アゼルバイジャンの首都バクーは、市内に見所がまとまっていて観光がしやすい。
今日も0.20円(約13円)のバスに乗って、私はこの街一番の見所へ出かけた。「ヘイダルアリエフセンター」だ。
前大統領の名が付けられたその場所は、ミュージアムやコンサート会場、エキシビションホールなどが入った総合文化施設。なぜそんなところが見所かと言えば、その建物の姿がとんでもないからである。
グニャリ。
どうやったらこんな形のものを人が作ることができるのだろう。まるでSFの世界を思わす、歪んだ形の巨大な近代的建造物。
デザインしたのは、あのザハ・ハディド。そう、2020年東京オリンピック「新国立競技場」のデザイン案で日本でも話題となった、イラク・バグダード出身、イギリス在住の女性建築家だ。
2500億円を超える建設費に非難が集中し白紙撤回され、その作品は幻となってしまった。2016年に65歳の若さで亡くなったというが、こんなところで彼女の作品に会えるとは......。
さて、どこが正面かもわからない奇抜な形をしたその建築に近づくと、中庭では若者たちがサッカーやバレーボール、子供たちがキックボードで遊んでいる。
私はしばらく芝生に腰を下ろし、ラマダン中ではあるがこっそりとデーツ(なつめやし)をつまみながら、まるで近未来SFのような不思議な光景をぼんやり眺めていた。
せっかくなので、建物の周りをぐるっと歩いてみることにした。見る角度によって全て違う形をしていて、ひとつの建物とは思えない。
入場料15マナト(約980円)を払い、入口を抜けると、眩しいくらいの真っ白な館内が広がった。迎えられたのは、グルグルと奇妙に動く球体の照明と、"お尻"。
羽根を生やした裸の男がしゃがんだ後ろ姿のブロンズ像だ。
「しかし、なぜ入口にお尻を向けるんだ......」
その顔を拝んでやろうと回り込むと、眉間にシワを寄せた何とも言えない困惑した表情。いやいや、こっちがその表情したいよ。
建物はどうやら4階まであるようだ。2階にはバクーの街にある数々の建築物のミニチュア模型が展示され、先日見たカーペットミュージアムや、バクーを代表するフレームタワーなどなかなか見ごたえがある。
3、4階では、人形などの展示イベントが行なわれ、特に興味もないがなんとなく写真を撮っていると、監視員に「撮影禁止だよ」と注意をされた。しかし、しばらくすると
「ところで君は日本人? 特別に写真を撮っていいよ。ほら、好きなものを撮りなよ!」
さすが親日アゼルバイジャン! 日本人という理由で特別扱いされたものの、特に撮りたいものがなかったのでその監視員と記念撮影。
このような調子で「ヘイダルアリエフセンター」内部は特に何かやることもないが、建築好きなら絶対に死ぬまでに見るべき見事な建築だと思った。このインパクト、新国際競技場がどうなるか見てみたかった気も......。
さて、"超"近代的建築を見た後、私は旧市街に向かった。城壁に囲まれた街中は土産屋やレストランなどが並び観光地化され、いつもの通り声をかけられる。
「コンニチワ! 日本人? お茶を飲んで行かないか? 日本が大好きなんだ!」
もはや日本人であるがため、他の外国人観光客よりもひいきされているように感じる。"日本人だけアライバルビザ無料"にもビックリしたけど、なぜこんなに親日なのだろうか?
その理由のひとつは、2006年にイルハム・アリエフ大統領が来日したとき、日本の技術やおもてなしの心にたいそう感銘を受けたからだとか。
また、そもそもこの国は親日国として有名なトルコから派生した国。1890年にトルコの軍艦が遭難した際に日本人が命がけで救出したことから尊敬されているとか、子供たちは柔道や空手などを学び、強い日本人に憧れているとか......出るわ出るわ、親日理由。
外務省の情報によれば、アゼルバイジャンへのODA(政府開発援助)は主要援助国の中でも過去何年か、日本が1位! これが本当は一番の親日理由だったり!?
その後も、世界遺産「乙女の望楼」を拝んでいたら、アゼルバイジャン顔男子(しっかりめのタレ眉毛)が話しかけてきて
「日本は世界で一番の国でしょ? このカメラも日本のさ!」
と日本人の私と写真を撮りたがるので、スター気取りで応じる。チヤホヤされて(?)、居心地の良いこの地に長居したい気持ちはあったけど、こじんまりした観光地感に、おおよそ周りきれた気がしたの次へと移動。
日本からの短期旅行者にオススメしたい街だなと思った。
久々の寝台列車に乗ると、周りはアゼルバイジャンの男子学生5人組。ちょうどラマダンが明けている時間だったので、ソーセージを挟んだパンやコーラなどをむさぼり食っていて、ポツンとひとりの私にも分けてくれた。
「まさか、私が日本人だから......?」
もはやそう思わざるをえない。言葉はほぼ通じなかったけれど、日本人だと伝わればいつもなかなか好印象なのだ。
朝になると、今度はジョージア人のおじさんたちが朝ごはんを食べ始め、彼らもまた私に食べ物を分けてくれた。ジョージアはアゼルバイジャンの隣の国であるが、イスラム圏ではないためにラマダンは行なわれていない。
「もしかして、ジョージア人も親日?」
人から食べ物をもらうなどということは、旅人的には気を付けなければいけないのに、"親日"についつい心を許してしまう旅人であった。
【This week's BLUE】
定番のアイラブバクーオブジェ!
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】