8月に開催された「国際鉄道模型コンベンション」で自作のリニア型の鉄道模型を走らせ、時速3546キロ(実車換算)という驚異のスピードを叩き出した男。いったい何者なのか?
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ギュギュイイーン。鉄道模型では聞いたことのない高い音が鳴り響き、リニアモーターカー型の車両が目の前を一瞬で通り過ぎる。「びっくりハウススペシャル Discover DREAM号」、8月18日に行なわれた国際鉄道模型コンベンションの「韋駄天(いだてん)! スピードコンテスト」で、時速3546キロ(実車換算)というギネス世界記録を樹立した車両だ。
これを作ったのが千葉県松戸市在住の江川芳章(よしあき)氏。彼はスピードコンテストが始まった3年前から負けなし3連覇。なぜそんなに強いのか? 工房のある自宅にお邪魔した。
彼の鉄道好きの原点は4歳のときに開業した東海道新幹線。家から近い東京駅へ新幹線を見に行っていたという。
鉄道模型に本格的にハマったのは大学生の頃。
「近くの模型店が高校の体育館を借りてスピードコンテストを開いたんです。面白そうだなと自作のマシンで挑戦。でも凝りすぎて完成は前日の夜。塗装も乾いてない状態で参加したんですが、脱線したりして1勝もできなかった。悔しかったですね」
そして今から3年前、スピードコンテストの開催を知り、再び参加することになる。長年技術者として働き、部品メーカーを経営するようになり、昔とは知識と経験が違う。
「スピードコンテストに出る車両はサスペンションを入れてます。普通、鉄道模型でサスペンションなんていらない。でも速いスピードで走る場合は、振動を吸収しないと車体が飛び上がって脱線しちゃうんです。それと車輪は少なく。増えると脱線の確率が上がります。あとホイールベースが長いほうが安定します」
本物の鉄道車両メーカーが使っているような試験装置を開発
さまざまなアイデアを形にしていくなかで、新たな装置を開発した。本物の鉄道車両メーカーが使っているものと似たような仕組みの、いわゆる台車試験機だ。
「スピードを上げると台車がどんな動きをするか。線路だとチェックしづらいので、専用の装置を作りました。この上で車輪を回転させます」
この装置を使うことによって新たな発見も。鉄道模型は車輪が回りながら、走行するための電力をレールから集めるのだが、驚くほど集電性能が悪かったのだ。
「例えば12V(ボルト)の電圧をかけても、モーターには3Vか4Vしかこない。だから車体の下に新たに集電装置をつけた。それで2割速くなりました。あとはコンデンサーをつけた。集電が途切れたらそこから電気を出して、復活したら電気をためて。このふたつで4割速くなりました。鉄道模型がスピードを出す上で難しいのは線路から効率よく集電するところなんです。最近、速いプラレールが話題になってますが、あれは電源を内蔵しているから意外と簡単です」
★ギネス世界記録樹立! 時速3546キロの鉄道模型を作った男【後編】
(取材・文・撮影/関根弘康 写真/IMON)
●江川芳章(えがわ・よしあき) 部品メーカー経営、かつて大手モーターメーカーに勤めていたこともある57歳。5年前に趣味全開の家を建て、週末はこもりっきり。スピードコンテストでは無敗の3連覇