大手が値上げ&労働条件見直しに踏み切った宅配業界に引っ越し業界の人材が流れているとの声も聞こえる。※写真はイメージです。

新入学、就職、転勤による引っ越しシーズンが近づいてきた。

だが、今年の引っ越し業界は需要をさばききれず、“難民”が大量に発生する可能性もあるという。現場では何が起きている!?

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某経済紙が、今年3月末から4月初旬にかけて、希望する日に引っ越しができない「引っ越し難民」が大量発生する恐れあり、と報じた。

この時期はもちろん、新年度開始前後の民族大移動シーズン。新入学や新入社、異動などで引っ越しをする人が集中するのは例年のことだが、記事によれば、今年は特にドライバーや補助アルバイトが不足しているため、引っ越し依頼があっても断らざるをえない事態が予想され、それを見越して大手引っ越し業者は法人顧客に対し、異動時期の分散をあらかじめ依頼しているのだという。

異動時期をずらせる会社の社員はそれでいいかもしれないが、3月初旬、中旬に異動や進路が決まり、そこから4月の新年度のために引っ越しせざるをえない社会人や学生にとって、この事態は大問題ではないか!

何はさておき、引っ越し業者に真相を確かめてみよう。まずは業界最大手のサカイ引越センター。

「春の繁忙期に引っ越し需要が供給を大きく上回るのは、業界全体の例年の傾向です。ただ当社では、今年に限って特に人手が不足しているということはないですね。というのも1年前から態勢強化に着手し、昨年3月末時点で120%のドライバー充足率を達成していますから。ですので、繁忙期に受注できる件数が、昨年より少なくなっているということはありません」

これも大手の、アートコーポレーションではどうか。

「当社では昨年、働き方改革を推進して春の受注数を減らしました。ですが、その後お客さまの要望により応えられる社内態勢を整えたので、今春はむしろ去年より多く受注する方針です」

おやおや? では、今春の引っ越し難民大量発生というのはガセネタだった?

ここで、よりディープで赤裸々な内部事情を知るため、“引っ越し芸人”のたかくら引越センター氏に登場していただこう。たかくら氏は学生時代からの引っ越しアルバイト経験を生かし、芸人となった後も今田耕司や千原ジュニア、さらには俳優、アイドルら100人以上の引っ越しを手伝ってその仕事ぶりを絶賛され、今では芸名と同じ「たかくら引越センター」という引っ越し会社を経営している。

たかくら引越センター氏が語る昨今の業界のリアルとは?

作業の丁寧さ、顧客の個人情報の徹底守秘、作業員全員の完全禁煙などのセールスポイントで独自の存在感を放ち、引っ越しシーズンとなればたびたびメディアにも登場するたかくら氏が、昨今の業界のリアルを語ってくれた。

「引っ越し業界で人手、特にドライバーが慢性的に不足しているのは確かです。近年、大手に労働基準監督署の立ち入り調査が入るなどして、『引っ越し業者=ブラック企業』というイメージが広がり、それでなくても敬遠され始めている上、昨年3月から準中型自動車免許制度が導入されたので、以降の新免許取得者は、従来のように普通免許で(引っ越しでよく使われる)4tトラックを運転できなくなりました。

このため、新たに準中型免許を取ってまで引っ越し業者で働こうという若いドライバーが激減しています。また、引っ越し一括見積もりサイトが普及してから、価格競争でどこも引っ越し料金が大きく下がり、その結果ドライバーの給料までが下がって、続々と辞めていくという負の連鎖も起きています」

さらに追い打ちをかける出来事が、昨年起こった。

「宅配最大手のヤマト運輸が、配送料金を値上げすると同時にドライバーの待遇改善を図るため、給料を引き上げたのです。引っ越し業者のドライバーは、仲間で一緒に辞めるパターンがけっこうあるので、特に中小業者から好待遇のヤマトにどっと人が流れ、今春のドライバー不足を招いている可能性はありますね」(たかくら氏)

確かに前述のサカイやアートにしても、今年が特に顕著ではないものの、繁忙期における人手確保の難しさは認めており、担当者はそろって「営業所によっては、受注能力の限界を超えてしまい、お断りせざるをえない案件も出てきます」と語っていた。

やはり、引っ越し難民は出るのだ…。

◆後編⇒春の新生活を前に“引っ越し難民”激増! 業者オススメの「回避テクニック」とは