ジャガーが日本市場に導入した新型の「E-PACE」というモデルは、いわゆるコンパクトSUVのジャンルに属する一台だ。すでに今年2月に受注を開始している。
もっとも、コンパクトSUVとはいっても、その全幅は決して日本基準ではなく、世界基準となっているため、1900mmとワイドなのが特徴だ。
3サイズは全長4410mm×全幅1900mm×全高1650mmとなるが、これはボルボのXC40の全長4425mm×全幅1875mm×全高 1660mmに近い。ちなみに日本のSUVでいえば、三菱エクリプスクロスが全長4405mm×全幅1805mm×全高1685mm、トヨタのCH-Rが 全長4360mm×全幅1795mm×全高1550mm。
こうしてみると日本のコンパクトSUVと異なり、欧州のコンパクトSUVはやはり全幅が大きい傾向にある。これはもちろん、欧州には日本のように5ナンバー、3ナンバーという区分け制度がないからだ。日本とは規格が違うのだ。
そしてE-PACEの場合は全幅こそワイドなのだが、前後のオーバーハング(フロントタイヤの前、リアタイヤの後ろの部分)が切り詰められたスポーティなデザインとなるため、全長はとても短く見える。
さらに試乗車はSUVでは標準的なサイズである19インチのタイヤを履いていたが、写真ではタイヤがとても大きく見えるのは、全長が短くスポーティなスタイリングによるもの。
実際、エクステリア・デザインは1クラス上に位置するSUVである兄貴分のF-PACEとの関連性よりもむしろ、同社のスポーツモデルであるF-TYPEに ある、とジャガーは話す。確かにサイドからボディの上半分を見ると、シャープなノーズから後ろに行くに従い低くなるルーフライン、そして力強い造形のリア フェンダーといった具合にスポーツカーを思わせるデザインが展開されている。室内を見ても、そこに展開されるインテリアはジャガーらしい硬派でスポーティ なテイストの造形となっている。
そしてそこにレザーなどで上質な雰囲気を設(しつら)えており、造形の素材の見事な融合で造られるスポーティだけどゴージャスな感覚こそ、ジャガーならではのイメージといえるだろう。
最近のコンパクトSUVはどちらかといえば、ボルボXC40やBMWのX2のように、単なるスポーティではなくポップな感覚やファンな雰囲気が盛り込まれる ことも多い。だが、そうしたなかでこのE-PACEは、ほかのジャガーのモデルにも共通する"ジャガーらしさ"を徹底的に貫いたといえる。それは、まさに 硬派なスポーティさとイギリス的な上質さが同居している独特の雰囲気である。
今回試乗したモデルであるP250の搭載エンジンは、2リットル直列4気筒ターボで最高出力249馬力を発生する。ラインナップ的にはこの上に P300と呼ばれる、300馬力を発生する高出力版もあるが、この249馬力版で十分だ。ちなみにD180と呼ばれる最高出力180馬力を発生する2リッ トルのディーゼルエンジンも用意している。
P250のエンジンの印象はどこからでも力強いトルクが生まれるフラットトルクタイプ。これを9速ATが効率よくタイヤに伝えてくれるため、アクセルをそれほど開けなくてもグイグイと前へ進む。そして踏み込めば、ジャガーらしい俊足を見せつけてくれるのだ。
実際に走らせると、すべての操作系からギュッと凝縮感のあるフィーリングが伝わってくる。例えばハンドル操作に対してレスポンスよくボディが反応し、素早い 身のこなしを見せてくれる。最近試乗したボルボXC40はスッキリした印象だったが、それとは逆で動きのなかに濃厚な味わいがある。
低速域で走らせていると、やや揺すられ感の強い印象もあるが、速度が上がってくるとフラットな感覚が生まれてくる。そしてそこに感じるのはジャガーらしいスポーティさだ。走りは想像以上にスポーティに仕立てられており、ここがジャガーとしての個性を感じさせる部分だった。
一方で全長の短さからかラゲッジルームはライバルよりも奥行きが少ない印象。また60対40の分割可倒式シートの背もたれを倒す際に荷室側にレバーやボタンがないのは気になった。
気になる価格は2リットルターボ搭載モデルが475万円から。ディーゼルは451万円からだ。輸入プレミアムSUVとしてはサイズも価格も手頃な一台で、他人とは違うコンパクトSUVに乗りたい人は注目だ!
●河口まなぶ
1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリスト。毎週金曜22 時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員