「すぐに入眠する『寝つきのいい人』って実は睡眠の質が悪いんです」と語る山口真由子氏

厚生労働省の調査(2017年)によると、20歳以上の日本人の約4割は平均睡眠時間が6時間未満。また、国民の半数以上に不眠症の疑いがあるという調査結果も出ている。さらに、一昨年の新語・流行語大賞に「睡眠負債」がノミネートされるなど、日本はまさに"不眠大国"といえる。

『3時間の睡眠で8時間分のリフレッシュができるハイパフォーマンス睡眠』の著者、山口真由子氏は日本で数少ない睡眠の専門家だ。睡眠栄養指導士協会の代表理事を務める山口氏は、「睡眠は時間とパフォーマンスのかけ算で決まる」と主張する。不眠から解放されるためにはどうすればいいのだろうか? 年間3000人に教えている「快眠メソッド」を聞いた。

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──山口さん自身、大学卒業後に金融機関で働いていた頃、睡眠不足に悩まれたそうですね。

山口 寝不足の毎日でした。会社員時代、リーマン・ショックや東日本大震災があって、将来が不透明になっていました。そこで、さまざまな副業に手を出したり、独立のための人脈づくりをしたりして睡眠時間を削っていたんです。

その結果、健康診断で高血圧、尿酸値異常を指摘されるなど、体を壊してしまいました。それをきっかけに睡眠の大切さに気がつき、睡眠学を学び始めたんです。

──業種や職種にかかわらず、日本人は寝不足の人が多いですもんね。

山口 日本は世界一、睡眠が不足している国といわれています。すっきり目覚められず、日中も集中が続かない人は多い。私自身も睡眠を犠牲にして働いていましたが、仕事中は眠気との闘いでした。

──自治医科大学の研究によると、睡眠時間が6時間以下の人は7、8時間の人より死亡率が2.4倍も高くなるそうですね。

山口 睡眠障害は高血圧、糖尿病、心臓病、がん、脳卒中、心筋梗塞(こうそく)、うつ病など精神疾患のリスクを高めることもわかっています。健康管理で食事と運動には気を使いますが、睡眠は置き去りにされがち。自分の睡眠のどこに問題があるのか、どうすれば改善できるのか、わかっている人は本当に少ないんです。

──山口さんのところへ相談に来る人は、どういう問題を抱えていることが多いんですか?

山口 「すっきりと起きられない」「午前中は仕事に集中できない」という方が多いですね。「寝つきはいいんですが......」という方もいらっしゃいますが、実は就寝してすぐに入眠する人って睡眠の質が悪いんですよ。

──不眠症には寝つきが悪いイメージがあるので、意外です。

山口 寝つきがいいということは体が極度に疲れていたり、不調だったりする可能性が高いですからね。多くの方は、夜中に何度も目が覚めたり、眠りが浅かったりすることを睡眠障害ととらえていると思いますが、寝つきがよすぎる人も睡眠障害を疑ったほうがいいですね。

──なるほど。具体的にはどうすればいいんでしょうか?

山口 睡眠は体を起こす覚醒ホルモンと、体を眠らせる睡眠ホルモンのバランスで決まります。つまり、就寝中に睡眠ホルモンが多く分泌していれば、ぐっすり眠れます。

しかし、ホルモンバランスが悪いと、体内時計が崩れてしまい、睡眠の質が落ちる。このバランスをコントロールすることで、睡眠のパフォーマンスを上げられます。

──眠るときには副交感神経、起きているときには交感神経が優位に働くとされますよね。

山口 光を浴びたり、ストレスを感じたりすると、交感神経が優位になって眠れなくなる。逆に、副交感神経を優位にさせることが、睡眠パフォーマンスの向上につながります。そのための方法を本書でいろいろ紹介していますが、一番重要なのは睡眠ホルモンの材料となる栄養を朝食で取ることです。

──なぜ、朝食なのでしょう?

