戦後、闇市が開かれていた場所に建設された「ニュー新橋ビル」。特徴のある格子状のデザインは、ビルが着工された1969年当時の最先端のデザインだったという

「おやじビル」の名で親しまれる建物が消滅の危機に瀕している。東京都の耐震診断の結果、震度6強で倒壊の危険があると指摘されたからだ。

魅力ある店が集まったオヤジの聖地は本当に消えてしまうのか――?

■区分所有方式が魅力の要因に

渋谷の道玄坂共同ビル(通称SHIBUYA109)、六本木共同ビル(ロアビル)、新宿の紀伊國屋ビルディングなどとともに、東京都から「倒壊の危険あり」と実名で指摘されたニュー新橋ビル。近い将来、強制的に取り壊しとなるのか。不動産関係の事情に詳しい、ジャーナリストの千葉利宏氏に話を聞いた。

「今回の発表は、2013年に施行された改正耐震改修促進法に基づいて行なわれたもの。見せしめで名前を公表したのではなく、東京都が法律に従って調査をして、結果を公表しただけです」

では、これらのビルは早急に補強工事や建て替えなどが必要に?

「対策を取らなくても罰則はありません。ただ万が一、震度6強以上の地震で倒壊して、お客さんに何かあったら、ビルの所有者に責任が問われます」(千葉氏)

指摘を受け、SHIBUYA109、紀伊國屋ビルディングは耐震補強工事、六本木ロアビルは取り壊しが決まったが、ニュー新橋ビルはどうなのだろうか?

「再開発計画は2年前に発表されましたが、実際にどうなるかはわからない。このビルは『このフロアのこの部分は○○さんのもの』という形で、ビルの空間を細かく区切って所有者を分割する『区分所有ビル』で、建て替えには約320人の所有者の5分の4の賛成が必要だからです」(千葉氏)

なぜこのような形で建てられたのか。『新橋アンダーグラウンド』の著者、本橋信宏氏に聞いた。

「ビルが建つ前、この地には戦後の闇市から発展した、小さな店がたくさん入る長屋がありました。建設交渉で店子すべてにビルの一部の区画を所有する権利を与えて、商売ができるようにしたのです」(本橋氏)

結果、おじさん好みのビルを生むことに。

「普通、テナント区画で風俗店を営業しようと思っても、ビルの所有者が拒否しますが、このビルは、みんなが所有者だから、自分の区画で自由に商売ができる」(千葉氏)

魅力的なビルになった理由と、建て替えが困難な問題は「区分所有ビル」という商業ビルでは珍しい所有権システムによるものだった。

■建て替えられると魅力が激減

となると、所有者の協議が長引いて、ニュー新橋ビルは当面の間、このまま安泰ということか?

「駅前の一等地で耐震対策を何も取らないのは問題なので、意見をまとめるなり、金銭的な交渉をして、そう遠くないうちに新しいビルを建てるでしょう。建て替えに苦労する『区分所有ビル』の方式はやめると思います。そうなると、儲かる店重視でテナントを入れますから、ほかの商業ビルと変わらないものになるでしょうね」(千葉氏)

最後に、このビルの楽しみ方を本橋氏に聞いた。

「金券ショップで突然安値で売り出されたワケありのチケットや金券を見て、そのワケを想像したり、外国人女性が客引きをする2階のワケありゾーンを歩く。そんな怪しさを楽しみながら、店を巡りたい。食事は味つけ濃いめのナポリタン。

ケチャップの水分を飛ばして味を濃くすることで、ワイシャツに飛び散らないようにしたのが、新橋流です」(本橋氏)

どこにでもあるビルに生まれ変わる前に、ぜひ行ってみてほしい。

1971年4月にオープンしたビルは、地下1階から地上4階までが商業フロアで、5階から11階がオフィス・居住フロアとなっている

★『週刊プレイボーイ』33号「カオスな空気感が魅力的な昭和を代表するビル サラリーマンの楽園 東京・新橋ニュー新橋ビルのトコトンな楽しみ方」より