1ヵ月間のラマダンが続くイスラム諸国(今年のラマダン期間は5/16~6/14)。
その時、クウェートにいた私は、"にわかラマダン"に挑戦していた。日の出から日没までは絶対禁欲で、飲食はもちろん水一滴すら飲んではならないという厳しい掟。
人々は日没後になるとイフタール(日没後の食事)を始め、夜な夜な食べ続けるそうなのだが、日本の健康的な食事法"朝はしっかり、夜軽く"とは全く逆だし、体力を使う旅人にはなかなかキツイ。そこで私はあることを思い付いた。
「日中の空腹時間を短くするために、日の出前ギリギリに何か食べよう!」
屁理屈のような感じかもしれないが、ラマダンについての知識が浅い私はとにかく朝の4:50に目覚ましをかけ、日の出直前に食事をする作戦を立てた。
翌朝、まだ外が暗い中モゾモゾと動き出した私は、重い瞼とヨーグルトの蓋を開ける。胃はまだ寝ているようであったが、栄養を摂るだけのためにヨーグルトを流し込み、水分をガブガブと飲めるだけ飲んだ。
10分で朝食を終えると、まだ眠いのでもう一度ベッドに入った。果たしてこのやり方は正しいのだろうか...。身体に悪いのではーー?
10時頃に再び起きると、すでに太陽はギラギラとアスファルトを照らしつけていた。
「今日も暑いな...」
クウェートでは、ただただ灼熱の中を歩くしかすることがない。
せっかくペルシャ湾に面しているので海辺に出ると、砂浜にはポツンとひとり、カンドゥーラ姿の男がいた。私を発見し、近づいてきたその人は初のクウェート人のおじ(い)ちゃん。全く言葉が通じないが、彼はワタワタと慌ててスマホを取り出し、私とセルフィー。力強く頬をくっつけてきてちょっと怖かったし、必死のセルフィーはブレていて、全然写真が撮れていない。
「お、おっちゃんよ。逃げたりしないから落ち着いてくれ...」
アラブの男は一度話し始めると途端に距離が近い。一緒に歩きたいとか、こっちへ来いとか、なんだかグイグイ来る感じが怖いので、私はそそくさとその場を離れた。さらに浜辺を歩き続けるが、地元民は寝ているのだろうか、ほぼ人がいない。
そして正午、唯一のランドマークである"クウェートタワー"に着くと、ラマダンだから開くのは14時だと言われ、撃沈。
炎天下での2時間待ちをどうしようかと悩んでいると、なんと西洋人登場! 初めて見た外国人観光客だ! やっと言葉や文化など話の通じそうな人に出逢い、逃してはいけないとすかさず話しかけた。彼はベルギー人だった。
「ここで待っていても仕方ないから、僕はタクシーで一度、街の中心に戻るよ。よかったらキミも一緒に来るかい?」
少し迷ったが、ここにいたら干からびてしまいそうなので、彼について行くことにした。
「じゃあ、タクシー呼ぶね。スマホアプリ"Careem"は知ってる? 中東の旅ではとても便利だよ!」
彼が教えてくれたのは、ドバイのベンチャー企業が手掛ける、中東版のUBER(ウーバー)のような配車アプリ(楽天も出資しているのだとか!)。
これを使ってタクシーを呼び出すと、ものの2、3分でタクシーがやってきて、いとも簡単に街の中心へ到着した。ちなみにUBERでは支払いは登録したカードで自動決済となるが、この時は降車時に現金払いだったので、システムには多少違いがあるのかな。
そして街の中心には、ココにも"解放タワー"というタワーがあるのでそれを眺め、「他にやることないね(笑)」とお喋りをしながら時間を潰した。
彼はNGOの赤十字で活動をしており、休みができると旅に出るそうな。私が彼にラマダンチャレンジをしていることを話すと、
「ラマダンね。でもキミは水を飲んだほうがいい。ファスティング(断食)してもいいけど、それは健康な人だけだ。病気の時やムリをしてまでやる必要はないし、水を飲まないのは肝機能に障害を及ぼすから問題だ。水は肝臓の循環に必要なんだよ」
