“日本一小さな航空会社”天草エアラインが1万円で全10便に乗れちゃう「乗るだけ運賃」を発売!
一日4席というレアチケットを手に入れた鉄オタ記者が朝から晩まで連続搭乗! 果たして無事生還できるのか?
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熊本・天草空港を拠点に1機しかない飛行機を福岡、熊本、大阪へと一日10便飛ばしている天草エアライン。1月19日より一日全10便搭乗1万円(8便、6便も同価格)という驚きの切符を発売した。正規運賃なら13万1800円と割引率はなんと9割以上!
ただ、到着地で観光をする時間はなく、空港からも出られず約30分後に同じ飛行機で折り返し。朝から晩まで乗るだけ、しかもマイルはたまらない。そんな飛行機マニア垂涎(すいぜん)、一般人あぜんのプランに、列車なら一日乗り続けられる鉄オタ記者が挑戦した。
空港カウンターで名前と予約番号を告げ1万円を払うと、誓約書を渡される。読むと「利用開始後に途中降機しません」「途中降機した場合は搭乗済の普通運賃を払います」「健康状態に有害な結果が生じたとしても貴社に一切の責任は問いません」とある。
まあ大食いチャレンジの誓約書みたいなもんか。サインをして「NORUDAKE Challenger」と書かれたカードと天草福岡往復の搭乗券を受け取る。
周りを見回すと同じカードをぶら下げたおじさんが3人。会話はしないが、心の中で「よろしく!」と挨拶。
最初のフライトは7時55分発の福岡行き。機体はフランス製のATR42-600型機。ボディはイルカをイメージして青く塗られ、“みぞか号”という愛称がついている。
搭乗率は6割ぐらい。ドアが閉まり、プロペラがバルバルバルバルと音を立てる。滑走路に移動して、一気に加速し空へ。徐々に高度が上がり、朝食用に買ったパンの袋が膨らむ。天気がよく有明海は朝の光でキラキラ。浮かぶいかだはノリの養殖か?
CAさんが首にぶら下げたカードを見て「10便ですね。よろしくお願いします!」とニッコリ。彼女と一日一緒にいられるなら悪くないぞ。
気づけば眼下に福岡の町並み。わずか40分のフライトは終了。連続搭乗挑戦者4人はそのまま折り返し飛行機の搭乗口へ連れていかれる。トイレへ行って戻るとすぐ搭乗案内。滞在時間は10分だ。
再び飛行機に乗って天草へ。来たルートを戻るので景色は同じ。ということで機内誌を読む。天草エアラインの機内誌は製本されたものでなく、A4サイズのクリアブックに差し込まれた観光案内やCAさんの近況報告。手作り感満載だ。ふむふむ、今一緒に乗っている山口さんはマラソンで10kmを完走したのか。
熊本から伊丹空港へ!
機内誌を見ているうちに天草到着。次のチケットをもらうためカウンターへ。次は今日一番のロングフライト熊本経由大阪行きだ。朝のフライトは飲み物が配られると思いドリンクを買わず、水なしでクロワッサンを食べる羽目になったことを反省。売店でお茶を購入する。
飛行機に乗ろうとすると、CAさんが違う! 機内誌で確認すると今回は村上さん。最近肩凝りがひどいらしい。
今回の席はプロペラから遠くて音が静か。風景を見て気づいたのだが、この熊本便は地上との距離が近い。機内誌を見ると今回の高度は1300m。道路を走る車もよく見える。熊本までの所要時間はバスで2時間半のところ、わずか20分だ。
熊本空港もターミナル滞在時間が10分弱で何もできず。すぐに伊丹空港へ出発!
