「筋トレも語学も、あらゆるものの習得過程は同じ。筋トレは自分の能力のブレイクスルーを実感するために、最も効率のいい方法です」と語るTestosterone氏

「ダンベルは何があっても裏切らない」「ゴリラこそ人間の目指す究極の姿」「筋トレと栄養学を義務教育に」…。

まさに“脳筋”(=脳が筋肉でできているかのごとき思考法)としか言いようのない言葉の数々。そんな“筋肉格言”をツイッターで発信し、12万近いフォロワーを虜(とりこ)にしている人物がいる。それがTestosterone(テストステロン)氏である。

日本に生まれ、アメリカ留学中に筋トレと出会い、現在は経営者として世界を飛び回っている…ということ以外は、まったく素性が知れない謎の人物だ。そんな氏が送る筋トレ本の最新刊がこの本。

『人生の99.9%の問題は、筋トレで解決できる!』というタイトルも大仰だが、内容は人間関係の悩み、メンタルの悩み、ダイエットの悩みなど、あらゆる問題に対して筋トレで答えるという壮大な人生指南書になっている。その脳筋すぎる物言いに人は笑い、そして無性にヤル気をみなぎらせてしまうのだ。

そんな氏の脳筋の根底にある哲学と、筋トレ万能論の真意を聞いた。

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―本業はビジネスマンだそうですが、筋トレについて発信するようになったのはなぜ?

Testosterone(以下、 僕は、中学生の頃まで体重が110kgあるような肥満児で、根性もなく、運動も大嫌いだったんです。でも、アメリカで筋トレに出会い、80kgまで体重を落とすことに成功しました。しかも、見た目が変わっただけではなく、努力の仕方、人生に対する考え方など、筋トレから多くを学ぶことができた。そんな自分が何をすべきかを考えたとき、やはり自分を救ってくれた筋トレの素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいと思ったんですよね。もはや、それが僕の「天命」ではないかと。

―「筋トレは宗教と似ている」ともおっしゃっていますね。

 はい。はっきり言って、宗教とまるっきり同じですね。人生で本当に悩むことって、考えても解決しないことばかりじゃないですか。でも、筋トレしてるヤツは「考えてもしょうがないから筋トレして寝よう」と思えるんです。だから、筋トレ好きには悩みがない(笑)。

結局、人って何か信じるものがあれば強くなれるんです。それが宗教なのか、筋トレなのかという違いでしかない。しかも、筋トレは怪しくないし、金もかからないし、テストステロン(男性ホルモンの一種)が分泌されるから確実に気分が上がる(笑)。そう考えると、どんな宗教よりも“強い”んですよ。

―筋トレで人生を変えよう、という考え方は、一種の自己啓発とも言えそうですが?

 そう言っていいと思います。僕自身が、筋トレに出会って人生を変えることができたので。ただし、重要なのは筋トレには必ず実践が必要だということです。巷(ちまた)の自己啓発本を読んでも、実践する機会がなきゃ本当には理解できないじゃないですか。でも、筋トレは誰でも今すぐ実践できるし、やれば自分の体が強くなっていくことを実感できる。体験のなかで効果を感じられるんですね。

義務教育に筋トレを組み込んでほしい

―しかし、筋肉が成長したからといって、ほかの能力が成長するわけではないですよね?

 もちろん。ベンチプレスで100kg持ち上げられるようになったからといって、語学力が上がるわけではない。でも、あらゆるものの習得過程って、筋トレと同じだと僕は思ってるんです。僕もアメリカに行ってから英語を本格的に学んだのでわかるんですが、勉強しているときに「なんか最近伸びないなー」と停滞を感じることがある。そんなとき、ちょっとやり方を変えて字幕なしの映画でも見てみると、意外とすっとブレイクスルーが訪れるんですよね。

筋トレも、何週間も同じ重量で停滞していたのに、やり方を変えて取り組めば急に壁をぶち破れたりする。この感覚を知っている人と知らない人では、人生に大きな差が出ますよ。しかも、筋トレは筋肉の数だけブレイクスルーがあるから、めちゃくちゃ効率的に経験値を上げることができる(笑)。

―筋トレは、あくまで成長の仕方を学ぶためのツール、ということですね。ビジネスの場面で筋トレの恩恵を感じたことはありますか?

 ものっすごくありますね。まず、企業の社長や偉い人に好かれます。そういう人って、支配欲を司(つかさど)るテストステロン値が確実に高いから、同じようにテストステロンを分泌しまくってる“強い個体”に本能的に敬意を抱くんですよ。「近頃の若いヤツは頼りないけど、キミは男らしいなぁ」ってなもんです。アメリカなんかだと、太ってるヤツはそれだけで「自己管理のできない人間」として信用されないし、筋トレ大国なので体を鍛えてると目上の人との話題にも事欠かない。

日本には日本の文化があるので、僕はそれを否定しませんが、だからこそひとりだけ体のでかいヤツがいたら目立つんじゃないですか。最新のガジェットをそろえてプレゼンに臨むより、誰よりもでかい体でひと言発する。自分のプレゼンスを上げるには、最も費用対効果のいい方法だと思います。

―現在、筋トレと栄養学を普及させるためのサイト『DIET GENIUS』を無料で運営していますね。これも筋トレを日本に広めるため?

 そうですね。僕は筋トレの素晴らしさを信じているので、将来的には義務教育に筋トレを組み込んでほしいと思っています。ただ、『DIET GENIUS』を始めた理由は、まずは正しいダイエットの知識を知ってほしかったから。

今、無数のダイエット法が巷にあふれていますが、「◯◯を食べるだけ」などという方法はその場しのぎでしかない。しかも、一歩間違えると拒食症、栄養失調などに陥る危険なものばかり。だから、お金のない若いコたちや成長期の子供を持つお母さんたちに、まずは正しい栄養学と運動の知識を身につけてもらいたいんですよ。今のところ、完全無料で広告さえ入れてませんから、大赤字ですけど(笑)。

―現在、「Testosterone」という謎の人物として活動していますが、正体を明かすつもりはないんですか?

 今はまだそのときじゃないと思っています。ただ、正体がバレたらバレたで、それもまた自分の天命。何も悪いことをしているわけじゃないし(笑)、そのときは新たなステージに移行するつもりです。

(取材・文/西中賢治)

●Testosterone(テストステロン)1988年生まれ。高校2年まで日本で過ごした後、アメリカに留学。現在、自ら起こした企業の社長として働きながら、筋トレ情報を発信している。根っから明るい性格で、将来の目標は「バリバリ稼げるゴリラになること」

■『人生の99.9%の問題は、筋トレで解決できる!』主婦と生活社 1200円+税人間関係や異性のこと、メンタルヘルス、日常の退屈さなど、現代人の抱えるあらゆる問題に“効く”筋トレ方法をレクチャー。筋トレ大国・アメリカに留学した経験のある著者だけに、「Curls for girls(男の二の腕は女のコのためにある)」など、粋な(?)英語の寸言も多く紹介されている