ごく普通に日常生活を送っている中で突然、動悸、呼吸困難、発汗や目眩(めまい)を起こし“死ぬかもしれない”強い不安感に襲われる“パニック発作”。
実は記者も発症し、今現在も症状に苛(さいな)まれている。そこで自分の症例を踏まえ、克服への方法を手探りしたいと考えた。
前編記事に続き、さらに後編では実際、様々なケースで発症した人達の経験談を伺いつつ、パニック発作との付き合い方について検証する。
まずは、DV夫との離婚後、2年後にパニック発作を発症したという小学生の子供ふたりを持つ、ゆきこさん(38歳)のケースから。
―最初に発症したのはいつだったのですか。
ゆきこ「前夫と離婚し2年後に再婚したんですね。その再婚相手と子供とレストランに行った時、離れた席に座っていた他の家族のお父さんの子供達を叱る怒鳴り声を聞いた途端、心臓がズキーンと痛くなって動悸と冷や汗と震えが止まらなくなって。救急車を呼ぶ呼ばないの騒動になったものの、その時は夫に車の中で介抱してもらううちに落ち着いたんですが。それから電車の中や人混みで大きな声を聞くと怖くてたまらなくなったんです」
―人混みで誰かが声を荒げているのを聞くとパニックを起こすように?
ゆきこ「はい。前夫はよく私のことを怒鳴りつけていたので、たとえ他人でも怒鳴り声を聞くとその記憶が蘇って発作が出るようになったんです。心療内科に行ったら“前夫によるPTSDからくるパニック発作”と診断されました」
―けど離婚後、2年間はフツーに暮らしてたのに再婚してから発作が出たと。
ゆきこ「それは自分でも不思議なんですが、まあ離婚するまでの数ヵ月の間も、前夫と一緒にいるだけで動悸があったりはしていたんですよね。それで離婚後、落ち着きは取り戻したものの、再婚して間もなく出たって感じですね」
―他には何か症状はあるのですか。
ゆきこ「前夫は女遊びも激しく、“オレが浮気するのはおまえに魅力がないからだ”と言って公然と浮気していた感じで。それで食事中も常にケータイで女性とメールのやり取りをしていたのですが、他人が同じように食事中や話している時にケータイをいじる姿を見ると、もう動悸がしてきちゃって」
―どんな相手でも?
ゆきこ「今の夫にはそのことを伝えているので注意してくれますが、一時期はそうでした。前夫と離婚し、今の夫と生活を始めてからもう5年経ちますが、今でも1、2ヵ月に1回は大きい発作が出てしまい、薬を飲んだりなどして落ち着くようにしていますね」
―今の生活では何も不安はないはずなのに、発作が出てしまうんですね。
ゆきこ「そうです。今の夫は非常に私の症状にも理解があり、対策を練ってくれて万全なのに、いまだに悩まされています。なのでまぁ、この発作とは一生付き合っていくしかないんだろうなと」
―パニック発作は完治しないものだと?
ゆきこ「どうなんでしょう。もちろんなくなったほうが楽ですが、一度発作を経験してしまった以上、その回数が減ることはあっても皆無になることはないように思います。大事なのは発作が起きた時に楽になれるように対処できることかなと。私の場合は薬を飲んで寝ちゃうとか呼吸を整えるとか、“大丈夫、大丈夫”と自分に言い聞かせることでとても楽になりました」
ゆきこさんが感じているように、パニック発作が完治することはないのだろうか。そこで臨床発達心理士の荒谷(あらや)純子氏に治療法と付き合い方について聞いた。
小5の時、ニュースを見ていたら…
―パニック発作は一度発症すると完治は難しいものなのでしょうか。
荒谷「パニック発作を経験すると、以前に発作を経験した状況が怖くなってしまい、その状況を避けるようになります。例えば、その場が電車の中や公共の場であれば、人目がある外に出ること=外出自体が困難になり“広場恐怖症”となります。また、その発作を繰り返すうちにまた起こるのではないかという“予期不安”を感じるようになります。
パニック発作の治療法は不安を和らげるための薬と暴露(ばくろ)療法がメイン。それらを行なうことで発作が起きなくなったり、起きそうになったら対処するもので、完治する人もいれば不安定になりながらも問題ない状態になる人もいたりと様々です」
―暴露療法とは?
荒谷「行動療法の一種です。パニック発作の引き金になる状況や刺激に繰り返し触れることで恐怖感を消すのに役立ちます。あえて不安を誘発する状況下に身を起き、本人が安心していられるようになるまで練習を繰り返すのです」
―それはひとりで行なうものなのですか。
荒谷「誰か付き添ってもらえる人がいるならそのほうがいいとは思います。過呼吸になってしまう人なら、ゆっくりと呼吸をすることを練習したり、電車で発作を起こしやすい人なら、最初は普通電車に乗ってひと駅乗る練習をしたり、次に急行電車でひと駅乗ってみたりして、徐々に不安を感じる対象に慣れることで克服していくのです」
では続いてもうひとり、なんと小学5年生の時にパニック発作を発症したという、高田ゆうじさん(仮名・36歳)のケースも紹介しよう。
―高田さんはどのようにパニック発作を発症したのでしょうか。
高田「小5の時、正月に餅を喉に詰まらせて亡くなったご老人のニュースを見ていたら“餅食ったら僕も喉に餅を詰まらせて死ぬ!”って考えに捕われてしまい、そのうちに過呼吸になって救急車で搬送。けど、運ばれる途中で回復して帰されるっていう…」
―実際に餅を喉に詰まらせたわけじゃないのに!?
