街が一望できる「カスケードコンプレックス」にある噴水

いよいよコーカサス3ヵ国の最終目的地アルメニ

キリスト教を世界で初めて国教としたことや、コニャックが特産品なことで有名な国。アゼルバイジャンと仲が悪いことは旅人にとって常識だが、一体どんな国なんだろうか。

アゼルバイジャンが予想より街も人も開放的だったことから、そこと仲の悪いアルメニアは反対に閉鎖的なのでは?というイメージを私は持っていた。

アルメニアのソウルフード「ラヴァシュ」は、2014年にユネスコ世界無形文化遺産に登録されたんだって!

さて、ジョージアの中央駅からミニバンに乗ってアルメニアの首都エレバンに向かおうとすると、乗車賃をボったくられそうになった。

隣に座ってきたジョージア人の男は、「俺に寄りかかれ」とグイグイ肩に手を回してくるようなセクハラオヤジでなんだか気持ち悪いし。苦笑いでかわしたけれど、あーあ、ジョージアはせっかく良い国の印象だったのに、ちょっとショック。

そんな時、乗り込んできたのがポーランド人女子のアガタだった。爽やかなひとり旅女子って感じですぐに意気投合して、移動中の仲間ができたことに一安心。しかし、6時間ほどでエレバンに着くと、アガタはカウチサーウィンの約束があると去っていった。

カウチサーフィンとは、簡単にいうと"宿泊の交換"で、インターネット上で連絡を取り合った相手の自宅に泊めてもらったり、泊まらせてあげるシステムのこと。

ホスト先はインド人男性だというので、女子ひとり見知らぬ男性の家に泊まることをちょっと心配したが、「レビューが高かったし、ちゃんとした人だと思うから大丈夫だろう」と言っていた。

カウチサーフィンを利用する旅人は多く、今の時代は普通なのだろうけど、私にはまだ少しだけ抵抗があって、これまで一度も試したことがない。無料で泊まれるのは大変ありがたいが、やはり気を使ったりリスクに怯えるのがストレスになるからだった。

アルメニアの首都エレバンの駅アルメニアの電車に乗って宿へ向かう

そんな私が向かった先はいつもの通り安いドミトリー宿で、これまたジョージアと同じくイラン人宿泊客が多かった。いや、宿泊客というより、住み込み型のおじさま方。

「アルメニアはいい国だぞ。なんせ人が本当に優しい! ジョージアよりももっと住みやすいぞ!」

と、私にご飯を分けてくれる。いつものイラン人の優しさがここでもまた発揮された。

ふむ。私が先日ジョージアでも"世界一優しい国民"と感じたイラン人がそう言うのだから、アルメニアも優しさあふれる国なのであろう。

外はちょっと暗くなってきてるけど、さっそく出かけてみると、エレバンの街は夜も人が多く女性や子供も普通に歩いていて、治安は良さそう。

エレバンの夜道を歩く女性

イルミネーションがキラキラする映画館の前には、六本木ヒルズにあるような大きな蜘蛛のオブジェ。

そして何やら派手な音楽が聞こえてきたと思ったら、路上でDJが音楽をかける中、踊り狂う若者たちがいた。何の騒ぎかと質問しても、誕生日だとかなんとか正確な答えは返ってこず、「それよりおまえも踊れ」と腕を掴まれて引きずりこまれた。

しかたないので、財布やカメラを盗まれないように気を付けながら、私もひとしきり踊り愛想を振りまく。

アルメニア人はあまりシャイな性格ではないのだろうか、日本人のように踊ることを恥ずかしがる様子はなく、みんな思い切りよく、そしてずっと踊っていた。

この国の人を内向的かもしれないと思っていた先入観が一気に吹き飛び、むしろ"パリピ"のいる国だなという印象を持った。いや、パリピは言い過ぎか(笑)。

映画館の前に六本木ヒルズにあるものと同じような蜘蛛オブジェ

路上で踊る人々とDJ

私も踊らされた

なかなか解放してもらえなかったが、やっとこっそりその場を抜け出すと、まさか知り合いがいるはずもないこの街で私を呼ぶ声。振り返ると、そこにいたのはアガタとホスト先のインド人男性マヌだった。

