日常生活のあらゆるシーンで、あのライブ中の時と同じ動悸や目眩を感じる“発作”が頻発した。
直感的にこれはきっと精神的なものだろうと感じて心療内科へ。すると「不安神経症からくる、軽いパニック発作です」との診断。ついに鬱(うつ)デビューか…とドンヨリするとともに、正直、あの発作が起きた時の恐怖や不安感は何物にも代え難い苦痛であり、一刻も早くどうにかしたい!という思いに駆られている今。同じように苦しんでいる人も多いはずだ。
というわけで、まずは愛知県江南市の心療内科・精神科『江南こころのクリニック』院長・白川哲康氏にパニック発作の最近の傾向と対策について、藁(わら)をもすがる思いで直撃してみた!
―先生、そもそもパニック発作ってなんですか?
白川「パニック発作とは身体症状を伴う非常に強い一時的な不安障害のことを言います。胸の痛みや動悸、息苦しさや目眩、失神などの症状を引き起こし、“このまま死んじゃうんじゃないか”という気持ちにまでなるものの、10分ほどで症状が消失する症状です」
―私はまだ“死ぬかも”ほどの体験はないものの“また起こるんじゃないか”という不安が常にあり、非常にスッキリしません…。
白川「その“また起こるかも”という不安が“予期不安”というものです。その不安に捕われ、そのたびに発作が起きたり、予期不安を避けるために外出するのが怖くなったり引きこもりがちになる場合もあります。そういった発作が頻回に起こり日常に支障をきたすと“パニック障害”と診断を受け、鬱病を合併する場合もあります」
ストレスが原因とは証明されていない?
―パニック発作を発症する原因はあるのでしょうか。
白川「実はいまだよくわかっていません。しかし当クリニックでも圧倒的に30、40代女性が多いですが、男性の患者さんも30、40代が多いですね」
―こんな人に起こりやすいとか、最近の傾向などは…。
白川「真面目で几帳面だとか、完璧主義で人に任せることができない人が起こりやすいなどと言いますが、30、40代の男女に多いのはご両親の介護問題が発生したとか、どちらかが亡くなられた喪失感だとか、離婚によるストレスだとか、大きな出来事が発症する前に起きていることもあります。これらストレスがはっきりとした原因だとは証明されていません。なんらかの因果関係はあるというぐらい。最近の傾向というものはなく、精神疾患の中では非常にポピュラーな病気なのです」
そんな“ポピュラー”な病気だったとは…と思いきや、確かに記者の周辺にも! 漫画家・マミヤ狂四郎こと『ロケットニュース24』の編集長で迷惑メール評論家でもあるGO羽鳥氏(37歳)だ。
―最近、パニック発作を発症したとのことですが…。
羽鳥「実は、私は鬱病を20歳の頃から抱えていますが、今年8月末に初めてパニック発作のやや軽いのを経験しました。その日は会社で仕事をしていたのですが、息を吸っても吸っても苦しいし、何度も深呼吸をしても空気が入ってこない感じが続いたもので“なんなんだこれは?”と。その症状が週に2、3度くらい起こるようになり、不安に感じ病院の呼吸器科に行って心電図やらレントゲンの検査をしても異常なし、その後に心療内科に行くと“不安神経症、パニック軽症”だと診断されました」
―何か特に原因で思い当たることは?
羽鳥「今年は本当にいろいろなことがあったのですが、春先くらいから母の緊急入院やら私の離婚など、立て続けに超絶ヘビー級な問題が次々とありまして…そのストレスが爆発したのかも。約3ヵ月も入院していた母も退院できましたし、離婚も成立したので、とりあえずの問題は解決したのに“なぜ今!?”って思いもありますね」
―実際、どんな症状がどんな時に出ますか。
羽鳥「私の場合は天気や気圧の変化に大きく左右されるようです。気象病(気圧の変化により起こる頭痛や倦怠感、古傷の痛みなど)対策のため気象予報士が開発したアプリ『頭痛-る』で警報が出ている時=曇りや雨だと息苦しさを感じます。処方された薬も効く時となかなか…な時もあり、やや難儀していますね」
―パニック発作とは必ずしも動悸だけではないのですね!
羽鳥「はい。私は息苦しさのみ。最近は悪天候が続いているのもあり、わりと慢性的になっており、処方された薬が毎日欠かせません」
発症にタイムラグがあることもしばしば
―薬を飲む以外に、何か対策は練られていますか。
羽鳥「息苦しさに加え、気持ちまで落ちてしまってどうにもならない時は無理しないようにしますし、休日はひたすら自分の好きなことに没頭します。料理を作ったり、電気製品をいじくっていると落ち着くんです。最近はヨガにハマっています。ヨガで身体をほぐしながら“無”になることに集中するっていうか」
―ちなみに鬱になると性欲が減退する男性もいるようですが…?
羽鳥「あっ、そこはフツーにあります。私の場合は性欲と鬱は別物です」
この羽鳥氏のコメントを受けて、前出の精神科医・白川氏に再び伺ってみた。
―羽鳥さんのように問題が解決してスッキリしたはずなのにパニックを発症するっていうのは、ナゼなのでしょうか。
白川「それほどストレスというのはいつ何時どのように体に表れるかわからないものなのです。離婚してから1年後にパニック発症しただとかタイムラグがあることもしばしば。また、自分自身が自覚していないストレスによって発症することや、ストレスに無自覚なのに発症することもあります」
―まさに、どんな人でも発症する可能性がある病気なのですね…。ではパニック発作時の注意点と治療法とは?
白川「動悸や息苦しさを感じると、ほとんどの人が内科に行って血液検査や心電図までとって“異常なし”と言われて放置してしまう。内科では精神のバランスの乱れはわかりませんので、あまりに症状が続くようなら心療内科や精神科を受診することです。
やはりパニック障害には薬による治療が欠かせませんから、自分でなんとかしようとしたり無理しすぎないことです。一刻も早く動悸や息苦しさから解放された日常を取り戻すことが大事です」
◆後編記事⇒『小学生から大人まで発症する“パニック発作”。自分に合った付き合い方とは』
(取材・文/河合桃子)