オトコの美容意識やその重要性が高まる今、メンズメイクに注目が集まっている。専門サロンでは予約が取れなくなるほどだ。
前編では、東京・銀座にある日本初のメンズ美容総合サロン『粋華男(イケメン)製作所』でメンズメイクが流行る理由を聞いたが、後編ではアラサー記者が体験してみた。
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メンズメイクと聞いて最初に浮かんだのはりゅうちぇる。ジェンダーレス男子の先駆けとして知らない人はいないが、その素顔(すっぴん)はただのイケメン。一方、30代半ばに差し掛かる記者は、イケメンはもちろん"清潔感"とも程遠い、むさくるしいオトコだ。果たして、そんな自分でも「メイクで大変身」できるのだろうか?
恐る恐る個室ブースに入ると、鏡の前に並んだ多くの化粧用品に驚くとともに、相変わらず、自他ともに認めるむさくるしい顔が映る。不安を感じつつもメイクを担当する"クラフター"の鈴木智加子さんによる説明が始まる。
「女性の場合はメイク前提でキレイになることがゴール。男性の場合はメイクをしていない前提で、3割印象アップをゴールにするのがポイントです。印象アップにつながるポイントは髪型、目元、肌の3つ。髪型と眉毛はもはやメイクとは言われないほど認知されているので、それ以外ですと肌が一番清潔感を出せる部分です」
普段はカウンセリングをして理想や目的を聞き取り、TPOに合わせるが、今回は「メイクで大変身」がテーマなので、「とりあえずカッコよく」という雑なオーダーに。また、髪型でビフォーアフターの印象が大きく変わってしまうので、今回に限り、先にヘアセットは済ませてもらった。
なので、まずは眉毛から施術することに。
「眉毛の印象が強いですね。ここを変えるだけでもかなり変わりますよ。私たちは、理論的に眉毛のどのパーツをどう変化させると印象が変わるのかを256パターンに展開して提案しています。眉毛と目の距離を変えるだけで目の大きさも全然違ってきます。目と眉の距離を近づけると彫りが深くなって目ヂカラが生まれてくるんですよ。また角度で優しい印象を出したりもできますけど、どうします?」
どうなりたいかというより、何が正解かわからないので当然返答は「とりあえずオススメで」。今回は、眉毛が上に向かって生えていて勇ましく見えるため、ハサミで整えて自然な優しい雰囲気にすることになった。
眉毛本体や周りの産毛をカットすること10分。眉毛は仕上がり、肌の施術に移る。「メイクの前にしっかりスキンケアをしておくことで、その後の皮脂くずれを防げるので十分に保湿しますね。また、今回は肌荒れをカバーするためにファンデーションを使用しますので、化粧下地で事前に『光』を仕込んでおかないと仕上がりがマットになってしまうんです」
そう言うと化粧水、乳液、そして化粧下地が塗られ、肌がみるみるツヤツヤに。
■身に染みてわかった女性の苦労
そしてコンシーラーの出番だ。鈴木さんが自身の手にコンシーラーをつけて色を選んでいく。名前くらいは聞いたことはあるが、なんなのかよくわかっていない。それに気づいた鈴木さんが丁寧に教えてくれる。
「コンシーラーは目のクマやシミ、ニキビの赤みなどを隠すのに使用します。メンズメイクでは一番使いますね、手軽に肌のトラブルをカバーできるので。コンシーラーを使う際に特に重要なのは色選び。
女性でも自分の肌色に合う色を探すのは苦労します。ましてや男性はデパートで色合わせをするのは恥ずかしいと思いますので、『自分にピッタリの色のコンシーラーを見つけたい』という目的でメンズメイクレッスンを受ける男性も多いんですよ」
コンシーラーは「補色」と「近似色」の使い分けが重要だそうで、シミの多さや肌の状態によってつける順番も違うらしい。また、色だけでも何百種類とあるそう。コンシーラーひとつとっても女性が何種類も試す理由が、なんとなくわかった。
次はファンデーション。
「今回は大変身がご希望なので、ファンデーションもしっかり塗らせていただきますね。ただ、どうしても厚塗り感が出てしまうので、全体的に浅黒い色合いに仕上げさせていただきます。そのほうが化粧バレは防ぎやすいので」
