『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。前回に続き、鉄道車両のセカンドライフについて語ってくれた。
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前回に引き続き、鉄道車両の再利用について語らせていただきます。
北海道湧別(ゆうべつ)町の「計呂地(けろち)交通公園」では、廃線となった湧網(ゆうもう)線の計呂地駅の施設を保存展示しています。
なかでも、SL「C58」の中は、誰でも300円で宿泊することができるようになっているんです。ツーリングをするライダー向けの施設で、畳が敷かれているだけですが、古いSLに泊まれるなんてすてきですよね。
本物の車両というわけではありませんが、都内で気軽に泊まれる施設もあります。馬喰(ばくろ)町にある「トレインホステル北斗星」は、北斗星をイメージしたホテルで、一部実車パーツを使っているそうです。
もちろん、日本における鉄道車両の再利用は、宿泊施設だけに限りません。ガラス工芸作家として著名なルネ・ラリックの作品を展示する神奈川県の「箱根ラリック美術館」では、オリエント急行を走っていた特急列車がカフェとして使われています。
実はこの列車の室内装飾を手がけたのはラリックなんです。ここでお茶を飲みながら、相手のカップに毒を盛るふりをして"アガサ・クリスティごっこ"をするのも面白いかもしれません。
また、埼玉県にある「ほしあい眼科」では、キハ223を待合室として使っています。実はこちらの院長は"本物集め鉄"を自称する大の鉄道ファンで、病院の敷地内にはクハ21やEF66-45などさまざまな車両のカット(展示用に車体の先頭部分のみ切り出したもの)が置かれています。ここまでする情熱はすごいですよね。
ちなみに、鉄道車両が待合室として使われている最も有名な例は、渋谷駅のハチ公像の向かいに置かれている東急5000系でしょうか。
そういえば、私が住んでいたアメリカのミシガン州に、孵卵場(ふらんじょう/鶏の卵を孵化させる施設)として使われている車両がありました。アメリカによくあるトレーラーハウスのような感じで、誰も珍しがっていませんでしたが、鉄道好きの私はテンションが上がりました。
また、行ったことはありませんが、ロシアには教会として使われている車両もあるそうです。そういう例を聞くと、「日本でも鉄道車両をお寺として使えるのでは?」と夢が膨らみます。
もともと初詣は鉄道会社のキャンペーンによって広がったものですし、鉄道とお寺の結びつきの強さを考えるとありえなくはないと思います。
このように、さまざまな再利用の形が考えられる鉄道車両。私だったら、焼き肉屋をやりたいですね。煙もくもくの中、鉄道の車内で焼き肉が食べられるなんて最高じゃないですか? どうせだったら、焼き肉屋、焼きとん屋、もつ焼き屋の3両を並べて、はしごできるようにしたいです。
場所は、2020年に田町~品川間で開業する新駅の駅前が理想ですね。私は、かつてここにあった田町車両センターになぞらえて「車両センター跡地」という駅名を推していたんですが、「高輪(たかなわ)ゲートウェイ」になってしまった駅です。
駅名では負けてしまったので、せめてここに、かつて配置されていた国鉄181系電車の車両を置いてお店を開きたいです。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J‐WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。廃車となった鉄道車両は、車体そのものは数十万円で買えたりするが、輸送費に数百万円はかかるとか