乗ってしばらくすると耳がキーンと痛くなってきた。大阪便の高度は6400mと熊本便の4倍以上。雲の上で景色はあまり見えず、気づけばスヤスヤ。ベルト着用の警告音で目覚めると、窓の外は大阪城。2時間前まで天草にいたのが信じられない。
伊丹空港は折り返しまで40分。搭乗開始が出発の15分~20分前と考えると、自由時間は20分。せっかくなので大阪っぽいものを食べたい。たこ焼き屋を発見し即注文。
「今から焼くので10分ほどよろしいですか?」(店員)
たこ焼きってそんなに時間かかるの? でも、おとなしく待つ。10分後、できたてのたこ焼きを口にし、「熱っ!」。ゆっくり食べる時間はないので水で流し込み、搭乗開始の5分前に搭乗ゲートへ。
大阪に別れを告げ、5回目のフライトは熊本へ。機内誌も読み尽くし、ぼんやりしたまま14時20分熊本着。
そろそろ飛行機に飽きてきた。連続搭乗している仲間はどんな人だろう。気になって話を聞いた。ひとり目は60代の沢田さん、福岡在住で奥さんの帰省に合わせて天草へ。6回連続搭乗に挑戦中。
「もっと乗りたかったけど、今日、福岡へ車で帰らなきゃで。妻も誘ったんですが、付き合ってられないとあきれられました(笑)」
まさかの大人気でチケットは完売!
■まさかの大人気でチケットは完売!
6回目のフライトを終えて、5時間ぶりの天草空港。地元へ帰ってきたような感覚だ。次に話を聞いた挑戦者は4年前も参加したという宇土(うと)在住、50代の大山さん。荷物は何も持たず旅慣れている。
「天草エアラインは低いところを飛ぶのが魅力。途中でウチの屋根が見えるんです」
今回は8回連続搭乗。
「ラストの福岡往復がつらくて。前に10回乗ったし、まあいいかなと」(大山さん)
7回目15時40分、再び福岡へ! 今回からCAは今村さん、ミンティアを常備しているそうだ。
福岡空港到着後の流れは朝と同じ。2度目なので短い時間ながら売店で名物の冷やし鶏皮唐揚げを食べる余裕も。
再び天草へ向けてフライト。やることがなく、非常時の脱出案内を暗記しようと試みる。
17時半過ぎ、天草空港で最後の1往復の搭乗券をもらう。気づけば挑戦者は僕ともうひとり。熊本在住の40代、西さん。積極的に撮影しているので飛行機マニアかと思ったら普通の人でした。
9回目となると自分のプライベートジェットのように思えてくる。18時半、夜の帳(とばり)が降りた福岡へ。中洲へ飲みに行きたい。もう天草へ戻りたくない。でもギブアップしたらここまでの運賃11万8600円を払わなきゃいけない。それはさすがに無理! 後ろ髪を引かれながら天草へ。
ラストフライト、24時間テレビのエンディングのような感動があるかと思ったが、そんなことはなく……。まあ席に座っていただけだしな。
天草空港へ到着! タラップを降りた瞬間、達成感で少しだけウルッときた。空港スタッフから記念のカードをもらいガッツポーズ。お祝いされるとうれしいものだ。西さん、メシでも行きましょう!
「いや、これから熊本市内まで車で帰るので……」
小さな空港なので10分もしないうちに人はいなくなった。空港の外へ出ると周りは真っ暗……。次はこの感動を分かち合える人と来たい!
座って移動するのは鉄道と同じだけど、飛行機は離着陸があるので精神的に疲れる。それと鉄道は景色が楽しめるけど、飛行機は雲の上であまり見えない。移動を楽しむならやっぱり鉄道。ただ、1日でこれほどの回数の飛行機に乗ったことはなく、すごく貴重な経験ができた。
天草エアライン営業部の川崎さんに話を聞いた。どうしてこんな企画を?
「閑散期にお客さんを集めたく、パラダイス山元さんに提案されて5年前に始めたんです。誰も乗ると思わなかったんですけど大人気で。4年ぶりに復活させた今回も3月までの枠がすぐいっぱいに」
満席ということで追加は?
「今のところ考えていません。でも、また楽しんでもらえる企画ができたら」
次はどんなことを仕掛けるのか? この小さな航空会社から目が離せません。
(取材・文・撮影/関根弘康)