山口 睡眠ホルモンはメラトニンという脳内物質なのですが、材料となる栄養を摂取してからメラトニンが生成されるまでに14~16時間かかります。つまり、朝食で何を食べたかによって変わってくるのです。

──なるほど。どんな朝食がオススメですか?

山口 とにかくバランスよく、ビタミン、ミネラル、アミノ酸を取ることです。特にトリプトファンというアミノ酸、ビタミンB6、マグネシウムを取ることを心がけてください。

トリプトファンは白米、大豆製品、乳製品、鶏卵・魚卵、肉類、魚類、ナッツ類など、ビタミンB6は青魚、ニンニク、牛レバー、鶏肉、ゴマなど、マグネシウムは大豆製品、ナッツ類、海藻などに多く含まれています。伝統的な日本の朝食がオススメですが、サプリメントもありますから活用してください。

──朝食以外に食事面で気をつけるべきことはありますか?

山口 就寝直前の夕食は、消化するために覚醒ホルモンが分泌されるので、睡眠が浅くなります。また、お酒は睡眠学的には絶対NG。寝つきがよくなるから睡眠にいいと思っている方もいますが、睡眠の質が落ちます。

入眠して最初の90分から3時間が一番深く眠れますが、お酒を飲んでいるとアルコール分解のために覚醒ホルモンが分泌されるので睡眠が浅くなる。また、飲酒量が増えるほど血圧は高くなりますが、高血圧は眠りを妨げる夜間頻尿の原因になります。

──まさに負のスパイラルですね......。睡眠不足は万病の源だということがお話を聞いてよくわかりました。

山口 また、生活習慣病ではありませんが、睡眠不足が原因で副腎疲労症候群になっている方も多いんです。副腎はコルチゾールという覚醒ホルモン、抗ストレスホルモンを分泌していますが、本来、分泌は朝起きたときに多く、夜になるにつれて少なくなる。

しかし、睡眠不足で副腎が不調に陥るとそのサイクルが真逆になってしまいます。その結果、目覚めが悪くなり、日中は集中力を保てず、夜は熟睡できなくなるのです。

──間もなく高温多湿の季節。寝苦しいなか、熟睡するにはどうすればいいでしょうか?

山口 この時期はやはり、エアコンをしっかり活用すべきです。深い睡眠に入るときに、適正な温度、湿度を保つことが重要です。壁や天井、家具に熱がこもっているので、室温はすぐに下がりません。

だからこそ、就寝する数時間前からエアコンをつけておくのがポイント。また、部屋をむらなく冷やすためにエアコンの吹き出し口を水平にし、就寝中はつけっぱなしにしたほうがいいですよ。

●山口真由子(やまぐち・まゆこ)
1984年生まれ、福岡県出身。立教大学卒業。大手金融機関に就職する一方、複数の副業をかけ持ちするなど、睡眠時間を削る日々を過ごす。結果、体調を崩したことをきっかけに、睡眠学を学び始める。2017年に一般社団法人睡眠栄養指導士協会を設立、代表理事に就任。現在、睡眠専門家を育成するとともに、睡眠改善のノウハウ、睡眠パフォーマンスを向上させる秘訣を広めるべく、セミナー、コンサルティングなどを中心に活躍している。本書が初の単行本となる

■『3時間の睡眠で8時間分のリフレッシュができるハイパフォーマンス睡眠』
(マネジメント社 1400円+税)
国民の平均睡眠時間が世界的にも短いとされる、不眠大国ニッポン。程度の差こそあれ、多くの人が睡眠障害に悩まされているが、実際のところ、どのような原因で寝不足に陥り、どうすれば改善できるのか把握している人は少ない。本書では、睡眠栄養指導士協会の代表理事を務める著者が、睡眠の質を向上させるための秘訣を伝授。セミナーで年間3000人に伝えている「快眠メソッド」を実践すれば、睡眠の質=パフォーマンスが向上される!

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