不規則な食生活、ストレス、そして運動不足…。現代人の生活は、かつて「オヤジ病」といわれた病気の低年齢化をグイグイ進行させていた!
名医たちの指南で、2017年こそ心機一転、健康なカラダとココロを取り戻せ!
■運動しないと筋力も骨量も急降下
「交差点を急いで渡ろうとしただけで、アキレス腱(けん)を切ってしまった」
「会社のゴルフコンペに備えて集中的に練習したら、肋骨(ろっこつ)を疲労骨折した」
まだ若年と呼ばれる世代に、最近はこんなケガが増えているという。
「今の40代以下の人たちは骨や筋肉、関節など運動に関わる機能が確実に低下しています」
スポーツドクターとして長年、運動部の学生を診てきた南和文先生はこう断言する。
「高度経済成長期以降に生まれた人たちは、日常的に体を使うことが極端に少ない。コンピューターやゲームの登場で走り回って遊ぶ機会を失い、交通網の発達で歩く距離も減り、しゃがんで用を足す和式トイレも消えた。運動部に入っても、一部の学校を除いて練習は緩くなる一方。若年層の体力は、落ちるべくして落ちているんです」
運動器抗加齢医学研究会副会長の中村洋先生も、こう警鐘を鳴らす。
「骨も筋肉もピークは成長期が終わる20歳前くらい。筋力はその後も多少は鍛えられますが、骨量は減少を食い止めることしかできません。運動と栄養が不足したまま大人になった人は、対策を講じないと老化スピードが加速する危険性があるのです」
日本の高齢者は「若い頃の運動量が豊富で、体力維持や健康の意識が高く、運動人口も多い」(中村先生)。一方、若年層の多くは子供の頃から運動習慣がなく、「腹筋が弱い人が目立つ」(南先生)。背筋は立っているだけである程度維持できるが、腹筋は意識的に運動して鍛えるしかない。腹筋が弱いと若いうちから腰痛を発症したり、転びやすくなるという。
貯金より大事な「貯筋」と「貯骨」
■テスト不合格なら将来は要介護?
ただ腰が痛いくらいならまだいいが、運動機能の低下は早めに食い止めないと近い将来、恐ろしい事態を招く。
「異常なほど全身の筋量、筋力が減り、日常の動作が制限されるサルコペニアという病態が若年化しています。一般に70代以降に発症しますが、最近は40代での発症例も珍しくない」(中村先生)
筋肉の減少によって起きるサルコペニアに対し、骨、筋肉、関節など運動機能全般が低下した病態をロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称「ロコモ」)という。これも高齢者だけの症状だと思ったら大間違いで、20代のうちから進行は進んでいる。
まさか、自分に限ってそんなことは…と思っている人も、この機会に「ロコモ度」を確かめてほしい。下肢の筋力を測るテストで、高さ40cm、30cm、20cmの腰かけられるものがあればすぐにできる。これをパスできなければ将来「要介護」になる危険性もあるという。
「若い人に立ち上がりテストをしてもらうと、基準値をクリアできない人が予想以上に多い。そんな人には、今日から運動を始めよう、とアドバイスしています」(南先生)
■貯金より大事な「貯筋」と「貯骨」
骨量の減少を最低限に抑え、筋肉量を増やすために必要なのは、一に運動、二に栄養だ。
南先生のオススメ運動は、相撲の四股(しこ)とテッポウ。四股は下肢の筋肉がつき、股関節が動きやすくなる。壁を利用したテッポウは、体重をのせて手をつき、腕で壁を押し返すのがコツ。体重のかけ具合を自分で調節でき、フルに体重をかければ、腕立て伏せに近い効果が得られる。
中村先生のオススメ運動は縄跳び。重力に逆らって跳びはねる運動は、骨にも筋肉にも効くからだ。では、栄養は何に気をつけたらいいのか?
「骨に必要なのはカルシウムとビタミンD。カルシウムを含む牛乳やシイタケを食べ、日光に当たると、体の中で活性型ビタミンDが作られます。ビタミン類が足りなければサプリメントで補う手もありますが、高いサプリを買うお金があるなら肉や魚、野菜類をきちんと食べたほうがいい。
若いうちは貯金より、貯筋・貯骨が大事です。運動機能向上にお金と時間をかけたほうが、将来的には病院に行く日数が減り、健康を保てるため医療費もかからないのです」(南先生)
ただし、運動のやりすぎはケガのもと。十分注意をして、貯筋・貯骨に励んでほしい。
●南和文先生 山王病院整形外科上席部長。関節、脊椎・脊髄疾患、スポーツ疾患が専門。学生時代の相撲経験を元に「相撲体操」のビデオを作成中
●中村洋先生 山王病院リウマチ科部長。リウマチ疾患、関節疾患、運動器のアンチエイジングが専門。現役のマスターズスイマーでもある
★週刊プレイボーイ3&4号「今年こそ拡大する『オヤジ病』の低年齢化を食い止めろ!!」より
(取材・文/浅野恵子 協力/世良光弘)