記者はアトピーとクレーターニキビのある肌質のため、それをカバーするために今回はしっかりと塗ってもらったが、利用者の多くは、ファンデーションは使用せず、眉毛、肌のインスタントメイクと言われる「化粧バレしないメイク」で終わることが多いそうだ。
顔にいろいろ塗られ気づけば30分。普段なら洗顔してヒゲを剃るだけで終わりだ。正直、長いと思っているうちに、鈴木さんから声がかかる。
「はい、終わりましたよ。ちょっと顔立ちがシャープになるようにアゴのラインに影も入れときました」
え、いつの間に? ずっと見ていたはずだが知らぬ間に"シェーディング"と呼ばれる立体感を出すメイクをしていたらしい。鼻に影を入れれば高く見えるが、その分メイク感も出てしまうため、今回はナシに。
それから目も元々二重なので、特に何もせず。ただ、一重まぶたをコンプレックスと感じて来店する利用者はとても多いそう。二重にすることで目と眉毛の距離が近づき、目ヂカラが出てくるのだという。
それにしても、女性はここからさらに目のメイクもしていると考えると途方に暮れる。女性の努力が身に染みてわかった気分だ。
■周囲からは意外な反応
メイクも終了し、ついにお披露目。途中からうすうす気づいてはいたが、なんか黒い。鈴木さんからは「男性の方はナチュラルに見せたいので1トーン暗めにして、健康的に見えるようにしてます」と説明されてはいたものの、明らかに黒い。
周囲のスタッフからは「自然!」「違和感ない」と言われるものの、濁した反応をしていると、粋華男(イケメン)製作所の手塚拓海代表からは「今はまだメイクしたてですが、時間が経てば今よりはなじんできます。それにそもそも人は他人の顔をあまり見ていないので気づかれないですよ」とフォローが入る。
メイクをしてから約30分後、編集部に帰社。すると、打ち合わせで顔を合わせたスタッフから「なんですか、その顔」とさっそくツッコまれる......。しかし、先の手塚代表の言葉を信用して、26人(男性14人、女性12人)に聞いてみることに。
すると半数以上(男性8人、女性10人)からは「なんか爽やかになった?」「こざっぱりしている」という好評の声が。しかも、メイクしていることには誰も気づかない! 聞き込みをした人たちは週に一度から2、3日に一度は話す仲なのにだ。
さらに驚いたのは、ヒゲの有無にすら気づかないことだ。今回、あくまでもメイクによるビフォーアフターを比較するため、普段は上唇とアゴにあるヒゲをあらかじめ剃っていたのだ。
しかし、最初にヒゲを剃ったことに気づいたのは男性6人、女性3人。8年以上ヒゲを剃っていなかったため、誰もがヒゲにツッコむかと思いきや、予想外の結果。それも割合でいえば、雰囲気の違いに気づいた人が多いにもかかわらず、女性のほうがヒゲには気づいていなかった。女性の多くは、ほぼ印象でしか判断していないのかもしれない。
手塚代表が言っていた言葉が思い返される。
「男性も女性も、その人のどのパーツがどうだから素敵だな、だなんて考えていません。パッと見た一瞬の印象で、素敵だな、不潔そうだな、と考えています。それに、普通は男性がメイクをするという前提がないため、その発想に至らないんです。初対面なら、なおさらわからないですよ」
その言葉は、まさに事実だったのだ。
ちなみに実は今回、アラサー記者のほかにもうひとり20代のモデルを用意。顔色が悪く覇気がなく見られる、最近老けたように感じるという悩みを持つ彼には、目力アップのためにメンズまつげエクステ(マツエク)を施術してもらった。
地まつげが8ミリと長い彼(日本人の平均は6、7ミリ)だが、今回はさらに中央部を9ミリ、端を10ミリに、左右40~50本ずつ増量。アラサー記者が聞き込みしたなかで変化に気づいたふたりの女性からは「なんだか目がキラキラしてる!」と好評だった。
メイクバレやその違和感よりも、"清潔感"というポジティブな反応が大きかったメンズメイク体験。偏見にとらわれず、一度試してみる価値はあるかも。
■粋華男(イケメン)製作所 https://ikemen.works/
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