昨今、メンズ向けスキンケア用品や化粧品のバリエーションが増えている。だが、男たちの肌ケアの意識は高まってきているとはいえ、自分のケア方法やその知識に自信がある人は少ないのではないだろうか。
特に今の季節は、乾燥してカサカサする肌や、乾燥が原因による頭皮のフケなどで悩むメンズも多いはず。
そんなわけで、皮膚再生医療を手がける(株)セルバンク代表・医学博士で『美肌のために必要なこと』著者の北條元治(ほうじょう・もとはる)氏に、本当に必要なスキンケアについて初歩的な話から聞いた。
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――『美肌のために必要なこと』のメイン読者は女性かとは思いますが、そもそも男女の皮膚の構造は違うものなのでしょうか?
北條 男女で違うのは生殖器や乳腺などの構造です。皮膚は人体最大の臓器とも言われていますが、男女差はなく基本的には同じ構造です。違いとしては、女性に比べて男性の皮膚のほうが厚くてゴワゴワしていること。また、男性のほうが皮脂分泌量が多めにも関わらず、肌の水分量は少ないことです。
――では、男性にもスキンケアは必要なのでしょうか。
北條 手間や高額をかける必要はありませんが、男女ともにスキンケアは必要です。なぜなら男性も女性と同じくらい「乾燥」や「皮膚のかゆみ」「ニキビ」などのトラブルを抱えていますし、「シワ」「たるみ」などの老化現象も無視できません。それらを予防するために、正しいスキンケアが大切になります。
――具体的にはどんなケアをすれば?
北條 男女ともに気をつける点は、基本的には保湿と紫外線対策のみです。美肌への意識が高い女性は高級化粧品を使うなど、小まめなスキンケアを行なっている方も多いと思います。
ただ、皆さん勘違いしがちなのは、皮膚の外側から美容液などを塗ったところで、肌の奥までは届かないのです。スキンケアの真の目的は、栄養分や水分の補給ではなく、外側から常に刺激を受けている肌やその肌の細胞をいかに保護するかなのです。
――外側から水分を補給することが保湿ではないんですね?
北條 肌の表面の「角質層」には角質がレンガブロックのように敷き詰められ、その隙間で水分や油分を保持し、体内の水分の蒸発を防いだり、外部から侵入する細菌を防ぐバリア機能を持っています。
このバリア機能を守るために必要なのが保湿です。保湿は外側から水分を補給するためではなく、レンガの隙間を埋めて肌からの水分蒸発を防ぐために行なうものです。
――なるほど、そこは勘違いしている人が多そうです。一方の紫外線ケアはなぜ大切なのでしょう?
北條 紫外線は肌の細胞を破壊し、その肌細胞の遺伝子をも傷つけ老化を加速しますし、何より皮膚ガンなどの病気にも結びつきます。紫外線対策は夏だけでなく年間通してするべきと言えますね。
日常生活ではそんなに紫外線を浴びない人も、例えばゴルフなどアウトドアスポーツをするとき、また冬場ですと、雪の反射により紫外線量が2倍になるので、スキーなどの際は要注意です。
――では、実際に男性がやってしまいがちな間違った肌対策でいうといかがでしょうか。
北條 とにかく男性は頭にしろ皮膚にしろゴシゴシ洗ってしまう人は多いと思うんですね。スースーするタイプのシャンプーやナイロン製のガリガリしたボディタオルを使って洗うだとか。あれはハッキリ申し上げて逆効果ですね。
――なんと! でも、ゴシゴシ、ガリガリ洗わないと汚れが落ちてない気がします。
北條 毎日泥んこになって遊んでるわけじゃないんですから、そんなゴシゴシガリガリは不要です。男性の肌トラブルで代表的な「フケ」ですが、これは洗いすぎにより必要な皮脂までが除去され、頭皮の新陳代謝であるターンオーバーが乱れたことが原因です。
肌の構造は表皮(表面の一番外側が角質)その下に、真皮、さらに下に皮下組織があってそれぞれに表皮細胞、真皮細胞、脂肪細胞があります。角質(いわゆるアカ)は雑菌の侵入を防いだり、地肌を保湿する役割がありますが、頭をゴシゴシ洗うと角質が必要以上に落とされ、角質の下にある表皮細胞や真皮細胞を傷つけてしまいます。
つまり、角質が必要以上に剥がれ落ちると、その下にある表皮細胞が角質を通常以上にたくさん作り出そうとしてフル回転します。結果、不完全にでき上がった角質が粉というかフケとなってしまうのです。この状態を皮膚の"錯角化"と言って、角質が正常に作られてない状態なのです。
――それは頭皮だけでなく皮膚においても同じということですね?
