「私は『声は人なり』と言っているんですが、声だけである程度、人柄はわかるもの。顔が思い浮かぶ声はそれだけで価値がある」と語る竹内一郎氏
普段、何げなく発している「声」。アナウンサーや声優、役者といった声のプロを志さない限り、発声法などを学んだことのある人はごく少数だろう。

本書『人生は「声」で決まる』はタイトルだけでなく、内容も刺激的だ。さまざまなエピソードを紹介しながら、コミュニケーションにおける声の重要性を説き、自分の声をどう変えていけばいいのかを考察していく。

著者はベストセラー『人は見た目が9割』(新潮新書)の竹内一郎氏。本当に声で人生が決まり、声を変えることで、人生もよりよくできるのだろうか?

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──『人は見た目が9割』でも、声のトーンや大きさ、テンポなど、聴覚情報の重要性を力説されていました。

竹内 他人とのコミュニケーションでは聴覚情報、視覚情報、言語情報の3つの情報がやりとりされます。他人に何かを伝えるときに、いちばん重要なのは言語情報のように思えます。

ところが、アメリカの心理学者の実験によると、矛盾した情報が与えられた場合、相手が信用する情報は視覚情報が55%と最も高く、続いて聴覚情報が38%で言語情報はわずか7%。言語コミュニケーションが約1割、非言語コミュニケーションが約9割なんです。

──声も見た目のひとつ?

竹内 そうなんです。視覚や聴覚に訴える非言語コミュニケーションを大切にしたほうがいいというのが、私の主張です。今、メールやSNSなど言葉だけでのコミュニケーションが多いのですが、電話で話したり、直接会って話したほうが、言いたいことが伝わりますよね。

──声にも個性がありますしね。

竹内 それが、伝達力にもつながります。ですが、意外と多くの方がそういうことに気づいていない。それから、声帯は筋肉ですから、使わないと退化していきます。逆に、使えば使うほど鍛えられ、磨かれていく。

私はトップ営業マンの表彰式で講演をすることがあるんですが、講演後、表彰された方々と名刺交換をしてみると、皆さん、非常に魅力的な声をしているんですよね。不動産やクルマは力強い押し出しがあったり、化粧品はソフトだったり、銀行や証券は落ち着いていたり、業種によって特徴があります。

たぶん素晴らしい先輩がいて、そういった方々をお手本にして、日々、声のトレーニングをしてきたのだと思います。だからこそ、結果を出せるんです。

──役者に魅力的な声を持つ人が多いのも、トレーニングのたまものなんですかね?

竹内 私は42年間、芝居をやっていますから、発声法や呼吸法など、声をどう出すかのノウハウを持っています。ただ、難しいことに、正解はひとつではないのです。役者がみんな同じ声ではおもしろみがないし、舞台や映画、テレビで発声法も違う。

また、場面や役柄で変える必要もあります。ケース・バイ・ケース、状況によって、さまざまな正解があり、万人共通の声のノウハウやマニュアルはないんです。

──一般の人はどうすればいいのでしょうか?

竹内 割り当てられたキャラクターに合わせた声を出すことで、仕事もプライベートもうまく回していくことができます。ファッションなどの見た目と同じように、声も意識的にTPOに合わせたほうがいいですよ。

──女性を口説くのにも、TPOに応じた声の出し方があるようですね。山路徹さんは「モテ声」と書かれていますが......。

竹内 本にはフリージャーナリストのYさんと書いたんですけど......(笑)。一見、三枚目ふうの風貌から発せられる、あの低い声は女性にとって癒やしになり、魅力的に聞こえる。

もちろん、女性にマメな性格なんでしょうけどね。また、テレビで声だけを聞いても、すぐに山路さんだとわかる。顔が思い浮かぶ声はそれだけで価値があるんです。

──いい声なんですね。

竹内 私は「声は人なり」と言っているんですが、声を聞いただけで、ある程度、人柄はわかってくるものです。また、声とはその人の持つ教養そのものですからね。教養というか、「イメージ力」の問題です。イメージを生み出すのは、知識や経験の積み重ねですからね。

江戸時代、漢籍などをひたすら声に出して読む「素読」が寺子屋の勉強法でしたが、声に出して読むだけで教養、イメージ力は確実に身についていく。肉体を使うことで、身をもって覚えていたわけです。ですから、朗読もトレーニングとして有効だと思います。

──なるほど。あと、声は社会を映す鏡とありますが......。

竹内 例えば、国営放送のアナウンサーの声は、その国の状態を表していると思います。最近、北朝鮮のニュース映像は穏やかですが、少し前までは、すごいテンションでした。

日本でも戦時中は国威発揚的な声でしたが、平和が続いて、しかも復興期や高度経済成長期やバブル期と違い低成長の時代ですから、全般的に声が低く、小さくなっている。また、政治家やジャーナリストも魅力的な声を持つ人が少なくなっています。

──なぜなんでしょう?

竹内 声を出す上で一番大切なのは、「何かを伝えたい」という気持ちです。最近はそういう気持ちが薄れていると思う。政治家としての良しあしは別にして、山本太郎参議院議員は言いたいことが伝えられる声だと感じます。元役者なので、トレーニングをしていたんでしょう。

──どうすれば、声を変えることができるんでしょうか?

竹内 本書の第4章でメンタル篇、第5章でテクニカル篇として、「豊かな声をつくる術」を紹介しています。ただ、手っ取り早いのはボイスレコーダーやスマホで自分の声を録音することですね。

先ほどマニュアルやハウツーはないと言いましたが、声の出し方には6つの要素があります。(1)音量コントロール、(2)スピード、(3)抑揚、(4)明瞭な発音、(5)流暢(りゅうちょう)さ、(6)効果的な「間」という要素をTPOに応じて調整するのが基本です。録音した自分の声をチェックしてみると、イメージしているものとは違うと思いますよ。

──気恥ずかしいですが......。

竹内 鏡に自分の姿を映して、身だしなみを整えるのと同じことですから。声は変えることができます。そして、自分なりの声を出すことができるようになれば、人生を豊かなものにすることができる。そのことを伝えたくて私は本書を書きました。

●竹内一郎(たけうち・いちろう)
1956年生まれ、福岡県出身。劇作家、演出家、宝塚大学東京メディア芸術学部教授。横浜国立大学教育学部心理科卒業、文学博士(九州大学/比較社会文化)。『戯曲・星に願いを』で文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作、『哲也 雀聖と呼ばれた男』(原案/さいふうめい名義)で講談社漫画賞、『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』でサントリー学芸賞(芸術・文化部門)を受賞。『結局、人は顔がすべて』(朝日新書)ほか、著書多数

■『人生は「声」で決まる』
(朝日新書 750円+税)
周囲を見回すと、仕事ができる人、人間関係を円滑に進めている人には、声がいい人が多いことに気がつくはず。それもそのはず、人と人とのコミュニケーションにおいては、話す内容よりも声そのものであらゆる判断がなされがちなのだ。本書はベストセラー『人は見た目が9割』の著者が声に着目して書き上げた超実用的人生読本。自分なりの声を意識して磨き上げることによって、自らの人生をよりよく変えていこう!

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