熱中症になりかけの私に彼は水のペットボトルを差し出した。私はそれを飲むか一瞬迷ったが、素人が"にわかラマダン"をして人様に心配や迷惑をかけてもよくないと思い、口をつけることにした。冷たい水が喉をスーっと通るのがハッキリとわかる。こうして私は"禁断の水"を飲んでしまった。そしてムスリム風に装っていた自分の真っ黒い服装について彼に尋ねた。
「ヘヘ...。ねぇ、私の格好、ムスリムに見える?」
「アハハ、見えるよ。ムスリムガールがお水を飲んでるとこを見ちゃったね!」
そう言って笑った。その後、彼は空港へ向かい、私はシティーからまたクウェートタワーに戻ろうとしたが...バスがややこしい。
現地の人に助けられ(?)、コレに乗れとかアレに乗れとか反対方向だから降りてあっちに乗れとか...結局、路頭に迷い、また灼熱の中を歩くハメになった。先ほど飲んだ水はとっくに汗となり、再び干からび始める。
ひと気のないビルの谷間や工事現場のような道なき道を進み、やっとクウェートタワーの展望台に上ると、汚れて曇った窓からは街が一望できた。
広々と広がるペルシャ湾に、遠くに見える街のビル群、そしてタワーのふもとにはウォーターパークもあった。360度回転するカフェレストランが併設されていたが、もちろんラマダン中で営業しておらず...特に面白いこともなく、展望を終えた私はまた宿へと戻るのであった。
夜の窓からは今夜もイフタールへ向かう男たちの姿があり、約1時間後には車でお迎えにきた妻と子供とともに帰っていく。
また同じ景色を見て静かに眠りにつき、そして翌朝はラマダンのために無理に早起きすることもなく、誰も見ていない室内で冷蔵庫に残ったものを少しだけ口にして空港へ向かった。
何をしに来たかよくわからなかったクウェートだったけど、無事に過ごし、なんだかやり遂げた感。異次元を旅していたような不思議な時間を思い返しながら、空港で時間を潰していると男が話しかけてきた。
彼はパレスティナ自治区出身のヨルダン国籍。初めて会う国の人で緊張したが、空港内の店で働いているそうで、ウロウロしている私に椅子とついでにWi-Fiも貸してくれるジェントルマン。
「仕事終わりで妹家族とイフタールを食べるからおいでよ。肉や野菜や米などを鍋に入れて、でき上がったら全部ひっくり返す料理、その名も"アップサイドダウン"を食べるからさ!」
せっかくのお誘いであったが、さすがにフライト前だしお断りするしかなく、そして私はまた例によって自分の黒い服装について尋ねてみた。
「あ、それアバヤ目指してたの? アバヤは洋服の上から全身を覆うような感じで、キミのはちょっと違うから余計に目立つかもね(笑)」
ガーン。結構、とけこめてると思っていたんだけど、逆に目立っていたとは...。そうこうしているうちにフライトの時間ーー。
搭乗口へ向かうと、街中ではあまり見かけなかった"女性"がたくさんいた。みんな揃いも揃って黒いアバヤ姿でそのままイミグレを抜けていく。後ろ姿は皆同じで誰が誰だかわからないが、友達同士はどうやってお互いを認識しているのだろうか。
きっとカバンか? そういえば街中ではエルメスやグッチの店を見かけたけれど、皆なかなかの高級ブランド品を持っているのは、さすがオイル大国。目力のある長いマツゲの目元だけをさらけ出し、他は全部隠すその姿がとてもミステリアスで美しく感じた。
格好をマネている私も目元だけ出しているが、ところで私もこれでイミグレを通過できるのだろうか...?
未知の国で余計なことして拘束されても大変だし、でもみんな同じこの姿だし大丈夫かも...などと考えていると私の番がきてしまった。慌ててカウンターへ向かいドキドキしていると、ポンっとスタンプを押され、あっさり出国!
「マジ!?」
とても驚いたが、厳格なイスラム圏では、パスポートと目力だけで出国できる!のであった。
【This week's BLUE】
街中には至るところにシンプルなモスクがあったが、宿の近くに青いドームのある美しいモスクを発見!
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】