日本人の“働きすぎ体質”は、国民の総“非リア充”化に拍車をかけているのだろうか?
婚活支援サービスを展開する民間企業が「1ヵ月の平均残業時間が41時間を超える」男女220人に対して行なった調査によると、長時間労働が原因で「(恋人と)一緒に過ごす時間が減った」、「相手に迷惑を掛け、我慢させた」など、恋愛になんらかの支障をきたしたことがある人は全体の7割にも及んだという。
とはいえ、「デートがあるから今日は残業しません!」とは言えないのも日本人の性(さが)だが、「仕事>プライベート」という価値観を見直すことができれば、我が国の長時間労働問題の解消に繋がる…かもしれない。
そのヒントになりそうなのがドイツだ。OECDのデータ(2014年)によると、日本の年間平均労働時間は1729時間だが、ドイツは主要国の中で最も短い1371時間。さらに、ドイツの労働生産性(労働時間あたりの国内総生産)は64.4ドルで、日本の41.3ドルを大きく上回っている。
この差は一体なんなのか? コミックエッセー『男の価値は年収より「お尻」!? ドイツ人のびっくり恋愛事情』(KKベストセラーズ)などの著者を持つ日独ハーフのコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんによると、ドイツ人の働き方には恋愛が密接に関係しているのだという。どういうこと!?
***
―ご自身の著書には、日本人にとって驚くべき恋愛観がぎっしりと詰め込まれていますが、ドイツ人の恋愛をひと言で表現すると、どのようなものなのでしょうか?
サンドラ ドイツ人は、とにかく恋愛に寛容でオープンです。未成年のカップルが親のいる実家に泊まったりしますし、街中でもイチャイチャして「僕の子猫ちゃん」などと、日本人が赤面してしまうようなあだ名でお互いを呼び合うのも普通のことです。性のオープンさに関しては、ドイツが熱心なキリスト教の国であった時代の反動とも考えられているのですが、何はともあれ、日本人とは全くと言っていいほど恋愛に共通点がないんですよね。
―確かに、日本人は何かと「奥手」と言われがちですしね。他にはどのような点でドイツ人と日本人の違いを感じられますか?
サンドラ 例えば、相手に求める要素ですね。本のタイトルにもある通り、ドイツ人は年収、肩書き、家族構成といった「条件」よりも、相手が自分の好みの容姿であるか、その人の「におい」が好きかなど「直感」を大事にしているんです。それにかなりのロマンチスト。旅行先や出張先からの彼女へのお土産は現地のビーチの砂や貝殻…なんてことも。ちょっとケチなのも否めませんが(笑)。
それと、もうひとつ大きな違いといえば結婚観です。日本ではよく恋愛のゴールは結婚と言われますが、ドイツ人には「紙切れ1枚に振り回されたくない」と結婚制度そのものを嫌う人もいるくらい、結婚を重要視していない人も多いのです。
男性も女性も、個人主義で経済的に自立している人が多いからです。日本のように周囲から「早く結婚しないの?」とか「○○家の名前を残しなさい」と言われることもありません。ですから、長い間同棲した後に結婚したカップルに理由を問うと、「節税のためです」なんてドライな回答が返ってくることも珍しくありません(笑)。
それはドイツが晩婚社会と言われる所以(ゆえん)でもあるのですが、とはいえ根っからの恋愛至上主義。結婚していなくても同棲している人はたくさんいますし、街はカップルで溢(あふ)れ返っています。ドイツには“カップル社会”が根付いているんです。
ドイツでは、30日の有給休暇を取るのが当たり前
―カップル社会、といいますと?
サンドラ どこに行くにも、何をするにもカップルで行動するんです。週末はもちろん、各行事や年末年始も一緒、会社のパーティにもパートナーを連れて行ったり。独り身だと肩身が狭く感じるほど、必ずパートナーと行動するんですよ。これは老若男女、共通して言えることですね。
―必然的に、恋人と一緒にいる時間が長くなるということですね。
サンドラ そうです。だから、お互いに楽しめる共通の趣味があって、かつ楽しい休暇を共に過ごせるかが大事な要素になります。そして、日本人のようにちょこちょこ休暇を取るのではなく、休む時は数週間ドン!と休んで、リゾート地でのバカンスを楽しみます。
―日本人にとっては、そんな長期休暇を取ることは難しいし、リゾート地に長期滞在するのはお金もかかりますけど…それが一般的なんですか?
