ドーブルィデーニ(ウクライナ語でこんにちわ)!
すっかり気に入ってしまった国、物価が安くて美人が多いウクライナ。
首都キエフの中心地は奇抜なヘアカラーの若者にあふれ、目抜き通りでは赤信号で停車中の車の前で演奏隊がジャズを奏でたりと、とてもオシャレ人口の多い街である。
そして街で一番チャーミングな通りと言われているアンドレイ坂へ向かうと、石畳の坂道にはかわいらしい建物や民芸品の露店が並び、ほのぼのとした雰囲気。深呼吸したくなるような青空の下、聖アンドレイ教会が堂々佇んでいた。
しかしそんな穏やかな日、この坂を下って私が目指している場所は「国立チェルノブイリ博物館」。
1986年4月26日1時23分、旧ソ連で起きた、史上最悪の原発事故「チェルノブイリ原子力発電所事故」の記録が残されている施設だ。
「チェルノブイリ」という言葉は子供の時に聞いたことがあった気もするが、恥ずかしながら私はそれについて無知でいた......。
建物の前に着き、一呼吸置いてドアを開けると、まず始めに目に飛び込んできたものは日本語であった。
「犠牲、万単位...」
新聞の大きな漢字の見出しは、福島第一原子力発電所事故の記事。ドクンッ...。心臓がキュっとなった。
まさかウクライナのこんなところで、いきなり日本の情報に囲まれるなんて。悲惨な光景を写した写真に、あの日が脳裏にフラッシュバックした。博物館の1階は全て日本に関する展示であった。
受付のおばちゃんは私が日本人とわかってなのか、どことなく心通じ合ったような優しい笑顔で挨拶してくれた。
入場料を払い、日本語のオーディオガイドを借りて2階へ上ると、今度こそチェルノブイリ原発事故の展示室。赤い光に照らされたガスマスクや全身を覆う作業着が不気味さをかもし出す。時計は原発事故が起きた1時23分で止まっていた。
原発事故の原因は4号炉の爆発で、それは設計時の欠陥や実験中の判断ミスなど様々な要因が重なり起きたものだ。放射性物質により4000人~長期で見ると数万人になるほどの被爆者を出した。そこにあった街は「死の街」と呼ばれるゴーストタウンとなり、家や学校などは取り残されているそうだ。
展示室は、事故処理作業で亡くなった人たちの写真、残されたメモや遺留品、国の隠ぺいについての文献や当時の新聞、動画など多くの資料で埋められ、それに溜息や涙をする人がいた。
私も口をつぐんだまま、ガイドから流れる難しい専門用語に耳を傾け、事故の内容を細かく理解しようとした。言葉は出ない。ただ事実を知ることしかできないこの感じが、なんとも言えず無力感におそわれる。
展示の最後には再び日本の千羽鶴や手紙、広島原爆に関する資料などが展示され、別室もまた長崎や広島の資料でいっぱいだった。
福島原発事故とチェルノブイリ原発事故は最も深刻なレベル7に分類されている(実際には環境や放射物質量などが異なるので同レベルではないという見方も)。
この博物館に入るまで、私はチェルノブイリ原発事故は遠い国の昔のことのように思ってしまっていたのだが、実際にこの地へ来て情報に触れたことで感じ方ははるかに違い、原発についても深く考えるきっかけとなった。
博物館をそっと背にして、帰り道に偶然見付けたのは「チェルノブイリツアー」の案内。
現在は発電所付近の放射線レベルが低くなったため、人体に影響がないとして事故現場付近や廃墟を巡るツアーが敢行されているそうだ。
私は博物館だけでも胸が詰まるような思いでいたし、1万数千円を超えるツアー代や日程の関係で行くことを即決しなかったが、行けば良かったかもと少し後悔。
後日、出会った旅人(日本人男性)がツアーに参加したというので、怖くなかったかなど聞いてみた。
「今では毎年たくさんの人が訪れる観光名所なので、特に怖くはなかったですね。チェルノブイリ原発の写真集も持っているし、あの場所に行ける期待感のほうが大きかったです。
事故を起こした4号炉は、今では従来の石棺と呼ばれる囲いをさらにドームで覆う工事も完了していますし、大丈夫だろうと思って行きました」
と語る彼だが、実際行ってみて印象は変わったのだろうか?
「ツアー参加時に言われる注意点ですが、長袖長ズボン着用、立ち入り禁止区域のものには触らない、ツアーバスの外で飲み食いしない、キノコなど持ち帰らない、タバコを吸わないなどがありました。
参加後には、原発から10km離れた地点と30km離れた地点にそれぞれ検問があり、そこで残留放射線量を器械でチェックするんです。そこがすごく適当で、器械はあるんですけど数値を見る人がいないんです。私の時は素通り同然でした。
自分の数値、大丈夫なのかな?と少し心配にはなりましたね。それから、どうやっても靴の底には放射性物質がつきますので、帰ってよく洗いました」
今回は地球上に起きてしまった悲しい過去を通じ、放射能や原子力についても考えさせられた。パワーを生み出すための偉大なる発明が、人体に害を与えたり凶器や兵器にも変わると思うと恐ろしく、悲しい。
今後それとどうやって付き合っていくのか、私たち人間は長い時間をかけて考えなければいけないのかもしれない......。
【This week's BLUE】
下町ボディール地区のウォールアート。クオリティーが高い。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第205回「ウクライナ・恋人たちの聖地『愛のトンネル』で遭遇した恐怖」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】