「スーツ型になったからって機能性が劣ったら意味がない」と「WORK WEAR SUIT」のこだわりを語る中村有沙代表取締役

タフな男のイメージの作業着。それはそれで魅力的だが、その概念を覆したのがスーツのような見た目の「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」だ。

水道工事を主に行なっている会社が開発したという意外性も手伝って、今年3月末に発売されるや話題に。完成するまで1年半以上かかったというが、その開発経緯を聞いた。

同製品を作ったのは水道工事やメンテナンスを手掛ける「オアシスソリューション」のグループ会社「オアシススタイルウエア」。ちょうど2年前、同社の職人が着る制服をリニューアルすることになり、様々な案が出た中で、挙がったのが「スーツのようなスタイル」だった。

「人手不足が深刻で、少しでも採用のプラスになればと思いリニューアルを計画したのですが、作業着をカッコよくしようとストリート寄りのファッションにしてみたり、つなぎにしたり、ハーフパンツというのもありました。ただ、いろいろやってみたのですが、なかなかカッコよくならず。冗談半分で“スーツに”と今に至ります」

そう話すのは同社の中村有沙代表取締役。当時は採用担当のマネージャーで、アイディアの原点は「デートでも着ていける服」だったと続ける。

「元々、職人さんたちからは『仕事終わりに遊びにいくのに作業着だと恥ずかしいから着替える』とか『営業さんはスーツだからそのままデートとか行けていいよね』という声がたまにあったんですよ」

(左から)岩見祐香氏、中村有沙代表取締役、素原勇人氏

実際に普段、作業着で働く知人の何人かに聞いてみると「通勤電車に作業着で乗るのはちょっとイヤだから私服で通勤している。事務所で着替えるのが面倒」「チェーン居酒屋や地元の飲み屋ならいいけど、バルとかには(作業着で)行けない」など、現場以外のTPOを考えると作業着では向かない場面もある。特に同社の場合、職人たちは20~30代の若手が中心。なおさらその意識はあったのだろう。

かくして、いざスーツ風の作業着を開発することとなったが、当然アパレルとは無関係。専門のメーカーに協力を仰ぐも、ファッションアパレルメーカーに作業着の機能面に対する知識や経験は少なく、特に苦労したのが生地探しだった。

「一番大変だったのはデザインコンセプト。ふたつ目の山場が生地でした。まず作業着は汚れることが前提なので、毎日洗って乾かなきゃダメ。アイロンも当然かけないのでシワにならない形状記憶。それから作業するためのストレッチ性や防水性も必要…とクリアするハードルが高くて…。もう本当にいろんなところから生地を取り寄せて、やっと見つかったという感じでしたね」

今や多くの機能性スーツが販売されているが、実際にそれらを購入し洗ってみたものの、どうしてもシワが残ってしまうため断念。既存のスーツに使われる生地では無理と判断し、探し当てたのがスポーツウエア用に開発されたものだった。スーツメーカーの人間もその素材を元々知らなかったそうだ。

こんなにぐちゃっと丸めても(上)、シワもつかずあっという間に元通りに(下)

また、デザインにも多くの時間と労力をかけた。「スーツ型になったからって機能性が劣ったら意味ない」のだ。

「職人さんに着てもらってテストしていたのですが、サンプルを着るたびにものすごく細かい要望がめちゃくちゃ出てくるんですよ。それを叶えるために形や縫製をひとつひとつ変えて、結局1年近くかかりましたね。ただ、作業着として使えないと意味がないので、その機能性は死守したいなと思って時間をかけました」

スーツ型に変えるだけで身だしなみ意識が上がった

多湿な時季も快適なメッシュ裏地にジップ付きポケットなど、こだわりが詰まっている

例えば、ポケットも工具を取り出した時に他の中身が引っかかって落ちないようなサイズにしたり、腕まくりをしやすいようにアームを調整したりと、目には見えないが、随所にそのこだわりが発揮されている。

「発売時に賛否両論あって、中には作業着を全く知らない会社が作ったのだろうという批判的な声も多くあったんですよ。それは真逆で、アパレルメーカーさんがアイデアベースで作った商品ではなく、うちの水道工事の職人が使いやすいものを作ったので、そこは強みだと思っています」

そうしておよそ1年半かけ完成した同製品だが、当初、社内の職人からは反対意見が多かったそうだ。スーツのきっちりしたイメージが職人たちに合わず「毎日洗わなくちゃならない」「髪の毛を整えなきゃいけない」という不満の声が上がっていた。

「それまでダボダボの作業着で、身だしなみとかもそんなに気にせず作業してましたからね。でも不思議なことに2ヵ月くらい経つと、気を配ることに慣れてくるんですよ。今まで清潔感や身だしなみに関していろいろ指導していましたが、スーツ型に変えるだけで自然と意識が変わるんだなーって(笑)

「WORK WEAR SUIT」のジョガーパンツ、リブコンビシャツを着用して作業する同社の技術者

さらに意外だったのは同製品に需要があったことだ。元々は他社との差別化を図るためにリニューアルしたものだが、同業者から欲しいという声が上がり、商品化を決めた。それが想定以上の反響を呼び、様々な業種から問い合わせがあったと中村氏は言う。

「最初は法人で多少反応があるぐらいかなと思っていたのですけど、予想外なことに個人の方から買いたいという問い合わせが多く、急遽、個人販売することになったんです。法人でもゴミ回収業者の方が人手不足でイメージ刷新のためにとか、マンション管理会社が高級物件向けに欲しいと、全く想像していなかったですね。」

同製品は個人向けに4月だけで500着販売、法人向けは300件以上の問い合わせがあり、現在3ヵ月待ちというほどの盛況ぶり。海外からも問い合わせがあるという。

「半分は夢で、半分は本気なんですけど、3年以内にパリコレに出たいです。面白くないですか? なんなら作業着でランウェイを組み立てて、そのまま歩くようなパフォーマンスができたら前代未聞ですよね(笑)」

★6月13日(水)配信の後編では、実際に1週間「WORK WEAR SUIT」を着用し、その機能性を検証してみた!

■WORK WEAR SUIT https://oasys-inc.jp/workwearsuit/

(取材・文/鯨井隆正)