『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。英語が堪能な彼女が、普及が進む動画配信サービスですごく気になることとはーー?
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最近、NetflixやAmazonのプライム・ビデオといった動画配信サービスを利用する機会が多くなりました。ただ、すごく気になることがあって......。英語の作品につけられた日本語字幕の内容が、よく間違っているんです。
一番多いのが、ことわざや慣用句を直訳してしまうパターン。例えば、"All work and no play makes Jack a dull boy."ということわざがあります。これは「よく遊びよく学べ」という意味で、文中の"Jack"は「太郎」のような普遍的な名前のことです。本来、この名前まで訳す必要はないんですが、ある作品の字幕に突然ジャックという名前が出てきて、「誰!?」と混乱させられました。
スラングの誤訳も多いです。例えば、"happy camper"は「機嫌がいい人」という意味なんですが、「幸せなキャンプする人」という直訳を見かけました。ほかにも、"bad egg(ろくでなし)"→「腐った卵」、"throw shade(悪口を言う)"→「影投げる」などなど......「もしかして自動翻訳を使ってるの!?」と疑ってしまうような誤訳がたくさんあります。
一番もどかしいのが、キャラクターの名前。"X"という文字は、単語の頭にくるとザ行で読むんですが、"Xan"というキャラクターが字幕で「クサン」と表示されていたんです。映像を見れば「ザン」と呼ばれているのがわかるはずなのに......。
また、動画配信サービスに限らず、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が日本で公開されたときには、映画館で驚いた出来事が。作品に登場するジャバ・ザ・ハットというキャラクターは、「ハット族のジャバ」という意味なんですが、字幕では「ジャバ・ザ・ハット族」と表示されていたんです。
このへんは、作品への愛がないゆえに起きてしまった誤りかなと思います。同様に、作品への愛がないゆえに「そこ削る!?」と言いたくなる面白いセリフを削ってしまっている例も、多々あります。
逆に、日本のアニメの英語字幕には、訳者の愛を感じることが多いです。昔は「冥土の土産」という表現を"Maid(お手伝い)"という単語を使って訳すような誤りもありましたが(笑)、最近はほとんど見かけません。
それどころか、英語では表現できない独特な語尾やセリフも、単語の選び方や言い回しでうまく表現されているんです。例えば、「~ざます」という語尾のキャラだったら、無駄にハイソな言葉遣いをさせたり。「~やんす」というキャラだったら、ごますりっぽい人物像にするなど、絶妙な翻訳がされています。
日本語にも、若者言葉や硬い口調などいろいろな言葉遣いがありますが、英語は日本語以上に言葉遣いの違いがあるので、それを利用してうまく訳しているんですね。こうした逐語訳ではない字幕作りは大変だと思うんですが、その分、作品愛を感じます。
私も昔から日本語の小説を英語に翻訳してみたいと思っていたんですが、日本語→英語の置き換えはかなりクオリティが上がっているので、英語→日本語の字幕などやってみたいですね。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J‐WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。「今に見てろ」をグーグル翻訳にかけると、"Mitero Now"と表示される