サンドラ 特にお金持ちの人だけではなく、一般的にリゾート地での長期休暇を楽しんでいますよ。例えば、ホテルはオーシャンビューの部屋に泊まるけど、食事にはお金をかけないとかして。日本人は休暇や旅行は非日常と言いますけど、ドイツ人にとっては“人生そのもの”なんです。
―長期休暇を可能にしているのは、やっぱり法制度や企業の努力?
サンドラ それも大きいですね。ドイツでは法律で年間に24日の有給休暇を取るように定められています。もちろん、これは週末のお休みや病欠を除いた日数で、大体の企業は24日ではなく30日の休暇を取らせるのが当たり前です。
経営者など一部の人は例外ですが、ドイツは労働時間や休暇についてかなり厳密な法制度が敷かれているんです。例えば、最近日本で問題視されている労働時間ですが、ドイツでは1日の働く時間の上限を10時間と定めていて、大抵の企業はそれより少ない8時間でその日の業務を終了します。
もちろん繁忙期もありますから、日によっては12~13時間働くこともありますけれど、その期間も平均して10時間程度の勤務時間になるよう調整するんです。それに、その日の仕事が終わってから次の就労までに11時間は空けなければいけない「インターバル」というシステムもあります。
―なるほど。では、この制度に従わない…いわゆる“ブラック企業”として経営を続けた場合、ペナルティが課せられたりするのでしょうか。
サンドラ 現行の制度は70年代に労働組合の働きかけで完成したのですが、これは国からのトップダウンで決められた制度ですから、もちろんペナルティがあります。ドイツには労働安全局(日本の労働基準監督署に相当)という役所があって、企業が従業員に法律に違反するような残業をさせていないかチェックしているんです。
もし毎日10時間以上の労働を社員に強いていたり、週末に働かせていたことが発覚した場合には罰金のペナルティがあります。そして面白いのは、それが会社ではなく、上司のポケットマネーから支払われるということ。万が一、労働安全局から指摘が入れば、経営者は最高1万5千ユーロ(約210万円)の罰金を科されます。ちなみに、2009年4月にはテューリンゲン州の労働安全局が、ある病院の院長が医師たちに超過労働をさせていたという理由で6838ユーロの罰金を課しました。
日本人の働き過ぎ体質の温床は「皆勤賞」?
―なんだか、羨ましい限りです。そうした厳しい規制があっても、皆さんちゃんと仕事はこなせているのでしょうか?
サンドラ もちろんです。そうでなければ、ドイツは経済的に発展できていませんからね。といっても、定められた時間内で所定のタスクをこなせているのは、休暇や週末に対する執着心が最大のモチベーションとなっているといっても過言ではありません。
―先ほど仰ったように、「休暇は人生そのもの」だから?
サンドラ そうです。ドイツでは、「仕事が生きがい」という人がいるとすれば、それは経営者くらいです。一般のドイツの従業員が仕事に意欲的になる理由は「週末を恋人と楽しむために早く仕事を終わらせよう」「休暇に彼女とマリンスポーツに行きたいから、仕事を頑張ろう」といったような、まるで小学生の夏休みの宿題に対する意欲となんら変わりありません。ドイツはしばしば“超時短主義”と言われますけれど、単に休みをパートナーと過ごしたいためだったりします(笑)。
―ドイツ人の恋愛観と仕事観は密接に関わっているというのは、そういうことなんですね。
サンドラ もちろん、こうしたドイツ人の恋愛観や仕事観を日本人がそのままマネするのは難しいでしょうけれど、働き過ぎ体質を変える手立てはあると思いますよ。例えば、小学校にありがちな「皆勤賞」みたいな、病欠・早退・遅刻がゼロであることを賞賛する風潮をなくすとか。
―確かに! 皆勤賞は日本人の働き過ぎ体質の温床になっているかも…。
サンドラ あとは、自分のペースで休暇を取っている人を妬(ねた)んだり、貶(おとし)めたりする人も中にはいますよね。こういった仕事至上主義のような風潮を見直すことは、日本人の長時間労働問題を解消することにも繋がっていくのではないかと思います。
(取材・文/田代くるみ)
●サンドラ・ヘフェリン 1975年生まれ。ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフとバイリンガル問題」「ハーフといじめ問題」など、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(共著/KADOKAWA)、『爆笑! クールジャパン』(共著/アスコム)、『満員電車は観光地!?』『「小顔」ってニホンではホメ言葉なんだ!?』(共著/KKベストセラーズ)など
●『男の価値は年収より「お尻」!? ドイツ人のびっくり恋愛事情』 原作:サンドラ・ヘフェリン 漫画:流水りんこ/KKベストセラーズ/1180円+税