北條 はい。皮膚も同じことで、白く粉を吹いている状態というのは皮膚の錯角化が起きていると言えます。いわゆる"アカ"は、不要になった角質と皮脂などがまざったもので、勝手に落ちるもので落とすものではないのです。
一般の人がアカと認識しているものは、ほとんどが体に必要な角質です。アカというイメージから醸し出されるような不要なものではありません。ですから、アカすりなどは皮膚にはダメージを与える危険がありますね。
――男性は脂性肌でベタつきが気になるという悩みは多いですが、ではそういった脂も必要だから、あまり除去しないほうがいいのでしょうか?
北條 はい、基本的にはそのままでいいですよ。スースーするウェットティッシュのようなもので拭くと、健康な皮脂が削がれてピリついたり、必要な水分までなくなってしまいます。でもどうしても気になるなら、ウェットティッシュよりあぶらとり紙などでそっと脂を抑えるのがいいと思います。
――では、頭や体を洗うときは、どれくらいの強さで洗うといいでしょうか?
北條 基本的にはボディタオルは不要で、シャワーを浴びながら手のひらで体を優しく撫でるように洗えば十分です。ボディソープやナイロンのボディタオルを使いたい場合、夏は2日に1回、冬は3日に1回程度でいいと思います。そしてお風呂上がりに保湿のための化粧水やクリームを全身に塗る。
――では、そのオススメの化粧水やクリームは何かありますか?
北條 私は乾燥肌なのでニベアやワセリンのようなクリームを塗っていますね。ワセリンは、皮膚表面に脂の膜が張ったような状態をつくり、内部からの水分の蒸発を防いでくれます。ベタつきが気になる場合は、少量を指でとって手のひらに塗ってから顔に伸ばすと良いでしょう。
それでも脂性肌でクリームが苦手な人は、化粧水タイプを使ってみましょう。基本的には乾燥がおさまって心地いいと感じるものをつけるので十分なのです。特に男性用や女性用とこだわる必要もないですし、高級品である必要もありません。
――ほかには男性がやりがちで肌に良くない習慣というと?
北條 飲み屋のおしぼりで顔ゴシゴシ、ですね。これは気持ちがいいのですが、だいたいゴシゴシした後に皮膚がピリピリっと引きつるんですよね。それにおしぼりは肌に良くない強めの洗剤が使われていたり、きれいに見えても実は菌がついているかもしれないので、控えたほうがいいです。
――ありがとうございます。美肌作り、とまではいかずとも、年相応の肌を保つために頑張ります。最後に一言、お願いします!
北條 実は皮膚は心理的な影響を受けやすいとされています。十分な睡眠が取れていなかったり、極度の緊張状態が続いて交感神経が活発な状態でいるのは肌には良くありません。1日に何回かは深呼吸をするなりしてリラックスすることが大事ですよ。
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まず大事なのは皮膚の構造を知ること。その上で本当に必要な対策を練ることが美肌への近道といえよう。"清潔感"のある"小ぎれいな"男でいるためのスキンケア、今年は始めてみようか!
●北條元治(ほうじょう・もとはる)
株式会社セルバンク代表取締役、RDクリニック顧問、東海大学医学部非常勤講師、形成外科医、医学博士。1964年、長野県生まれ。1991年、弘前大学医学部卒業。信州大学医学部附属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学医学部にて同研究と熱傷治療に従事。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行なう株式会社セルバンク設立。2005年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。著書に『病気を引き寄せる患者には理由がある。』(イースト・プレス)ほか
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