不規則な食生活、ストレス、そして運動不足…。現代人の生活は、かつて「オヤジ病」といわれた病気の低年齢化をグイグイ進行させていた!
名医たちの指南で、2017年こそ心機一転、健康なカラダとココロを取り戻せ!
■「新型うつ」の診断に新たな光
10代から高齢者まで、日本のうつ病患者は増える一方だが、なかでも若年患者の増加が目立つ。しかも、高齢者のうつ病がほぼ従来型の症状であるのに対し、若い世代は「新型うつ病」あるいは「現代型うつ病」と呼ばれる“ニュータイプ”が大半だ。
若年世代の精神疾患に詳しい吉田たかよし先生によると「最近特に増えているのは、双極性障害Ⅱ型とそれに類似した症状」だという。
かつては「躁うつ病」と呼ばれた双極性障害は、躁状態とうつ状態を繰り返すのが特徴。Ⅰ型の場合は躁が激しく、自分の収入を超える買い物をするなど社会生活に重大な支障を来すが、Ⅱ型では躁の症状がはっきりしない。
「そのため、病院で単極性のうつ病と診断され、薬を投与されるケースが非常に多い。しかし、うつ病の薬は双極性障害には効きにくく、長期にわたって症状が改善されないという問題が起きています」(吉田先生)
さらに、双極性障害Ⅱ型の患者は過大に自己を評価し、尊敬されるのが当然と思い込む自己愛性パーソナリティ障害や、対人関係が極度に苦手などの症状を持つ発達障害を同時に抱えていることも多いという。
「ほかにも俗に『新型うつ病』と呼ばれる病気には様々な症状が混在し、境界線が引きにくい。そもそも、うつ病の根本的な原因もわかっていないため、診断が難しいのです」(吉田先生)
ただ、近年は「光トポグラフィー検査」という新しい検査方法が登場し、より的確なタイプ分けができるようになってきた。頭皮や骨を透過する近赤外線を使って脳に流れる血液を検査し、脳の活動状況を調べるのだ。
この検査は、従来型のうつ病(大うつ病性障害)と双極性障害、さらに初期にはうつ病に似た症状を示すこともある統合失調症を区別するのに役立つ。
「精神科領域の病気は医師によって診断のばらつきがありましたが、光トポグラフィー検査で客観的なデータが得られるようになったのは大きな前進です」(吉田先生)
磁気刺激療法で劇的に改善することも
■磁気刺激療法で劇的に改善することも
検査のみならず、治療面でも短期での回復が期待できる画期的な治療法が登場した。脳の背外側前頭前野に磁気のパルスを当てる「磁気刺激治療」だ。
「抑うつ症状が出ているときは、脳の奥にある扁桃体(へんとうたい)が過活動になっています。扁桃体は喜びや不安といった感情をつかさどり、危険を避けて生き残りを図るために、すべてのほ乳類が持っている原始的な器官で、喜びの感情よりネガティブな感情に大きく反応しやすい。
不安と不満がスイッチとなり、扁桃体が暴走を始めると、じっくり物事を考えるために必要な背外側前頭前の活動が著しく落ちてしまいます。つまり、扁桃体と背外側前頭前野はシーソーの関係というわけです。
磁気刺激治療はこの関係性を逆手に取り、背外側前頭前野に磁気パルスを当てて活動を活発にすることで扁桃体の暴走を抑制し、脳の活動のバランスを戻すのです。日本ではこれまで抗うつ薬が気軽に使われてきましたが、患者が24歳以下の場合、うつ病のタイプによっては抗うつ薬の投与で自殺が増える、とのデータも得られています。それを防ぐ意味でも、磁気刺激治療に期待が集まっているのです」(吉田先生)
吉田先生の本郷赤門前クリニックでは、光トポグラフィー検査装置と磁気刺激治療装置を備えているクリニックと提携し、検査と治療を行なっている。双極性障害Ⅱ型も含めた幅広いうつ症状に対し、磁気刺激療法とカウンセリングの併用で、劇的な効果が得られる例も多くなってきたという。
精神科領域の病気は、誰にでも発症の可能性がある。特に、対人関係のストレス耐性を持たないまま大人になった若年世代は、仕事などで大きなストレスがかかる場面で新型うつの症状が出やすい。これに対し、単なる精神論ではない有効な予防策はあるのだろうか?
「オメガ3脂肪酸を多く含む青魚をたくさん食べる食生活、そして毎日の運動ですね。青魚を多く食べている人にうつ病が発症しにくいこと、運動がうつ病の予防にも治療にも効果があることは、すでに複数の実験で証明されていますから」(吉田先生)
ここでも登場した食生活と運動の話。結局、この2本柱が心身両面の健康のカギになるようだ。
●吉田たかよし先生 本郷赤門前クリニック院長、東京理科大学客員教授。最新刊は『今どきの大人を動かす「ほめ方」のコツ29』(文響社)
★週刊プレイボーイ3&4号「今年こそ拡大する『オヤジ病』の低年齢化を食い止めろ!!」より
(取材・文/浅野恵子 協力/世良光弘 イラスト/スズキサトル)