フルモデルチェンジした15代目のトヨタ クラウン 2.0 RS Advance

日本の乗用車の中で、最も長い歴史があるクルマといえば、トヨタのクラウン。そのクラウンが6月、15代目となる新型へとフルモデルチェンジ。

しかも! 15代目は時代に合わせて大胆な身の振り方をしてきた。クラウンといえばこれまでは、ロイヤル(昔からのグレード)、アスリート(スポーツグレード)、マジェスタ(ちょっと長いボディの上級モデル)という3種類が用意されていた。だが、今回からデザインは基本的に1種類。細かなパーツ類の違いで標準とスポーティなRSの2種類となった。

しかも、基本のデザインがこれまでのクラウンよりも、かなりスポーティに振られたのが特徴だ。トヨタの開発陣に聞いたら、これはあえての戦略で、要は「若返り」を図るために大胆に変身したという。

なぜクラウンが若返りを図る必要があったのか。答えは先代クラウンユーザーの平均年齢にある。その年齢はなんと66歳! 完全にオジさん、いや、オジイさんのクルマである。なので新型では若い人にも買ってもらい、平均年齢を下げようという狙いがある。

それゆえ特にスポーティなRSは、初対面では思わず「えっ!」と声が出てしまうほど派手で、強い押し出しに圧倒された。写真を見てもらってもわかるように、実にスポーティなフォルムとなっている。

特に横から見てもらうと特徴的なのは、後席のウインドーが後席ドアよりも後ろに伸びていて、4ドアクーペのように見えること。

クラウンはこれまで、後席のウインドーは後席ドアの後端と一緒で、ウインドーの後ろにくるボディの余白部分(Cピラー)にクラウンのエンブレムがあったことが、クラウンとしてのアイコンだった。しかしそうした伝統を捨て、時代が求めるスポーティさをデザインに積極的に盛り込んだのだ。そして顔つきにも以前よりいかつい感じが見て取れるのがわかる。

一方、インテリアもナビ画面を2段重ねにするなど、デジタル的な感じを演出。メーターの間にもさらに液晶のパネルを入れるなどしている。しかしながら室内ではクラウンの伝統ともいえるスイングするエアコン吹き出し口は残された。そして後席の人が足を伸ばしてリラックスできるように、助手席のシートの背もたれを運転席から操作できるという、クラウン伝統のスイッチもしっかりと残されたのだった。

【SPEC】 ●8速AT●全長×全幅×全高:4910mm×1800mm×1455mm●車両重量:1730kg●エンジン:2リットル直列4気筒DOHCターボ●駆動方式:FR●最高出力:245PS●最大トルク:35.7kgm●最小回転半径:5.5m●使用燃料:無鉛プレミアムガソリン●車両本体価格:559万4400円(税込)

では走りはいったいどうなったのか? この最もスポーティなRSアドバンスというグレードの試乗車には、2リットルのターボエンジンが搭載されている。クラウンに2リットルターボである。最高出力は245馬力と正直、ちょっと物足りないが時代は今やエコだから、まぁ仕方ない。

しかし、実際に乗ってみると、力不足は感じずに気持ちいい加速を見せてくれたが......その乗り心地はもはやクラウンではなくなっていた。これは明らかにスポーツセダンである。聞けばクラウンは今回、このRSアドバンスというグレードを造るために、独の"聖地"ニュルブルクリンクサーキットでテストを行なったという。クラウンがニュルでテストである。時代は大きく変わったのだ。

で、肝心の乗り心地はというと、かなり硬い! 一般道を走っていてもハッキリと振動が伝わる。おそらく、これまでのクラウンのイメージを持って乗った人は、思わず腰を抜かすに違いない。そのくらい走りは若返っていた。というかスポーティすぎでは?と思えたのだった。聞けばこのRSアドバンスが最もスポーティな仕様に仕立てられているという。

もっともクラウンには標準グレードもあって、こちらも試乗してみたが、RSとは違い、乗った瞬間から昔ながらのクラウンを感じさせる乗り心地であった。実にゆったりと滑らかで心地よくなっている。ちなみに試乗した標準モデルの搭載エンジンは2.5リットルハイブリッドだった。

モーターとガソリンエンジンのハーモニーでゆるゆると穏やかな走りを実現している。「ああ、クラウンはやっぱりこれだよな」と思えるのは標準仕様のほうだった。僕も立派なオジさんである。

ちなみに新型クラウンは若返り戦略その2としてコネクティッド、つまりネットと常時接続される。LINEと提携した機能も搭載するが、これが若者の心に刺さる機能なのかというと、正直言って僕はズレている気が......。

とはいえ、これまでのオジさんご用達のクラウンよりは若返ったのは確実だ!

●河口まなぶ
1970年生まれ、茨城県出身。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌(モーターマガジン社)アルバイトを経て自動車ジャーナリスト。毎週金曜22時からYouTube LIVEにて司会を務める『LOVECARS!TV!』がオンエア中。02年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員