高田「そうです。ニュースを見た途端、喉を詰まらせるって悪い予感しかしなくなってパニックを起こした感じ。その発作は1回で治まりましたが、中学になったら今度は家の些細(ささい)な汚れが気になり、トイレを使うとばい菌が移るとか、手を洗い出すと30分近く洗ってるとか、そのうち外出すらできなくなって。それで精神科に行ったら強迫性神経症だと診断され、小学生の時に起きたパニックも強迫神経症によるものだってわかったんです」
―精神科に行ってから、何か治療はしたのですか。
高田「中学の時から今の歳に至るまで、向精神薬で治療し続けてる感じです」
―けどパニックはもう小5の時以来、発症してないのですか。
高田「今に至るまで高校時代は不登校だったり、大学も卒業はできたけど行けたり行けなかったりで小康状態を保ち、転職も10回くらいしてます。つい最近、仕事が立て込み、夜中に仕事をしていたら、久々にデカい動悸と冷や汗と不安感に襲われてしまって。しばらく横になって落ち着きましたけど」
最近よく聞くのは“マインドフルネス”
―子供の頃から常に苛まれる暮らしを! パニック発作を克服するための良い方法を模索したりは…。
高田「やはりまずは薬でしょう。しかし、合う合わないがありますので、それと出会うまでいろいろ試して気長にって感じです。当たり前のことですが、疲れを溜めすぎないとか規則正しい生活するとか、そういう普通の暮らしをすることが一番大事ですよ」
小学生でもパニック発作を起こすとは驚きだが…。前出の臨床発達心理士・荒谷氏は青少年期のパニック発作の症状にも詳しいので再び聞いてみた。
―子供に起こるパニック発作とはどんなものなのでしょうか。
荒谷「小中学生では授業中にあてられて上手く答えられなかったらどうしよう…などの不安から、授業中に動悸や過呼吸になり、すぐ逃げ出せない状況や助けが得られない状況を回避したりして、登校自体が困難となり不登校になるケースがよくあります」
―小中高と年代で起こりやすい状況は変わるのでしょうか。
荒谷「そうですね、高校生になって電車通学になったりすると、満員電車や特急電車に乗ると目眩(めまい)や吐き気などで気分が悪くなって途中下車してしまうといった軽い状態に始まり、そのうち外出すること自体に緊張と不安が高まって不登校となるケースも。特に青少年期は、発作が収まっても感受性が敏感になり情緒不安定になることも多いのです」
―その後、大人になってから再発するケースもあると。
荒谷「あります。小学生の時に薬の治療により収まったものの、小学生の時と同じような状況を体験し再発するとか」
―子供から大人まで様々なパニック発作を抱える人達を見てきた荒谷さんから、付き合い方や克服法を教えていただけますか。
荒谷「やはり、もちろん薬と暴露療法が大事ではありますが、普段の心がけや予期不安などに襲われた時の対処法として最近よく聞くのが“思考場療法”という手や顔などへの“つぼ押し”ですね。人差し指と中指で不安を緩和するつぼをトントンと軽く叩く方法です。これは熊本地震の被災地で避難生活を送る方へも講習会が行なわれたもので、手順が簡単で即効性もあると注目されています」
―まさか、つぼ押しがパニックに効くとは!
荒谷「あと、最近よく聞くのは“マインドフルネス”です。わかりやすくいうと瞑想で自分に注意を向けることです。立ってても座ってても、目を瞑(つむ)って意識の中で先の計画や心配事から自分を解放して自由を楽しむという」
―その瞑想にはなかなか慣れが必要ですね…。
荒谷「Appleのスティーブ・ジョブスも瞑想実践者だったのは有名な話ですし、今では欧米の様々な企業や国会でも自己管理の王道になっているようです。とにかく自分に合った方法を見つけて、1日でも早く平穏な気持ちを取り戻すことが大事ですよ」
マインドフルネス、深そう…。慣れてしまえば、仕事中でもいついかなる時も実践できて、かなり良さそう? とりあえずは記者も次に予期不安に襲われたら、すぐさまできそうな思考場療法を実践してみるとしよう!
https://www.youtube.com/watch?v=JCKBQvG1KmU
(※思考場療法とは、元はアメリカの心理学博士が編み出した方法で日本でも“TFT療法”(Thought Field Therapy)という名称で認知が広がっている)
(取材・文/河合桃子)