ホンダ四輪R&DセンターLPL主任研究員・堀川克己氏(左)を小沢コージが直撃!

ホンダのインサイトが4年ぶりにカムバック! 高級志向のミドルセダンとして生まれ変わったグローバルカーは、ハイブリッド大国ニッポンでもウケるのか? 小沢コージが取材した!

■インサイトはホンダの黒歴史だった?

われらが愛すべきホンダも、つくづく懲りないというかめげないというか......まさに三度目の正直! ホンダ流「昔の名前で出ています作戦」第3弾の登場だ! ハイブリッド専用車のインサイトが、4年ぶりに日米で復活。国内では年内の発売が決定した!

インサイトといえばホンダの黒歴史そのもの。1999年に登場した初代は、NSXにヒントを得たアルミフレームや、斬新な樹脂パネルを使用し、当時世界最高のモード燃費、35km/Lを記録。

とはいえ、削りに削っての800kg台の軽量ボディのせいで、中にはふたりしか乗れなかったから、鳴かず飛ばずで7年間の国内販売台数は約2300台という、なんともトホホな数字に......。

そんな初代の生産終了から3年後の09年2月に発売された2代目は、量産車であるフィットをベースに、初の5人乗りへと変身。こりゃ売れる!と思いきや、5月にはプリウスの3代目が登場。燃費でドカンと負けて販売は低迷。5年後には生産終了を余儀なくされた。

そしていよいよ3代目の登場。燃費や価格は未公表だが、骨格は新型シビックで、パワートレインは新世代2モーターハイブリッドのi-MMDを採用。開発テーマは「クルマの本質価値の追求」ときた。

デザインや質感にこだわったようだが、それで宿敵のプリウスにホントに勝てんのか!? 開発責任者(LPL:ラージ・プロジェクト・リーダー)の堀川克己氏を直撃した。

■抜きつ抜かれつの燃費競争は古い!

──単刀直入に聞きます。「本質価値」ってなんですか? 3代目はプリウスに勝てますかね?

堀川 うーん......。今回はデザイン勝負のクルマを造ったという感じですね。

──つまり、これ見よがしな燃費や広さでプリウスにガチ勝負を挑んだわけではないと。

堀川 そうです。デザインを本当に理解していただける人には非常に価値が伝わりやすいクルマに仕上がっています。

──正直、僕には顔をエレガントにしたシビックハイブリッドにも見えましたが......。下世話な日本じゃ伝わりにくい理想主義では?

堀川 そうかもしれないです。でも、一見狭く見えるこのクルマでも、室内空間はきちんと確保されていますし、トランクにもゴルフバッグが4つ積めるように設計されています。そういう意味では、実質主義的な側面もあると思いますね。

バッテリーの搭載位置などを工夫し、ロー&ワイドなボディを実現。日本仕様はフロントグリルの意匠が変更され、リアスポイラーが追加された。年内発売予定

──デザインでライバルとなる車種は?

堀川 北米を視察したときに「こういうイメージだよね」と言っていたのは、テスラ・モデルSでした。セダン、クーペ、ハッチバック......なんでもいいのですが、とにかくオーセンティックで二度見したくなるようなデザインにしたかった。電動車が本格化するこれからの時代に、ハイブリッドを誇張するハデな上着はもういらないと思いますし。

その上で日米の市場を考えたときに、セダンが一番ハマるなと。

──北米では何台くらい売れそうですか?

堀川 年間3万台くらいを考えています。これはシビックの約1割程度です。でも、今後ホンダが電動車を普及させていくためには、まずはそこからがスタートだと思っています。北米は日本と違ってハイブリッドがまだまだマイナーですから。

──狙ったのはどんな客層?

