『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。鉄道マニアの彼女、ドイツにある世界最古のモノレールに乗りに行ったところーー?
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昨年11月末、ドイツのヴッパタールという街に行ってきました。ドイツ西部の小さな街ですが、お目当ては「ヴッパタール空中鉄道」。懸垂式モノレールと呼ばれる鉄道の一種で、1901年に開業してから市民の足として使われている、現役としては世界最古のモノレールです。
レールに車両がぶら下がる形の懸垂式モノレールは、日本とドイツにしかない珍しい方式で、日本には上野動物園内を走る上野懸垂線や千葉都市モノレールなどがあります。なかでも、ランゲン式という方式を採用したモノレールは世界中でこのヴッパタール空中鉄道しかありません。
ネットなどで画像検索していただければわかるんですが、レールの片側からフックのようなもので車両を引っ掛けているのが特徴です。さらに、レールも車輪も鉄製であることがこのランゲン式の最大のポイントになっていす。
そしてもうひとつの特徴が、フランジの形状。フランジとは、鉄道の車輪についている出っ張りのことで、このフランジによって車輪がレールから脱輪しないようになっています。通常は車輪の片側だけについていますが、このランゲン式のモノレールでは車輪の両側にフランジがついているんです。
だから安全性が確保されてはいるんですが......。走行中は、ものすごく揺れます。なぜなら、カーブのたびに車両自体が振り子のようにぶらんぶらん揺れるから。沿線にはカーブが多く、従来の鉄道ではその遠心力に耐えられないゆえ、車体が振り子のように傾斜することで遠心力を吸収できるシステムとして、このランゲン式が採用されたという経緯があるんです。
――と、まるで自分で乗ってきたかのように偉そうに語ってしまいましたが......。実は、ドイツまで行ったのに、このヴッパタール空中鉄道には乗れませんでした! なんと、私が行く前の週に部品が損傷したらしく、年内いっぱいは運休となっていたんです。
そんなことはつゆ知らず、ホテルの人に「どこから乗ればいいですか?」と尋ねて、「え!? 運休してますよ」と言われたときの絶望感ったらなかったです......。後でドイツの友人に調べてもらったら、ドイツ語のニュースは出ていたようなんですが、英語や日本語ではそんなニュースは見かけませんでした。
仕方がないので街中を歩き回ったんですが、石畳の残る古い街の頭上を鉄道のレールが走っている光景は、まさにスチームパンクの世界観。また、起伏が多くて道幅が狭い地形に鉄道を造るためには、空中を走らせるしかなかったこともよくわかりました。路線のほとんどが川の上を走っており、見た目は奇抜な逆V字型の線路の支えが、新たな土地がいらないデザインなのも一目瞭然でした。
ここはほんとに小さな街だけあって、ヴッパタール空中鉄道は街のシンボルになっており、至る所でこの鉄道のシンボルマークやお土産を見かけました。私も模型や絵葉書、まったくかわいくないぬいぐるみなど買ったんですが......。
一生で一回行けば十分という何もない場所。憧れのヴッパタール空中鉄道に乗るためにまた来ないといけないと思うと、ちょっとため息が出てしまいます。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。ヴッパタールでは、ポテトフライがおいしかったことだけが唯一の救い