ナポリを去る前に行っておきたい場所がある。アマルフィ海岸だ。
1997年世界遺産に登録された「世界一美しい海岸」と言われる景勝地で、約30kmの海岸線に小さな街が点在し、その先にはカプリ島がある。
憧れてはいたが、バックパッカー旅人がひとりで訪れるには時間やお金の問題もあり、今回は諦めようと思っていた。
そんな時、ちょうど日本から来ていた友人Rからの連絡。
「今日オフだからさ、朝食の後にみんなでアマルフィとかカプリ島とか行きたいんだけど! どうしたらいいかな。マリーシャよろしく!」
語学力と旅の経験を買われてか、友人の仕事仲間9人の旅をお手伝いする形で便乗させていただくこととなった。
実は以前にも知人に頼まれてちょっとだけ海外旅のアテンドを手伝ったことがある。アマルフィは自分も初めての土地とはいえ、交渉術、計画力、想定力、危機回避などの能力はこれまでの旅で培ってきたと思うので、何かあった時はそれで対応してみせよう。
「添乗員に、俺はなる!」
アマ"ルフィ"だけに『ONE PIECE』のルフィか、せっかく女子なので航海士のナミのようなキャラでリードしたいところだが、一番近いのは臆病者のチョッパーってとこだろうか。
早速、彼らの宿泊するミラノの老舗ホテルのレセプションに条件を伝え、2台の車を手配。
きちんとしたホテルで頼んでいるから大丈夫だとは思うが、イタリアのノリで何かあったら困るので、やってきた車のドライバーとは改めて金額や行先を確認した。
私たちが今回行くのは、ラヴェッロ、アマルフィ、ポジターノ、ソレント、そこからフェリーでカプリ島に行き、フェリーでナポリまで帰ってくる弾丸コース。
これを遂行するには、とにかく急ぐしかない(笑)!
ひとつの街の滞在時間は30~40分程度だろうか。ドライバーを待たせ、まずは高台に位置する"天空の街"ラヴェッロからアマルフィ海岸を一望できる絶景を見下ろした。
「きれーい! パシャ!パシャ! はい、行こう!」
ゆっくり感動している余裕もなく、数枚写真を撮ったら、私たちは狭い路地を『ドラクエ』キャラのように一列になってザッザッザっと突き進んで行った。
街中にはお土産屋が並び、特産物であるレモンの形をした陶器の品々などが売られているが、買物したい人は即決で調達していくしかない。
ちなみに私は優柔不断で短時間で買い物できるタイプではないので、何も買わずに地図をチェック。
「あちらにちょっと休憩できるところがありまーす! こっちですよー!」
かつての貴族の別荘を改装したヴィラのカフェテリアにみんなを誘導してみた。しかしここで残り時間あと10分。
時を忘れて優雅に過ごす周りの西洋人セレブたちに混ざって、
「シャンパンください! すいませんが急ぎで! みんな5分で飲み干しますよー!」
日本人はせっかちだと思われただろうか、ほぼ一気飲み。私は太陽の恵みを受けた芳醇なグリーンオリーブをほっぺたに詰めながら、ドライバーに戻りが遅れることを電話した。
みんなで走って車に戻り、ホロ酔いのまま到着したアマルフィ。
「ここは観光客が多くて車が停められないからね、時間通りに戻ってきてくれよ!」
ドライバーに念を押され、ここは私がしっかりタイムキーパーせねばと思いながら、街のゲートをくぐる。すると観光客で賑わう中心広場には、しましまデザインのアマルフィ大聖堂がお目見えした。
「わぉ、スペインのコルドバにあるメスキータみたい!」
大聖堂の階段を駆け上がったり、レモン尽くしの土産物屋をのぞいたり、イタリア生まれのピノッキオの人形を買ったり、それぞれ自由にはしゃいでランチ。
「ビール人数分とピザね、それから私はピスタチオのジェラートください! 急ぎで!」
レモンの産地でなぜかピスタチオのジェラートを頼んでしまった自分に後悔しているが、とにかくみんなで急いで胃にランチを詰め込むと、もう時間。
「みなさん、急いで車に戻りますよ~!」
「先生、腹痛のコいます! おトイレ!」
そんな団体ツアー旅行にありがちな一件も発生しながら高級リゾート、ポジターノの展望台に着くと、青い空の下、太陽の光を浴びてキラキラと輝く紺碧の海が広がった。
丘の斜面に張り付く建物はジオラマのようで、波で白い道筋を描きながら悠然と進む客船は、動く絵画のよう。
せかせかと進めてきた旅もここで一時、時が止まり、一生見ていたいほどの美しい絶景にウットリしながら、体に優しく吹き付ける南イタリアの風が心地良かった。
「ああ、旅してて良かった! みんなも良い顔してるよなぁ~!」
それは決して私の手柄ではないが、勝手に添乗員気分の私としては、みんなが楽しそうに旅しているのがうれしかった。添乗員さんの仕事の喜びってこういうことなんだろうなと、やりがい感じてみたりして。
最後はソレントの港からカプリ島へ、そこからナポリまで帰るフェリーチケットを手配したら、任務は完了だ。
飲んで食っての贅沢おまかせダイジェスト旅。日本からのパッケージツアーだと、こういった忙しいスケジュールをこなすものも多い。
結局カプリ島では、みんなの疲れもピークで時間も押していたためにお土産を買うだけとなってしまったが、
「マリーシャ、旅が一段落したらアテンドの仕事もできるんじゃない? はい、おつかれさま!」と、グループの女のコがこっそり私にチョコレートを買っていてくれたのがグっときた。
バレンタインかっ!
【This week's BLUE】
アマルフィのビーチでバカンスを楽しむセレブたち
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】