堀川 プライム価値を一緒に共有できる方ですね。もちろん、綿密なマーケティングを行なっています。具体的にいえば、北米では、比較的高所得の若年者層や、IT関係に勤めているような人です。

一方で、日本では50代の子離れ層がターゲットです。大きいクルマや高いクルマが欲しいわけではないけど、使い勝手が良くて不格好じゃないクルマが欲しい、という人たちですね。

──プライム価値というのは、いわゆる高級感ですか。

堀川 違います。プライム価値のキーワードは、「ミニマル」と「タイムレス」です。

──つまりアート色が強いクルマを造ろうとしたわけですか。

堀川 そこまでではないですが、感性に訴えかけるような、デザイン中心のクルマになっています。

──となると、やはりプリウスやEVの日産リーフはまったく相手にしてない?

堀川 まったくしていないと言うと嘘になります。比較用に北米仕様のプリウスも買いました。ただ、あの燃費にすり寄ることはしていません。

──確かに、今のモード燃費測定は嘘も多いし、何より日本で実質20km/Lの燃費を超えたら、ひと月800kmを走る人でも、40Lしか使わない。それが21km/Lになっても月2L、つまり300円ぐらいしか変わらないですからね。

堀川 そうなんです。もうそういう時代じゃないと思うんですよ。案外、今回の燃費数値は役員にも納得してもらえています。

ハッキリ言って、燃費を殺してまでもトータルバランスの出来高で勝負がしたかったんです。

■たとえて言うなら発泡酒よりクラフト!

──マジですか。それはそれでプリウスへの挑戦だと思いますよ。この時代にヘタな燃費性能より、スタイルや走り味を優先するわけですから。

堀川 ただ、やはり全員のお客さまに理解してもらえるということはないと思っています。需要は全体の1、2割といったところでしょうか。

このクルマは、たとえるなら発泡酒に対するクラフトビールのような感じと言いますか、本質重視なんです。ベースとなっているシビックは、普通のビールではなく、パンチの効いた刺激的なビール。それを非常にプライムなハンドリングで味つけしています。

──そこは乗ってみないとわからないですね。要は世界にひとつだけの花、のような戦略で、一番じゃなくてもいいと!

堀川 そこまで高尚ではないですけど、まあそうとも言えますね。

未来感を誇張していた先代に比べ、格段に上質さと優雅さを兼ね備えたインパネ回り。メーターもオーソドックスな大径2連メーターを採用

──でも、インサイトは数字で勝負してきたクルマでもありますよね? 昔のフィットvsカローラ戦争のような、本気の勝負をしてきた。ホンダはここにきて戦う思想を変えたということですか。

堀川 それはジャンルにもよると思います。やはり時代の要請もありますから。これから世界で電動化が予想されることに対して、そのことを実感されているお客さまはまだ少ないと思いますが、近い将来、そういう時代はやって来ます。

なので、電動車のクラリティPHEV(プラグインハイブリッド)などは、これからもクラスのトップ・オブ・トップを狙っていきます。そういう意味では、新型のインサイトは違うでしょうね。

──なるほど。ホンダが採用するi-MMDはトヨタ方式よりよっぽどモーターパワーをリアルに感じるハイブリッドですから、ピュアEVの予行演習にはちょうどいいのかもしれません。

堀川 まぁ今回はたまたまこういったクルマの方向を提案しただけで、ベースとなっているシビックが、次はこういった方向に向かっていくかといえば、たぶん違うのではないかと思います。

何より、ホンダはエンジニアがそれぞれ勝手にモノ造りをする、いい意味でいいかげんさがある会社ですから(笑)。

熱効率に優れた1.5L DOHC i-VTECエンジン。ハイブリッドシステムi-MMDは、モーター、ハイブリッド、ガソリンをシーンによって使い分ける

■HONDA INSIGHT
◯全長×全幅×全高:4675mm×1820mm×1410mm
◯エンジン:1.5L DOHC i-VTEC+i-MMD
◯駆動方式:FF
◯最高出力:〈エンジン〉109PS〈モーター〉131PS
◯最大トルク〈エンジン〉13.7kgm〈モーター〉27.2kgm