『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は鉄道マニアの彼女が、鉄道車両のセカンドライフについて語ってくれた。
* * *
少し前にタイを訪れた際、面白いものを見つけました。
バンコクから鉄道で4、5時間ほど南下した所にホアヒンという地域があります。この一帯は王族の別荘もあるリゾート地になっていて、ホアヒン駅にも王族専用の豪華な待合室が残っています。
駅舎は伝統建築様式で造られており、クリーム色と朱色を基調にしたかわいらしい色合いで統一されています。誰が言ったか知りませんが、「タイで一番美しい駅」として知られています。
そんなホアヒンの駅前に、鉄道の保存車両がポツンと置かれているのを発見しました。黄色のタイらしいポップなカラーリングだったんですが、近づいてよく見ると、なんと日本の「キハ28・58」という車両だったんです!
国鉄時代、急行列車として日本中を走っていた車両です。さらに観察すると、車体には「自動ドア」「日本国有鉄道」という日本語の文字も残っていました。
いろいろな人に尋ねて調べたところ、日本で現役を退いた後にタイ国鉄に譲渡され、少し前までこちらで活躍していたそうです。一時はタイ南端のハジャイまで1000km以上の距離を走っていたという話も聞きました。
日本では普通車扱いでしたが、タイでは二等車として運用されるという"出世"も果たしていました。その日本への感謝の意を表して、こうして保存車両として展示しているそうなんです。
そして、なんと今は改装されて図書館になっていました。この図書館は誰でも入ることができて、本の貸し出しも行なわれていました。また、王族がこの駅を訪れた際の写真もたくさん飾られていました。
このように図書館として生まれ変わったという例は日本では聞いたことがありませんが、日本国内でもさまざまな形で鉄道車両が再利用されています。例えば、岩手の「ふれあいらんど岩泉」というキャンプ場では、寝台列車であるブルートレインの車両をそのまま宿泊施設にしているんです。
しかも、ここで使われているのは特急「日本海」として大阪駅-青森駅間を走っていた車両。かつて日本海側を走っていた鉄道が、今や太平洋側で"セカンドライフ"を過ごしているというところも個人的にはツボです。ほとんど現存していない「開放型A寝台」という方式のベッドで眠ることができるという貴重な体験もできます。
私も泊まったことがあるんですが、この中で走行音を聴きながら過ごすと、寝台列車に乗っている感覚を疑似体験できます。朝起きて外に出ると、濃い霧に包まれた幻想的な風景を見ることができました。なんといっても、寝台列車に宿泊しているのにキャンプめしが味わえるところがお得感があります。
また、宮崎県の日之影町(ひのかげちょう)には「TR列車の宿」という宿泊施設があります。これはすでに廃止された高千穂鉄道の車両を改装したものです。中はビジネスホテルのようなベッドが設置されていたり、畳を敷いた部屋があったりします。
来週も、興味深いセカンドライフを過ごしている鉄道車両について語ります!
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J‐WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。タイーラオス間の寝台列車に忍び込んできた猿と鉢合わせし、猿嫌いに拍車がかかる