アルメニアでスリに財布を盗まれたことで、クレジットカードも銀行のカードもなくなった。
この後の旅でお金を引き出せないが、どうしたら良いだろうか。お腹に隠していた500ドルほどの現金はあるが、今から行くのは中東旅のハイライト、イスラエル、ヨルダンで、この旅で一番お金がかかるエリアである。
フライトの時間は迫っているのでもう行くしかないが、当面のお金が足りるのか、不安いっぱいのまま空港へ向かった。
ガラーンとした空港にはあまり搭乗客の姿はなく、イスラエル行きの便に乗る人の少なさがうかがえる。
しばらくすると、ロープで囲われた空間にガタガタといくつかの机が運ばれてきて、その横には銃を構えた男たちが配備。
「コワ! なんなんだこの厳重な感じは......」
そして、私たちはまるでクイズ番組で答える芸能人のように、ひとりずつデーブルに配置され、個人面談が始まった。私の担当はなかなかの金髪美女であったが、その表情は冷徹でピリっとしていて威圧感がある。
「さて、あなた英語はできるわね。じゃあ今から質問に全て正確に答えるように。まず、なぜイスラエルに行くの? これまでに行った国は? そこで会った人の名前も言いなさい」
「えっと、ドバイスタートでクウェートとかバーレーンとか......。会った人って、いっぱいいるけどみんなニックネームしかわかんないよ。ジェイソンとか、キンジョーとか......」
「ワッツアップやラインなどの交換は?」
「えっと、あーオマーンで一緒にクルーズした人のがあったかな......」
「オマーン? さっき言ってなかったじゃない! なんで言わなかったのか言いなさい!」
「え! 別に隠していたわけじゃ......」
「仕事は? ライターって何を書いているの? ブロガー? それでご飯食べてるってことはフォロワーが多いってことよね? 何人よ?」
「や、ええと、恥ずかしながらそんなにフォロワーは。ギリギリで生きてますし、それに副業で色々やってます。ってなんでこんなこと......。恥ずかしいんですけど」
「荷物の中には人にもらったものがあるかしら?」
「スリに会った後、イラン人のおじさんが恵んでくれたカップヌードルみたいなのがあるけど......」
とにかくこと細かに聞かれると、ルールだからと現金とスマホ以外の荷物を全部取られた。白い手袋をした係員がバックパックの中身を全部テーブルに並べ、全ての物をじっくりと調べ始めた。
「あなたの荷物は全て預かります。イスラエルで受け取ってください」
「え? なんで私だけ? みんな機内持ち込みしてるじゃん! カメラとかパソコンとか貴重品壊れたら困るんだけど!」
周りを見渡すと、強面で悪人ヅラの男だってたくさんいるのに、ここまで厳しい扱いをされているのは私だけ。
パスポートに世界中のスタンプがあり、一人旅をしている日本人の女の何がそんなに怪しいのであろうか?(怪しいだろうな!)
「スリに財布もデータも盗まれてただでさえ凹んでるのに、これ以上私から何も奪わないで!」
そう願っても無駄で、その後もまた、次の関門でスーパーバイザーと呼ばれる女性の元へ通され、初めの金髪美女よりさらに激しく詰問された。
何も悪いことをしていないのに、まるでいじめにあってるかのような気持ちで、「もうこんなことされるならイスラエル行かなくていいよ」とすら思ったが、言うとおりにするしかない。
それが終わると今度は、まるで私が犯罪者か超VIPかのごとく、両脇に金髪美人ともうひとり女性が付き添い、空港内を移動。個室に連れて行かれた。
ドアがバタンとしまると......、
「服を脱ぎなさい」
「え」
もうどうでもよくなった私は、飛行機に乗り遅れるのもイヤだし、さっさと全裸になろうとすると、そこまで脱がんでいいと止められた。
「脚を開いてグッと腰をかがめなさい。ほら、ヨガのポーズよ。ヨガわかる?」
四股を踏むような格好で股間部分までしっかりと、全身のチェックが終わり、ひとりの女性が出ていくと、最初の金髪美女と部屋にふたりきりになった。
その途端......。
「はぁ~! 緊張した! 実はこのフライト今日が初なのよ。だから皆ピリピリしてるの。私の初仕事。ボスは良い人だけど緊張しちゃった!」
さっきまで強張っていた金髪美女の表情が緩んだ。
「あなた世界旅してるんでしょ? いいなぁー! 私ロシア人なんだけどさ、日本大好き! 子供の頃『セーラームーン』とか見てたの。日本の女子はみんなあの髪形だと思ってたわ(笑)。フェイスブックとかやってる? 交換しよー!」
え? SNS交換とか、いいんですか?
さっきまでとの豹変ぶりに驚いたが、私は彼女とつながった。そして飛行機に乗る直前まで彼女に警護され、最後まで笑顔で手を降られ飛行機に乗り込んだ。
アルメニアからイスラエルへのフライトは、私にとって世界で一番厳しい出国だったが、忘れられない思い出となった。
イスラエルの空港に着きロストバッゲージがないか心配していたが、自分のバックパックを見つけ、やっと安堵。
グルグルにまかれていたビニールを破り、まずはカメラやパソコンなどを確認しようとジッパーを開けると......
バッサーーー!!!!
白い粉が舞い上がった。え? 何これ! コワイ! え! 私ドラッグとか持ち込んでませんから!!!
一瞬、このまま逮捕されて死刑になるのでは......なんてことが脳裏に浮かんだが、その粉は美味しそうな匂いを漂わせていた。よく見てみると、イラン人にもらったカップヌードルのカップが割れている。
こ、これか! ビックリしたーーー。
ひとまず、無事にイスラエル入国......。数日後、私のSNSにはロシア人の彼女からイイネが押されていた。
【This week's BLUE】
空港から市内へ向かうバスでさっそくジューイッシュ(ユダヤ教)の格好をした男性たちに出くわした。イスラエルっぽい!
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第198回「宗教の聖地エルサレムの安宿で、男性の部屋に呼ばれたら......」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】