緊張の旅だったクウェートとバーレーンからUAEに戻ると、最初は異国に感じたドバイもすっかりホームな気分。
到着したドバイ空港の"ターミナル2"は小さめで湾岸諸国との路線が多く、観光客が使う"ターミナル1"とは雰囲気が違う。
空港の駐車場にはモスクが併設され、ちょうどラマダンの明ける頃(日没)だったのでイフタール(ラマダン明けの夕飯)の準備が始まっていた。
地べたに敷かれた敷物には、ヨーグルトと半分に切ったリンゴ、デーツ(ナツメヤシ)2個、それから水のペットボトルかジュースが置かれている。
空腹の私がそれをジーっと見ていると、タクシーの勧誘がやってきたので、たずねてみることにした。
「ねね、イフタールってやっぱり男性しか参加できないの? 私も参加してみたいんだけど」
「基本的には男性が来るよね。女性も大丈夫だけど、男性と一緒の場所で食べることはできないから、別の所で食べることになるよ」
「ほうほう。ちなみにいくらか払うの? あなたは参加しないの?」
「無料だよ。イフタールは基本的には貧しき人たちに分け与えるものだからね...」
ふむ、それを聞いたらいただいてしまうのもアレなので......。運ちゃん、質問のみでごめん。私は空港を背にして歩き始めた。
空港から徒歩で帰る人など誰もいなかったけれど、私は空港近くの格安ツアーオフィスに直接行きたかった。日程の足りない中でどうしても"オマーン"訪問を達成させたく、その手配をしたかったのだ。
オマーンはアラビア海に面し、7世紀以降アフリカから中国にかけて広範囲の交易に栄えた国。また『アラビアンナイト』の船乗りシンドバッドゆかりの地だ。今年4月には、EDM(エレクトロニックダンスミュージック)界の世界的人気DJアヴィーチーが首都マスカットで亡くなった事件が話題となったが......。
さて、旅人ならドバイから陸路で国境を越えマスカットに入り、オマーンの風を感じたかったのであるが、そこまでの時間がない。
調べ尽くした結果、UAEの東側にあるオマーンの飛び地"ムサンダム特別行政区"なら、ドバイから日帰りツアーで行けるというので、「これだ!」と思ったのである。
しかし、残念ながらオフィス閉店......。
「はぁ。やってるはずの所がやってないなんてしよっちゅうだ。これもまた旅のひとつだし、きっと何か別のものが見つかるから......」
ブツクサ言いながら、いつのまにか図太くなった私は男だらけの夜の街を徘徊した。
結局、ホテルのツアーデスクで480AED(約1万4千円)のクルーズツアーを見つけた。
「今の時期イルカは見れないけど、それでもいいかい?」
ムムム、イルカなしは残念だし、クルーズなんて旅人にとっちゃ贅沢だけど、それでもオマーンの地を踏みたいので仕方がない。
翌朝、エジプト人ドライバーが迎えに来ると、他には豪華客船の旅で出会ったというフランス人のおじさんとインド人青年の2人組。優雅な彼らの旅に貧乏旅人が混ざって申し訳ないけど、ひとりでツアー参加も寂しいから割り込ませてもらうよ!
車内はガソリンの値段の話で盛り上がり、ドバイでの給油は1リットル2.37AED(約72円)。改めて湾岸諸国の石油の安さを実感する。
3時間のドライブで砂漠や岩山などの間をすり抜け、国境でいそいそとパスポートを出したところ、この国境ではスタンプがもらえないんだと。
人生で111ヵ国目となるオマーンであったが、パスポート上では私はこの国に訪れていないこととなってしまった。
オマーンの港町ディバからは、伝統的な木造帆船"ダウ船"に乗り換え、いよいよクルーズの始まりだ。
そこからはたくさんのツアー参加客と一緒で、ほとんどがフランス人! ラマダン中だというのにみなさんビキニ姿で完全にリゾート気分。
ムサンダムは「中東のノルウェー」と呼ばれ、フィヨルドのような複雑に入り組んだ海岸線と岩山の絶壁が壮観である。それを眺めながら心地良い海の風を受けるのは、キツイ旅を乗り越えた私にとって束の間のご褒美のようだった。
船は無人ビーチの近くに停泊。透明度は高くなく紺碧色のオマーンの海に、せーのっ、ダーイブ!!
ぬるい海水を泳いでビーチまで行くと海の底に足が届き始めたが......ん? なんだかヌメっとして気持ち悪いぞ。「海底からオイルが漏れてるんじゃない?」と訴えたが相手にしてもらえず、私はほとんど泳がずにビーチにいた山羊と遊んで終了。
そして船上でのランチタイムだが、オマーンもイスラム圏であるため今はラマダン中のはず。船員たちは食事に手を付けることなく、ただ観光客がガムシャラに食らいつくのを見ていたので、食べるのが後ろめたい。
念のため彼らの出身地を聞いてみると、「シリア出身だよ」だって! ドバイの安宿で初めてひとりのシリア人に出会い、実はこっそり驚いていたのだが、ここでまた複数のシリア人に会うとは思わなかった。
私の中でシリアのイメージが内戦しかなく、何か聞いて良いものかわからなかったが、ついになぜここにいるのか質問してみた。
「自国では家もねぇ、食べ物もねぇ、おまけに仕事もねぇ。そんなわけで俺らはここへ来たのさ。雇ってもらえてラッキーだよ!」
船上で鼻歌を歌いながら仕事をする様や、時折私のカメラを隠したりするいたずらな姿が海賊を思わせる。彼らは食べ物には手を付けなかったが、タバコを吸い始めた。
「ラマダンだけど、ハードワークの時は水分を摂ったり多少は例外なのさ!」
「(それタバコですけど?)」
我流ラマダンをかます彼らを横目に、にわかラマダン挑戦中だった私も船の上だけは無宗教地帯だということにして、ランチをお腹いっぱいいただいた。
最後は、民族衣装をお客に着せて写真を撮るサービス。まずはカップルたちが、女性はアバヤ、男性はカンドゥーラ姿でキスシーンを撮影。
「ちょ、イスラムの格好で人前でキスしていいんかい! てゆうか私にも着させてよぉ!」
全てのカップルの記念撮影が終わると、最後に私の番がきた。キスする相手のいない私を、船員たちが持ち上げて海へ投げるフリをしてみんなの笑いを取ったところで、楽しいクルーズが終わった。
こうしてオマーンの「オ」の字も感じずにムサンダムを堪能し、ドバイの安宿に帰ると、待ち受けていたのは安宿仲間たちと最後の夜。
「さあ! 行くよ! ガールズナイト!」
イスラムの神聖なイフタールの時間に、私は女子たちに誘われガールズナイトへ。ベラルーシ人、インド人、カザフスタン人、日本人の4人組は恋愛トークで盛り上がり、その後は男子たちと合流してカラオケへ。
BONJOBIとビールで夜を明かし、翌朝、まさかのラマダン中に二日酔いの旅人であった......。
【This week's BLUE】
唯一オマーンなのがわかる、オマーン国旗がはためくダウ船からのオマーン景色。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第190回「無類の親日国! アゼルバイジャンの世界遺産に驚愕!」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】