コモド島でコモドドラゴンを見届け、マンタと泳いだ後は、ウッドボートでゆっくりとラブアンバジョの港へと帰る。
一日中、太陽を浴びて疲れた私が舳先(へさき)でぼんやりしていると、船のキャプテンであるセン君が隣に腰かけてきた。
「君はシングル? 僕はもう25歳で結婚の時期だ。僕と結婚しない? アミ(船に同乗のアシスタント)はまだ17歳で、アイツは奥手だからダメだよ」
インドネシア人の結婚平均年齢は約24~27歳で、私たちのような東京に住むこじらせ女子やAK男子(あえて結婚しない男子)のような人種とは感覚が違う。
サンセットを背負ったロマンチックなシーンで突然のプロポーズ。チョンと肩をぶつけてくる25歳男子よ、テリマカシ(ありがとう)。軽口だとはわかっちゃいるけれども、インドネシアでは日本人女子はやっぱりモテる気がする。
それほど英語のできないセン君とは、これ以上あまり会話にならないため、セルフィーの「SNOW」アプリで遊び、やり過ごした。
港に到着すると、今日もフィッシュマーケットが煙を上げ始めている。テーブルには魚やイカが並んでいて、種類や重さで値段を払い、調理してもらうスタイルだ。
女性たちが玉子やナスやインゲンを揚げ、男性や少年は客を勧誘したり、地面に置いたタライでエビや魚のワタを落とす作業をしている。屋外だが洗い場はしっかり作られていて、食器はそこできれいに洗われていた。
コモド島旅をシェアした友人と、最後の夜をビールで乾杯し、私たちも夕飯にしようとメニューを吟味した。英語表記はなく、こんな時、現地の言葉がわかる友人がいるのは心強い。
「イカンが魚でバカールは焼く。つまり焼き魚ね。ゴレンがフライ(素揚げ)。チュミはイカ、ウダンがエビだよ。う~ん、イカ1杯高いなぁ、なかなか観光地価格だねぇ......」
別の候補を探しに夜道をフフラフラと歩き続けると、メインストリートにはフィッシュマーケットよりもさらにローカル感たっぷりな屋台がポツポツとあった。
まず中華料理の胡麻団子を小さくしたような「オンデオンデ」の屋台では、1万ルピア(約80円)でビニールに23個ほど放り込んでくれた。かじってみると中には乾いたカスタードのようなものが入っていて甘くて美味しいおやつという感じ。
次は名前が定かではないが「サロメ」と書いてある屋台で、タピオカでできたモチモチの団子は1個たったの1000ルピア(約8円)。串カツのように一度ソースにくぐらせて渡される。
「おい。おまえにこれの食べ方を教えてやるぞ。食べ終わった後の串は地面にこうだ!」
ドレッドヘアの男性客が地面に向かって力強くポイ捨てした串が、私の足にささった。イタイんですけど。
一口サイズのものばかりでまだまだ空腹の私の目に飛び込んできたのは、黄色いお米にたくさんの種類の具が乗ったものだった。
名称を聞くと「イエローライス」と見たまんまのネーミングで、インドネシア語だと「ナシクニン」と言って伝統料理だそう。
ターメリックやココナッツで炊いた米の上に鶏肉や玉子、ミゴレン(焼きそば)、クルプック(揚げると膨らむえびせん)、ジャグン(揚げとうもろこし)、テンペ(大豆)など。
皿にドーンと盛られたボリューミーなそれをフォークですくい上げ口へ運ぶと、「ん! お米が甘~い! エナ(美味しい)! エナスカリ(とっても美味しい)!」
ココナッツの効果だろうか、甘みのある独特な香りや味はこの土地独特で舌も心も大満足。日本で普段ココナッツにありがたみを感じることはないが、不思議なことにこの土地だとすごく合っていて美味しいのだ。
そして端に盛られた激辛サンバル(スパイス)を足すと、その刺激で一層ビールが進んだ。鼻水がとまらずテーブルにあったティッシュで鼻をかむ。物価の安い国で貴重な(?)ティッシュが屋台に無料で置いてあることに良心的だなと思ったり。
お腹にはかなりのボリュームで、これがたったの2万ルピア(約160円)なんて、感動モンだ。
日焼けで疲れた体にお酒がすぐにしみわたり、私たちはだいぶ酔っぱらっていたが、ラブアンバジョの治安は悪くないように感じた。
夜になると外にあふれ出した子供たちが1台のスマホに群がっていた。私がスマホを出すと、ワラっと集まってきてカメラにとびきりの笑顔をくれる。
「なんだかバリ島などに比べて子供は愛想が良くって人懐こいね~。バリ島より田舎だからかね~。カトリックだからもあるのかね~」
酔っ払いの私たちはココナッツ肉まん4000ルピア(約32円)を頬張りながら海辺で語り始めた。
「ところで、私たちって結局どこに住みたいんだろうね?」
と私が問うと、バリに住む友人はこう答えた。
「うーん。もし東京に住むならやっぱりお金に余裕があって、美味しいもの食べたり話題のスポットに行ったり、そんな自由が利く生活だったら絶対楽しいよね。でも東京は物があふれすぎちゃって、なんか無意識に人と比較することが当たり前で、マウンティングになってたりするよね......。
バリ島もローカル同士そういうのがあるだろうけど、でも、『それはあなたの幸せでうらやましいけど私の幸せじゃない』っていう感覚がもっとある感じがする。
あと海外全般そうかもしれないけど、自分の家族のことをすごく誉めるんだよね。そういう部分での幸せの感度が高いっていうか......」
そんな話で盛り上がり、安宿に帰るといつのまにか宿スタッフとも仲良くなりおしゃべりは続く。
「昔、教師をしていたけど給料は100万ルピア(約8000円)で家族や子供がいたらやってはいけないよ。ラブアンバジョの平均月収は180万ルピア(約14400円)で、バリの平均月収が280万ルピア(約22400円)。
バリのホテルでホスピタリティーを修行してから、今は家族の近くで過ごしたいと思ってこの島に戻ってこの宿で働いているんだよ」
なるほど、やっぱり彼らの考え方は家族中心である。そんな彼らもまだ年齢は20代。
未だ独り身で放浪を続ける私にはなかなかできないチョイスであるが、人生の選択肢が多すぎて迷走している私にとって、自分の居場所を見つけた人たちが少しうらやましくも感じた。
【This week's BLUE】
マンタとの遭遇! 左の黒い影がマンタ! 大きいよ!
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第229回「高級リゾートホテルに"タナボタ"泊。旅人にインドネシアの神が微笑んだ?」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】