なんたる偶然、私はそこに同席した。マヌはここに住みながらドクターの勉強をしているというインテリ系イケメン男子。英語もペラペラだし、過去にアルメニア人の彼女と3年付き合っていたらしくアルメニア語もできる。

彼は初対面のアガタにウィットに飛んだ会話をかましたり、軽いサーカズム(皮肉)でからかったりとなかなかスマートな男である。意識高い系といった感じで、やんちゃ感もありながら所々で品の良い所作がでるあたり、モテそうな男だと思った。

カウチサーウィンで出逢ったホスト先としては、アタリ物件と言うべきであろうか。まるでデート中のようなふたりの邪魔をしている気になった私は、ワインを飲み干しておいとました。

マヌとアガタ。偶然の出会いでディナーを一緒に

翌日はアガタと女子旅デー。昨夜ふたりに何もなかったことを確認して(余計なお世話)、観光に出かけた。

さすが女子ふたり、キャッキャ言いながらインスタ映えを意識した写真を撮り合うことに時間をかけたり、テラスでビールを飲みながらガールズトークで盛り上がる。

最近は独りでハードな旅をしていたけれど、そうそう、私はこういう旅もしたかったんだ! 久々に私の中にあるミーハー女子の部分がちょっと動いた。

階段を登ると街が一望できる「カスケードコンプレックス」

噴水前でインスタ映え!

夜は予約していたこの街一番人気のレストランで、恋話をしながらディナー。

アガタはベジタリアンなので、肉の入っていないカボチャとドライフルーツの甘いピラフのようなものを注文。私は定番のドルマ(挽肉を葡萄の葉で巻いたもの)と、マヌが教えてくれたアルメニア料理ジンガロヴハット

この料理、見た目は地味だけれど、薄い生地の中にバター炒めの野菜を包み平たく焼いたもので、とても美味しい。そしてワインでほろ酔い。

非日常が日常な旅の日々で、まるで東京で普通に友達と遊んでいるようなこの時間は逆に新鮮で気持ちが良かった。あと残り数日、エレバンでアガタと素敵なお店巡りしようかな、なんて。

この街一番人気のレストランはさすがオシャレ私が頼んだのはジンガロブハットと定番のドルマ

そんなとき、私に一本の連絡が入った。

ドバイの安宿で出会ったラオス人男子ジェイソンが、偶然にも今このエレバンにいるから合流しようと言うのだ。

結局、日本人とポーランド人、インド人、ラオス人というメンツで異業種コンパならぬ、異文化コンパで乾杯。すでに遊び尽くした満腹女子はお疲れモードであったが、男子は株やFX、仕事の話で盛り上がっていた。

興味のない会話にふとテラス席から外に目をやると、きらびやかな映画館とあの蜘蛛のオブジェが見える。なんだか六本木で飲んでる"港区女子"な気分......なんて思いながら、

「そろそろタク代を......じゃない、そろそろ安宿に帰ろうと思うんだけど......」

私がそう切り出すと、帰り道はジェイソンが送ってくれることになり、歩きながら旅トークが始まった。

「僕はジョージアに住もうと思ってたけど、アルメニアも良いって聞いてここで探そうと思ってるよ。それにしても、まさかここで再会するとはね! 隣の未承認国家には行くの?」

そうだ、未承認国家......。

実はアルメニアとアゼルバイジャンが取り合っていて、仲の悪い理由でもある、未承認国家ナゴルノ・カラバフへはこのエレバンから行くことができる。

残り日程が少ないことから諦めようと思っていたが、出発するなら明日早朝がラストチャンスだ。未承認国家など行ったこともないし、もう二度と行けないかもしれないと改めて考え直した途端、再び私の冒険心に火がついた。

港区女子的なナイトライフを錯覚したのも一瞬、どうやら私の旅はまたスリルと刺激があふれるものに戻りそうだ......。

【This week's BLUE】
ツェツェルナカベルト(アルメニア人虐殺博物館と慰霊碑)では、青空の下とても寂しく悲しい空気が流れていた

★旅人マリーシャの世界一周紀行:第195回「未承認国家ナゴルノ・カラバフの子供たちが投げかける答えづらい質問」

●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】

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