ある意味、超ガッカリなモデルチェンジが行なわれた。それはレジェンド。そもそも1985年に生まれたホンダのフラッグシップで、ホンダが造ったトヨタ・クラウンみたいな存在だ。
まずは何も考えずにフロントマスクを見てほしい。今回は3年前に登場した5代目モデルのマイチェン。つまりテコ入れなのだが、ぶっちゃけ逆にカッコ悪くなっている。確かにより大胆に個性化してるし、デザインは人それぞれの主観ではあるが、今回導入した逆5角形の「ダイヤモンドペンタゴングリル」がなんとも奇抜すぎる。同時投入の走るヤツメウナギこと「ジュエルアイLEDヘッドライト」も形状を変更。ウインカーとスモールランプもライン発光タイプになっていて、なんともいえずにキモい。
リアコンビネーションランプも新たに流れる層状のタレ目タイプに変更。こちらもかなり個性的にはなったが、オザワの目には改悪としか思えない。
ボディは基本的に相変わらずだ。全長×全幅×全高は5030mm×1890mm×1480mmで狭い日本で乗るにはデカすぎるが、それ以上に独特の塊感がやっぱり疑問。
実はこのクラスのクラウンにしろ、メルセデス・ベンツEクラスにしろ、BMW5シリーズにしろ、すべてフロントエンジン・リアドライブのFRセダン。ロングノーズにショートデッキのエレガントフォルムを持っているが、新型レジェンドはエンジン縦置きとはいえフロントエンジン・フロントドライブのFFセダン。よってフロントオーバーハングが長く、どうしてもエレガントに見えづらい。
それをなんとか工夫し、塊感を出そうとしているが正直FRセダンを超えてない。それどころか乗ると見切りが非常に悪い。セクシーさを出すべく、フェンダー回りを無理やりマッチョにしているがゆえ、見切りや取り回しが悪くなっている。
さらに残念なのがインテリアと走りでこれまた個性を追いすぎだ。インパネは形状変わらずで、基本マテリアルが上質かつハデになっているだけ。エクステリアよりはインパクトは薄いが、そもそも独特の上に湾曲したダブル笑い目フォルムがいまひとつ流麗とは言い難い。
それどころか圧倒的に物足りない点があって、モニターが小さすぎる。上下2段式で上がナビ、下が操作画面でそこまではいいが、イマドキ8インチ程度は大衆ミニバンより小さい。
今や高級車は大衆車以上に自動運転や電動化でハイテク化しており、テスラ・モデルSなどはタテ型17インチ! ほとんど走るデスクトップパソコンであり、今やメルセデスにしろBMWにしろ基本ビッグモニター化に向かっていて、中国車ですらものすごい。この潮流に新型レジェンドはまったく追いついていない。
決定的に残念なのが走りでありその味わいだ。5代目レジェンドは画期的な3モーター式ハイブリッドAWDシステムを採用。名前は「SH-AWD」ことスーパーハンドリングAWDで、フロントを231kWの3.5リットルV6と35kWのモーターでハイブリッド駆動し、リアを左右それぞれ別の27kWモーターで駆動する四駆システム。モード燃費も16.4㎞/リットルと優秀で今の電動化ブームにびったり合っている。そういう意味では文句ナシだ。
だが肝心の走り味が伴ってないのだ。ハンドリングに繊細さと面白さが足りないFFの欠点を補うハイテク電動4WDは、リアの外側車輪を増速することで曲がりやすくする。要はFFでありつつ、微妙にドリフト効果を発揮するがやっぱりステアリングフィールが人工的。結局のところFRセダンを超えられてないのだ。
しかも今回制御をおとなしめにすることでわかりやすいドリフト感は逆に減っている。まさしく凝りすぎ。素直に高級なFRセダンを造ればいいのに、ホンダはその道を通らず、FFでFRっぽい味を作ろうとして悪あがきしている。
これは企画全体からしてそうだ。レジェンドは、ほかでやらない方式や技術でクラウンやベンツ、BMWを超えようとし、結局いまだ超えられてない。今回も「ホンダらしさ」にとらわれ、ほかが理解できない個性化が再び行なわれただけ。
それは販売台数が証明しており、今回も日本での販売目標は年間たった1000台。ぶっちゃけクラウンの月販台数以下である。お話にならない。とっくに生産をヤメたほうがいい不採算マイナー高級車であることは明白なのだ。ホンダはその事実にいつ気づくのか。そして、いつホンダ病から解き放たれるのだろうか。
●小沢コージ
1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員