インドネシアのフローレス島、ラブアンバジョも5日目。コモド島へ行く目的を達成した私の次の予定は未定。
小さな町の人たちとは顔見知りになり居心地も良くなってきたが、沈没するわけにもいかないので、そろそろここを出なければ。
「そうだ、横断しよう」
私はJR東海の「そうだ、京都いこう。」のキャッチコピーがずっと好きで、どこかへ出向く時にはいつもこれが頭に浮かぶ。
先日お世話になったツアーオフィスのオーナーのプトゥが、近々このフローレス島の東方へ向かうと言っていたので、その情報についてたずねることにした。
連絡を取ったのはある晩、すでに22時頃だっただろうか。すると、
「今エンジェル島にいる。このあと3日間でいろいろな島を周るんだ。君を特別に招待するよ! 個室も用意するし、僕の友達のアメリカ人カップルとフランス人女子ふたりがいるから安心して。もし来たければ今から船で30分以内に迎えに行くから!」
なんと。島横断とは全く別の話だが、思いがけないスペシャルオファーに心が高鳴る。
突然の誘いに決断を迷ったが、先日彼の船に招待された時も紳士的だったし、バリ在住の友人も「信用できる人だと思う」と言っていたし、きっと大丈夫だろう。返事を急かされ思わず「YES」と答えた私は、とりあえず荷造りを始めた。
すると背後から、「おい、こんな時間にどこに行く気だ!」。顔見知りの宿のスタッフが驚いて聞く。
まるで夜中にこっそり夜遊びに出かけるコと、それを見つけた親のようなシチュエーションだ(実際、私も過去にはそんなこともありました)。
「え......、かくかくしかじか、友達が船で迎えに来るから急遽チェックアウトしようと思って......」
「友達? わざわざ夜中にスピードボートで迎えに? そいつは本当に"友達"かい?」
彼らの言うことはもっともだと思う。相手は最近、知り合ったばかりの人だ。疑いたくはないが警戒するのは当然のことであり、賭けでもある。
メンバーだって本当かどうかわからないし、万が一、船に悪い仲間が待っていたとしても海の上では逃げられない(地上よりもっと不安がある)。
貴重品や全ての荷物を背負っての"鴨ネギスタイル"で行くことになるし、それに彼が誘ってくれる理由には、なんとなく私への好意もゼロではない気がする。
夜中の海に出るのも正直コワイし、先日夜の船へ招待された時は友人も一緒だったが、今回は私ひとりだ。考え出すと不安がどんどん膨らんでいった。
とはいえ貴重な旅のチャンスだし、そもそも連絡したのは私で、向こうから罠を仕掛けてきたわけでもない。考えすぎては旅ができない。とにかくもうこちらに向かっているだろうから、(来てから断るのは悪いが)どちらにしろ考える時間は30分。
宿スタッフに私の気持ちも含め全てを話すと、「君はうちの大事な宿泊客なのだから、こちらにも君を守る責任がある。全力でヘルプさせてくれ」
なんて正義感のある優しい人たちなのだろうか。
そんなわけで、一度プトゥを宿に連れてきて、挨拶した上で私を預けようということになった。
しかし、迎えに来てくれたプトゥはもちろん嫌な顔をしたし、男と男が対面した時、なぜだろう、静かなるオラオラムードが生まれ、険悪な雰囲気になってしまった。
これ以上宿の人に迷惑かけるわけにもいかないし、私はプトゥと外で話すことにした。やはり断るのが無難だろうか......。
「あいつら俺にシットしてんのさ。船も持ってるし、俺はこの島の人間じゃないし。てゆうか正直気分が悪いな。チェックアウトは客の自由だろう。さぁ、行こう!」
「プトゥごめん......。私やっぱり行くのをやめようと思う」
「なんで? どうしたんだい?」
「正直ね、私がとってもビビっていたの。出会ったばかりで信用して良いかもわからないし、海の上について行くのが怖いんだ」
「そうか......。そしたら無理にプッシュしないよ。でも俺が悪いヤツに見えるかい? 参ったなぁ(笑)。とりあえず部下も待ってるし、僕も彼もあまり寝ていない。このままだと波も荒くなるから、あと30分以内で出ないといけないな......」
たしかに彼の眼は真っ赤で充血していた。私はまた先程と同じ様に悩み、1時間くらいプトゥと話した後に、もう一度覚悟を決めて、彼を信じることにした。
宿に荷物を取りに行き、スタッフには「私は必ずここに帰ってくるから心配しないで」と言い残して出て来た。私の勝手な行動で心配をかけ、大げさなことになってしまい申し訳ない気持ちで少し落ち込んだが、
「私は旅人。今夜この海に出なければ!」
なぜかそんな気持ちであった。暗い夜道、外で横になって寝ているプトゥの部下を起こし、3人で小さなスピードボートに乗り込んだ。やっぱりコワイ。
夜中の海はさらに真っ暗闇で、プトゥの言うとおり、波が高くなり荒れ始めていた。月明りの下、渦を巻いたカレント(海流)が罠のように待ち受け、ボートはそれを上手に避けていく。
「コワイかい?」
「ううん......。多分大丈夫......。でも私はなんだかここにいるのが不思議で仕方がない」
すると突然、スピードボートのエンジンが止まった......。
「え......?」
「大丈夫だ。こういう時は神頼みのジンクスがある」
プトゥはタバコに火をつけると、すぐに海に投げた。
「え。海、汚すパターンやん」(ポイ捨てに、ふと恐怖心を忘れツッコミを入れた瞬間)
「神様にタバコをお裾分けしたんだよ。エンジンは戻るさ」
「は? ふざけ......」
ブルルルル......。不思議なことに本当にエンジンは動き出した。その後も2度ほどエンジンは止まったが、その度にジンクスだと彼がタバコを海に放り投げてはエンジンは復活し、出発から1時間ほどかけて彼の船へ辿り着いた。
ひとまず、海原でのトラブルは回避できたので、命は無事。その時、とにかく私の神経はドッと疲れていた。
2段ベッドの個室を用意してもらい、それでも私はまだ何かに怯えていたのだろうか、小さくうずくまって眠りについた。
朝方、男女のキャッキャとした英語が聞こえてきた。ギギギィ~と潮で傷んだ木の扉をスライドさせると、太陽の光が目に眩しかった。
みんなが朝のアクテビティに出る背中を見て、プトゥが言っていたことは本当だったと、ホッと胸をなでおろす。
でもまだ緊張がとけない中、船のクルーらしきおじさんにコーヒーを渡されて、私はそれをすすった。
しばらくして船に帰ってきたのは、アクティブそうなアメリカ人のカップルと、180cm近い高身長のフランス人女子ふたり。
「あら! プトゥが連れてきたコね! ウェルカム、マリー!」
今日からこのメンバーで海の上で過ごすのか。不思議な船旅が始まった。
【This week's BLUE】
船の高いところからダイブ! 海の透明度高ーい!
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第231回「星空の下、最高にロマンチックな船上プロポーズの答えは......?」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】