ついに、連載200回! みんないつも応援本当にありがとー!!!!
旅中はさまざまなトラブルに巻き込まれながらも、読者のみなさんのおかげで、めげずにここまでやってこれました! 私はまだ生きてます! 生きてるけど......。
* * *
「カイカイカイカイ!」
イスラエルの安宿で、朝目が覚めると頬がカユーイ!
どうやら南京虫に刺されたようだ。(でも以前刺された時よりずっとマシ!)
「FxxK! この宿マジありえないんだけど!」
19歳のドイツ人女子ピアはそう言って怒っていたが、安さには勝てず宿を出ていく気配はない。
「ウチさぁ、ATMでお金おろした時そこにカード忘れてきちゃってさー。アンタもスリに遭ったんだって? お互いお金ピンチだね! でもなんとかなるっしょ!」
まだ若い彼女は怖いもの知らずで、言葉使いも乱暴な感じである(ちなみに英語)。
「アンタ、もちろん死海は行くんでしょ? ウチさぁ、団体行動って苦手なんだけど、でもアンタとなら一緒に行こうかな!」
どうやら私のことは気に入ってくれたようで、ふたりで一緒に死海に行くことになった。
しかし、本日は金曜日。ユダヤ教の教えではシャバットと呼ばれる安息日であり、日没から土曜日没まで街の機能が停止する。交通機関も止まるというので、昼すぎの最終バスに乗らないと戻ってこれないかもしれない......。
「ねぇ、ピア。私たち絶対に早く帰ってこようね! 最終バスじゃ万一、乗り損ねた時に心配だから、それよりも1本早いのに乗りたいんだけど......」
「はぁ~? それじゃ時間短すぎっしょ。最終バスで大丈夫だって!」
心配性の私に対して、ピアはたくましい......というか、のん気である。
死海には、無料で入れる公共ビーチがあり、そこまではバスで約2時間。まずエルサレムのセントラルバスステーションに行くと、まるで渋谷でティッシュを配られるかのように、キャンドルを渡された。
さすが宗教の地。「帰りのバスに乗れますように!」とでも祈れってことかしら? まぁ、もらえるものはもらっておこう。
立ち乗りの私たちを乗せた満席のバスが、岩山や砂漠のような景色の中を抜けていく。日陰が一切なく、こんなところで放置されたら命に関わるだろうなという恐怖感。
「うわー、何も無い。これはちょっとヤバイねぇ......(苦笑)」
ピアもやっと少しビビり始めたようだ。
すると他の乗客から、公共ビーチよりも手前に有料ビーチもあるという情報をつかみ、持ってる現金はギリギリだが時間の短縮も兼ねて、私たちは急遽そこでバスを降りることにした。
「200m先に車がいるはずだから、それ乗ってね~」
そう教わったが、なんだか曖昧だし、本当に車なんているのだろうか。
「やばくない!? 何もないじゃん! マジ無理なんですけど!」
さすがのピアも焦っていたが、言われた通り進むと1台の車が待っていた。
「パレスチナへようこそ!」
え!? ここパレスチナなの? 旅友から気を付けてと言われていたので自ら行くことはないと思っていたけれど、エルサレムから東(ヨルダン川西岸)はパレスチナの自治区が点在するそうで、気付かぬうちに入っていたようだ。まぁ、見たところこのエリアは特に危険な様子もないけど、ちょっとドキドキ......。
有料ビーチまで車で運ばれ、59シェケル(約1850円)の入場料を払うと、パラソルとシャワーの用意された死海が目の前に広がった(ちなみにピアは学割で喜んでいた)。
「おおおおー! ここが死海か......!」
普通の海水の塩分濃度が約3%であるのに対し、死海の湖水はなんと約30%の濃度。生物が生息できない環境が名前の由来とも言われ、浮力が大きく人が浮くことでイスラエル観光の目玉となっている。
イスラエルに来たらここはマストでしょう! ......と期待に胸を膨らませていたわりに、見た目は特にキレイなビーチというわけでもないし、インパクトがあるわけでもない。
ひとまずベタに"新聞を持って死海に浮く"という定番の写真を撮ってみるが、底は泥でヌメヌメしていて水は生ぬるく、体感は正直不快......(笑)?
それから、死海の泥でパックをすると肌がスベスベになるというので、強い塩分で肌がピリピリしながらも体中に塗りたくってみた。乾いていく泥の感触を感じながらしばらく我慢してみたが、このスベ肌は一体誰のため......? あまりの太陽の暑さに干物になりそうである。
"恋愛を放棄している、さまざまなことを面倒臭がり適当に済ませてしまう女性のこと"を干物女(ひものおんな)と言うそうだが、私はこれで名実ともに干物女と化してしまうのだろうか。
結局、帰りは最終バスの時間になってしまい、私たちは10分前にバス停に着いたが、ほぼ同時にバスが来た。もしこれに乗り遅れたら帰れなかっただろう。
「ほら、言わんこっちゃない」
私はピアにドヤ顔でそう言った。海外でバスが遅れることは日常茶飯事だが、時に早く来たりもして置いていかれるのだから、コワイ。
無事宿に帰ってきた私たちは疲れきっていて、ピアはお夕寝。夜になるとノソノソと起きて母親と電話を始めた。あんなにたくましい彼女も、お母さんにホームシックを訴えている様子は妙に子供のようであった。
19歳の娘がイスラエルに一人旅してカードなくしたら親も心配するだろうな。しかも、破天荒だし......。私もまぁ、やっぱ、親には心配かけてるよな......。
そんなことを考えながらピアを眺めていたが、今日、死海への不安な道中を共にした"つり橋効果"であろうか、彼女に愛着を持っていた。私はピアのサバサバしたところが好きで、宿の中でも一番仲良くなったし、もう少し一緒に旅したいと思った。
けれど、私には日程が残されておらず、イスラエルに残りヨルダンを諦めるか、明日からヨルダンへ向かうか決めなければならなかった。しばらく考えたけれど、ここまで来てやっぱりヨルダンは捨てられない。また仲良くなった旅友との別れだ。
「ピア、私、明日の朝に出発するわ。ヨルダン行ってくる」
私が深夜まで必死に国境越えについて調べていると、「ほらまた心配性! あんまストレス貯めすぎんなよ! リラックス! ね!」
これがピアと最後の会話だった。19歳女子の言葉はストレートに私の性格を指摘していて、なんだかとても温かく、次の旅への道を応援してくれた気がした。
私は翌早朝、ピアの無垢な寝顔にありがとうとさよならを呟いてヨルダンへ向かった。
【This week's BLUE】
ユダヤ教徒のカップルとアイラブエルサレムのオブジェ。
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】