『週刊プレイボーイ』本誌で連載中の「ライクの森」――。
人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。
今回はレトロ建築好きな彼女が、今年3月に閉鎖されたある“回転展望台”を惜しむ。
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兵庫県姫路市の「手柄山」という小さな山の上にあった回転展望台が、今年3月に閉鎖されました。
この展望台は、昭和41年に開催された「姫路大博覧会」に伴って建設されたもので、デザインはロサンゼルス国際空港の管制塔を模しています。未来感があってすごくカッコいいんですが、その中にある喫茶店もとってもいい感じのお店でした。
実はこの建物、中の展望フロア自体が「手柄ポート」という喫茶店になっていて、昭和の趣を残した名店として知られていました。メニューは「イタリアンスパゲッティ」や「クリームセーキ」など、懐かしいテイストのものばかり。椅子が小さいところも、なんだか“半世紀前の日本人サイズ”っていう感じでした(笑)。
何よりすごいのが、360度に渡って設置された客席が床ごと回転するところ。そう、この喫茶店こそが“回転展望台”なんです! 食事をしながら、約14分かけて姫路の街を一望できるなんて画期的ですよね。姫路城などの名所旧跡もここから見ることができました。
この展望台の閉鎖が決まってからは、連日お客さんが訪れて1、2時間待ちの行列ができていたそうです。思い出の場所を再訪したいという人のほかに、レトロな建物が好きな人もたくさん訪れたんでしょうね。
私は10年ほど前に行ったきりだったのですが、今回この展望台と喫茶店が閉鎖されることを知ったのは、すでに閉鎖された後……。最後にもう一度行ってみたかったのに、すごく残念です。
半世紀前に博覧会が開催された際は、展望台だけではなくモノレールも敷設されました。姫路駅からこの手柄山までのわずか1.8kmをつないだこの「姫路モノレール」は、博覧会後は業績が振るわず、わずか8年で運行が休止されました。
姫路モノレールの産業遺構「大将軍駅」
その後は産業遺構として残されていましたが、とりわけ有名だったのが「大将軍駅」。ホームがビルの中にあって、モノレールがブスッと建物の中に入っていくような構造になっていたんです。
このビルの上層は団地、下層は商業施設になっていて、とても近代的な構造でした。でも、ここも後に廃墟となり、解体が決まりました。その解体が開始される前の最後の一般公開イベントが2年前に行なわれたんですが、駅の中はハトの糞(ふん)だらけで、NPO法人の方々が一生懸命に掃除して人が入れるようにしたそうです。
この大将軍駅は、地中に埋められた杭(くい)を抜くことが困難なことがわかり、昨年末に解体が断念されました。手柄山の回転展望台も、閉鎖が決まっただけで、しばらくは存在するようです。ただ、こうした姫路モノレールの産業遺構はいつ姿を消してもおかしくない状況です。
できた当時は最先端だった近代建築がこうして姿を消していくのは、すごく寂しい気がしますね。展望台が閉鎖される前にもう一度訪れることができなかったのは、返す返すも残念です……。
でも、新幹線からこの展望台の姿を見ることはできるので、東海道・山陽新幹線で姫路を通過する際は、ぜひその姿を見てみてください。
●市川紗椰(いちかわ・さや) 1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J‐WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。現在、週プレスタッフの間でもタコスが地味にブームに