建物の奥まで電波が届くというポケベルの周波数の特徴を利用して作られた防災ラジオ。音声のみのタイプと文字も出るタイプがある

平成前半に大ブームを起こした、あのグッズやファッションは、今、どうなっているのか。そもそも、まだあるのか? 調べてみたら、驚きの事実があった!

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ポケベルのサービスが普及し始めたのは1986年頃。当時のポケベルには数字の表示機能はなく、音が鳴るだけのサービスで、主に営業職への連絡手段として普及していった。

そして90年代になると、女子高生を中心に「0840」(おはよう)、「0906」(遅れる)、「14106」(愛してる)など、数字の表示機能に言葉を反映させてメッセージを送ることがブームになった。NTTドコモの発表によれば、ピーク時には約600万台以上の契約があったという。

その後、PHSや携帯電話の台頭によってポケベルの契約数は急激に減少。07年には大手のNTTドコモがポケベル事業から撤退した。

では、現在でもポケベルはあるのだろうか?

「弊社には現在、約1500人ほどのポケベルの契約者の方がいらっしゃいます」

と語るのは、東京テレメッセージ代表取締役社長の清野英俊氏だ。

「個人の方ももちろんいらっしゃいますが、多くは医療関係者です。PHSや携帯電話のように双方向での発信が可能な機器だと電磁波の問題があるのですが、ポケベルは受信のみで電波を発しないので、医療現場でも安全に使うことができます。

また、ポケベルの280MHzという周波数は建物の奥などにも届きやすいという特徴があるため、病院などの連絡用として今でも使われています」

しかし、ポケベルの利用者1500人だけでは会社の経営は成り立たない。そこで東京テレメッセージは、建物の中まで電波が届きやすいという特徴を持つポケベルの電波を利用して、防災無線が受信できるラジオ型受信機を開発した。

「地震や集中豪雨といった大災害が発生したとき、自治体は防災情報を住民に伝えなければなりません。現在、ほとんどの自治体では屋外スピーカーで防災情報を知らせています。屋外スピーカーが設置され始めた頃は高層ビルがあまりなく、家の気密性も低かったため、それなりに情報を伝えられました。

しかし、最近の家は気密性が高く外の音が聞こえにくい上に、ビルなどの建物が音を遮蔽(しゃへい)してしまいます。こうした時代に必要なのは気密性の高い家の中でも防災情報を知るための方法です」(清野氏)

また、ポケベルの電波は遠くまで届くという利点もある。

「現在、東京23区内には3000から4000の携帯電話の基地局があります。そのおかげで動画などもスムーズに見ることができるわけです。

しかし、災害などで多くの人が一度に電話やメールを使うと電話がつながらなかったり、メールが届かなかったりする。基地局が被害を受けると、さらに状況は悪化します。

一方、ポケベルは電波が遠くまで届くため、都内23区をふたつの基地局でカバーしているんです。しかも、その場所は首都圏直下型地震が起きても最後まで電源が落ちないといわれている東京電力本社の屋上と、池袋のサンシャイン60にあり、サンシャインでは非常用電源を使用できることになっています」(清野氏)

開発した10年前は、全国で3つの自治体しかラジオ型受信機を導入していなかったが、東日本大震災以降の防災意識の高まりによって導入する自治体が増えているという。

ポケベルは今、その姿を消しつつあるが、形を変えて進化していた。

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