新年度が始まり、これからの時期は通勤や通学で電車を利用する人も増える。
電車内で大声で携帯電話で会話をしたり、化粧やヘッドフォンからの音漏れなどは広く浸透している迷惑行為だが、意外にも非難の声が多いのが、席に座った際に男性がドカッと足を開いて座る"男の股開き"だったりする。
日本民営鉄道協会が実施した「駅と電車内のマナーに関するアンケート」(平成29年度/2,419人回答)によると、車内で迷惑と感じる行為の第1位は騒々しい会話、次いで「座席の座り方」が2位にランクイン。その理由も、「間を広く取る」「足を広げる」などの回答が過半数を占める結果となった。
「通勤や通学で頻繁(ひんぱん)に電車を利用する」という20代~30代の男女45人に、ぶっちゃけ男の股開き行為をどう思っているか聞いてみたところ、45人中およそ8割もの人が男の股開きを「かなり迷惑」と答えている。
「自分の席の領域を飛び出して、当然のように1.5人分の席を陣取られるのがムカつく」(23歳・OL)
「隣の人が足を広げていると、こちらが他に迷惑をかけないように余計に縮こまらないといけない。そんな苦労も知らないで涼しい顔で空間を占拠されるとイライラする」(25歳・営業)
「知らないおっさんの膝がピッタリくっついて、肌の温もりを感じるのがとにかく気持ちが悪い。夏場とか汗ばんでるとさらに最悪。きもい」(21歳・女子大生)
「最近じゃ1席ずつくぼみがあって足が開きにくいようになっているのに、それでもがバッと開いてくる男性がとにかくウザい」(28歳・看護士)
また、中には「自分は足を広げないけど、隣の人の足の圧に屈して自分が閉じたら負けかなと思って、じわじわと自分の領土を広げにかかる。毎日、膝と膝を押し合うせめぎ合いをしている」(28歳・会社員)、「やられたらやり返す。陣地争いに負けたくない」(27歳・会社員)...と不本意ながらも超不毛な車内バトルが繰り広げられているようだ。
確かに実際に隣りでやられると、ウザい、迷惑な行為でしかない男の股開き。しかし、そもそもなぜ男たちは車内で足を広げて座るのだろうか。
■足を開くのは、男らしさを誇示するため?
電車内でもドカッと偉そうに股を開いているのは男性ばかり。女性ではほとんど見かけない。女性の体の構造と比べて大きく違う点があるのか、それとも男性特有の"局部"があるせいなのか...。
体の構造に精通するKIZUカイロプラティックグループ代表の木津直昭院長によれば、「昔から『男が足を閉じるのは女々しい』『男らしくない』と言われて、男性が足を開くことが当たり前のように習慣化してしまった」からだという。
「もちろん、睾丸などが原因で、足を閉じると多少の圧迫感はあるかも知れませんが、それがすべての理由ではありません。日本の女性は必要以上に『はしたないから女性は足を閉じなさい!』と言われてきたように、男性の場合はガニ股=男らしさに繋がります。女性は股関節が内股気味に入っているO脚が多いですが、ガニ股の男性の場合は、膝やつま先がすべて外側に向いてしまっている状態です」
もちろん若い世代でも迷惑な股開きをする男性はいる。しかし、ガニ股が「堂々としていて男らしい」と思われていたひと昔前の40代~50代では特に、今も電車内で平然と股を開く男性が多い。実際、数日間、電車内で観察してみると開いている男性の7割が中高年だ。
女性の間に座るのはNG?
他にも、単純に「足を閉じられないのは筋肉が衰えてしまっているから?」と思いきや、そうではないらしい。
「太ももなど足の筋肉は、正直あまり関係ありません。問題は"骨盤の傾き"です! 足を開いた状態や悪い姿勢で長時間座っていると骨盤が歪んできます(骨盤後傾)。また、電車内でよく見かける、ずり落ちるように浅く座るような姿勢は"骨盤が寝た状態"になるので、さらに骨盤後傾を進行させて足もより開いてきます。
このように骨盤が歪むと、股関節の痛みや腰痛、膝の痛みの原因にもなりかねません。ひどい場合は座骨神経痛を発症し、歩くのが困難になるケースもあります。歳を重ねるほど体の筋力も低下し、関節への負担は増えます」(木津院長)
股を開くことのデメリットは、周りだけでなく本人にも降りかかってくるそうだ。「電車の背もたれにお尻を滑らせて座るだけで、深く座れて自然と骨盤が起きた状態になるので、必要以上に足も開かなくなるんですけどね...」と木津院長も心配げだ。
■席が空いていたら、どちらに座る?
周囲に非難され、自分の健康を害するリスクもつきまとう...もはや"いいことなし"のこの習慣だが、声優の中田譲治さんは自身のツイッタ―で「(電車内で)男は大体脚を広げて人の膝に平気で押し付けてくる」「電車で男の人か女の人の隣に座る必要があった場合、女の人の隣に座る」とツイートし、注目を集めた。
確かに、「むさくるしいギュウギュウ詰めの男同士の間に座るなら、女性の間に座りたい」と思うのは当然のことかも知れない。だが意外(?)だったのが、冒頭のアンケートで男性ユーザーに「女性同士と男性同士の間の席が空いていたら、どちらに座るか」と聞いてみたところ、過半数の男性が「男と男の間に座る」と答えたのだ。その真意とは...。
「女性の間に座りたいけど、自分が座った瞬間に席を立たれたことがあって軽くトラウマになった」(32歳・会社員)
「女性の間に座るのは緊張するし、嫌がられていないか気を遣う」(23歳・フリーター)
「『加齢臭くさっ!』とか思われそうで、なんか気が引ける」(43歳・会社員)
豆腐のように柔い男のメンタルに驚愕する一方で、"股開き男"を避けるため、中田さんのようにあえて女性の間(隣りなども)に飛び込む男性も少なくない。そこで女性の本音も聞いてみると、
「なんでわざわざ女性の間を選んで座るのかわからない。勝手なイメージだけど下心がありそうで気持ち悪い」(31歳・アパレル)
「普通は座りづらいはずなのに、後からきて誰よりも幅をとるのがムカつく。おっさんたちがみんな足を閉じれば済む話なのに、こっちまで巻き込まないでほしい」(21歳・女子大生)
と、一部の女性からは少々手厳し過ぎる意見も。あまり良い印象を持っていない女性がいることを考えると、前述の男性たちが正解なのか...。
とにもかくにも、"百害あって一利なし"のこの男の股開き問題。足を開けば開くほど、男らしさとはかけ離れた、無神経な野郎扱いされるのが現実のようだ。男たちよ、股を閉じよう!
(取材・文/青山ゆか)
■木津直昭(Kizu Tadaaki) 1992年東京・日本橋でKIZUカイロプラクティックを開院。約20年間、グループ全体で延べ25万人以上の患者が来院。著書に『肩こり・腰痛が消えて仕事がはかどる 究極の座り方』『その痛み・不調は、「座り方」を変えれば消える!』など。KIZUカイロプラクティック整体本院 http://www.kizuchiro.com/